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特別編 悩

 神楽はいい子だった、と思う。

 素で話してくれるから気負いもなく、俺としては妹のような存在だ。神楽があの世界へ行くと聞いた時、俺とゾーロ、ニフテリザは猛反対した。他の奴らと違い、私情で神楽に入れ込んでた奴らだからな。興味ではなく、好意だった。


 でも神楽が頑として譲らないとみると、俺はすぐ了承した。最後まで反対していたのは、意外にもニフテリザだ。今でこそ『眷属』として神楽を見られる事を嬉しそうに話しているが、その条件を提示されるまでは怒りを顕わに万智鶴へ掴みかかっていた。

 もちろんそれを止めるのが門番の役目だが。

 その時は頭を抱えたものだ、と懐かしく思う。


 それの、再来だ。


 皆が執事と呼ぶあいつ。あいつの事は皆『神楽の事を好きな同類』としか認識していなかった。まあ、神などそんなものだが。

 だがここ最近、あいつが神楽に接近してる事により、皆の様子がいつもと違う。


 セプスは苛々と業務を放っているし。

 ニフテリザは映像を見てピンとアイルズを指で弾くし。

 万智鶴は映像を見て笑いつつ殺気を放っているし。

 ゾーロはいつも悔しそうな悲しそうな顔をしているし。

 彩里とトワルは業務がものすごく捗っているし。


 最後のは性格が悪いとしか言いようがないが、他の奴らのは困る。その皺寄せが門番の俺に来るのだ。あいつが業務を放っていれば放っているほど、獄狼が入り込んでくる。

 ちなみに獄狼とは、地獄から抜け出してきた地獄の門番である。万智鶴が悪戯で創った。万智鶴曰く『サボリ除け』だそうだが、本人の万智鶴がああじゃ意味がないだろうと声を大にして言いたい。


 今日は(神の間で時間の概念は薄いが)順番に説得していきたいと思っている。


 まずはセプスだ。セプスの『空間』はどこだったか。

 無数の門を前に、俺は思考した。あいつは『蛇』だからな。さあ、それを踏まえると。

 俺はウロボロスの模様が描かれた小さい門に触れた。パア、と門が光って開く。


 セプスはこちらをじろりと見て、はっ、と馬鹿にしたような声を出した。ムカつくな。


「なんだ、門番様のお出ましか。最近の蛇による被害件数が増加してる事に関してか?それとも神楽の事か?」

「両方だ。お前、自分の仕事忘れたか」


 わざと挑発するように言うが、神一の切れ者であるセプスはにやっと笑ってそれだけだ。

 どうするか。仕事に付いて説いてもこいつとの論争は無意味だ。感情論でない限り。


「頼む、獄狼達が湧いてるんだ。お前だって、神楽に蛇の魔獣の始末をさせたくないだろう?」

「だったらあの執事を始末するのが先だな。それだったら皆スッキリして獄狼などすぐに逃げ出す」

「いや、俺が皆を説得しに行くところだ。多分国民が被害に遭えば、お前、神楽に会った時嫌われるぞ」

「う……分かった。仕方ないな」


 効果抜群、セプスは渋々書類に手を伸ばした。

 セプスさえ論破すれば後は簡単だ。次、俺はニフテリザのところへ行った。あいつは仕事はしているが、遅くなっているんだよな。

 俺は蝙蝠の門に触れ、ニフテリザのところへ行った。



「よう来たなあクーストース。何の用やのん?」

「……」


 こいつだけは門の前触れを見分けるんだよなあ。ったく、敵わない。

 ちなみに、戦力的に一番強いのは俺と万智鶴、次はゾーロとトワルだが、精神的に強いのは万智鶴とニフテリザではないかと俺は考えている。


「仕事しろ」

「嫌やて言うたら?」

「あいつの口癖真似するな。いいからやれ、上司命令だ」

「ふう、セプスには情に縋ったっちゅうのに、うちには厳しいんやからもう。んで、具体的に何すればええのん?命令するなら具体的にしてや~」

「具体的にか?」

「言えんなら従わんよ。どうするん?」


 こいつ、結果的にやる癖に難癖付けてくるっていう……なんて厄介な奴なんだ!

 俺は苛々しながら仕事を探す。そして思い当たった。


「最近のあの王国の監視だ。人族の」

「ええ?それは万智鶴の管轄やろ?」

「少しは手伝え。じゃあな」


 俺は次、白い雪に塗れた鶴の柄をした門に触れ、万智鶴のところへ行った。

 さあ、どうやって言いくるめるか――


「いいですよ」

「ハア!?」


 俺が着くなり、万智鶴はそんな事を言った。こちらを見ると、にこりと爽やかに笑う。いつもと同じだが、この真っ白な空間に居ると頭がおかしくなりそうだ。

 と言うか、いいですよってなんだ。


「あなたが直々に来てくれましたからね、やりましょう。仕事をちゃんとやれ、と言いたいのですよね?殺気を放つな他の奴らが委縮すると」

「あ、ああ」

「では従いますよ。門番が門を放ってまで来たって事は、ええ、獄狼がすごく出ているようですからね。次はゾーロですか?」

「そうだ」

「ならこう言ってあげればいいですよ――『仕事をしないと神楽と会えない』とね」

「……どういう意味だ」

「そのままの意味です。あなたがが手伝わないって言っただけですよ。あちらと門を通じるには、あなたの門が必要ですから」

「なるほど」


 あろう事か助言してもらえるとは……屈辱だ。

 万智鶴はさっと椅子と机を作り出した。ご丁寧にも操作魔法で。そして座り、異空間から取り出した本を読み始める。自由な奴だ。

 次、俺は銀狐と金狐が対象に描かれている門に触れた。その途端、万智鶴が嫌らしく笑ったのは、気付いていないふりをする。気付いたと分かれば何をされるか。

 謎な神はこれだから嫌だ。


「――何の用だ」

「全員出迎え方が似てるな」


 なんとなく納得しながら、ベッドの上で寝ていたゾーロの方へ近寄る。その途端、凄まじい瘴気が体を襲う。

 っ!

 退避。前方のゾーロを睨みつつ、目を瞬いた。ゾーロは手を伸ばすと、拳を握る。瘴気が一瞬にして無くなり、ゾーロの手の中には正気の塊と思しき黒い空間が現れた。

 こいつ!


「ゾーロ!やめろ!お前、まさか瘴気を取り込んだ門を作る気か!」

「いいだろう。被害を被るのは俺だけだ」

「やめろ!いいから瘴気から手を離せ!異空間へ投げ捨てろ!あとは俺が始末する!」


 声を張って叫ぶ。何もない空間に、声が鳴り響いた。

 通常、門と門が通じてから一週間はかかり、神楽がこちらに来る。それが、瘴気を取り込んだ場合一時間で済む。しかし、代償として大量の精力を失う。それはもう心はズタズタになり、あの幼女夢魔だってその精気を食べたら吐くだろう。

 俺は一歩踏み出すと、衝撃波を生み出した。それが、ゾーロへ向かっていく。


 ゾーロはあっさりと手を離した。多分、もう限界だったのだろう。瘴気を生み出せば生み出すほど、疲弊し、憔悴していく。

 万智鶴は何を言ってたんだ。

 こちらを睨み付けるゾーロを見て、思わずたじろぐ。

 こんな奴に、仕事しろ、なんて、言えないだろ……。


「とりあえず、休め。仕事は俺が引き受ける」

「いい……安易な考えだった。謝る」

「いや、未遂で終わったから別に構わない。だが、ああ、安易だが」

「クーストース」


 名前を呼ばれて、前を向く。ゾーロは疲弊しきった顔で、目を閉じた。


「神楽は将来、誰と結婚し、傷付くのだろうな」

「……さあ」


 魔王は不死身。

 周りの人間は見る見るうちに老けてゆき、大量の死を見るだろう。

 だけど、どうだろうな。


 夢魔の幼女に、夢魔であり狼男である兄者。

 剣の一族と言う特殊な家庭で生まれた、青髪。

 霊魂族という霊魂を操り自らさえも冥府に行く事はない、医者。

 すべてのルールから外れた爪弾き者の、弟子。

 『隔離者』ではあれど、不死である庭師。

 銀狐である少女。

 猫族族長の孫である少年。

 

「少なくとも不死の奴が、三人は居るな」

「そうだな」

 

 夢魔の幼女。庭師。銀狐。

 この三人は、長寿どころではない、寿命がない病床に伏す事さえ、魔王が居れば許さないだろう。

 しかも、


「兄者に青髪、医者。この三人は限りなく長寿だろうな」

「だろうな。きっとずっと死なないに違いない」

「それに弟子は人族でありながらも未知の体だ。猫族の族長だって、戦死しなければあと千年は生きただろう」

「ああ」


 そう考えると、恐らく、魔王の周りに居る奴らが死んで魔王が悲しむのは、もっとずっと後の事のように思えた。


「しかも全員強いし」

「戦争になっても絶対負けないだろうな」

 

閲覧ありがとうございます。

クーストースは門を操り、一瞬でどこにでも行けますが、さすがに魔王の部屋と繋ぐ門を創るのには相当な時間がかかります。

次回、ミルヴィアの一週間です。

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