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95 窓辺で話


「よお、魔王」


 三百四号室で操作魔法についての本を読んでいると、窓から声がした。アイルズもエリアスももう帰って、この部屋には私とユアンだけ。

 その声に聞き覚えがあったもんで、ウンザリしつつ振り向いた。そこには窓辺に座り、窓枠に背を預ける格好をした猫耳が居た。


「よお、少年」

「魔王って働き者だよなー。聖民の日は予定なし。多分前日のあいつとの訓練についての反省点でも見出すのか?火民の日は操作魔法の予習、復習。水民の日は操作魔法の授業へ行く。帰ってくれば復習。木民の日は操作魔法の予習復習。恐らく理論も理解するつもりなんだろ。金民の日は操作魔法の授業。地民の日は休日、でも何かしらするつもりなんだろ?闇民の日はあいつと訓練だし」

「誰から聞いたよそれ……」


 すげえ。なんで把握してんだろう。まだ予定立ててる段階だったのに。お兄様とコナー君とエリアスにしか言ってないのに。

 そう思ったら、少年は窓の外を指しながらにやりと笑った。


「庭師に聞いた」

「あー、じゃあいいや」

「お前あいつには甘いよなあ」


 少年は尻尾をしゅるしゅる動かしながら言った。モフりたい。

 窓辺から降りないつもりかなー。降りりゃあ良いのに。あれかな、お兄様来たらすぐ逃げるつもりかな。ならいいけど。


「っつーか、お前、天智との訓練どうするつもりなんだよ」

「ストップするつもりだよ?もちろんユアンのも。しばらく剣ばっかりやってたから、本業に戻ろうかと思ってね」

「途中で会ったけど、あいつかなーり落ち込んでたぜ?ちっとは顔見せてやれば?」

「だめ」

「なんでだよ。あいつには厳しいよな」

「ビサには少しだけ独立性を見に付けてほしいからね。それに私とユアンとばかり戦っててもワンパターンになるだけ。だめだめ、少し距離を置きたいの」

「で、本音は?」

「魔法に集中したい」

 

 そもそも私、魔法派だし。何よりも操作魔法が使える貴重な人が側に居たんだ。集中したいって思うのは当然じゃん。

 それに今行った事だってあながち間違ってはいないと思う。私とユアンとビサ、結構戦い方が似てきちゃってる。他の人と戦った方が良いに決まってるでしょ。


「まあ、俺からは何も言わねえけど。あいつかなり楽しそうだし。けどよ、アイルズって野郎には気を付けろよ」

「何それ、悪人だから?」

「本人同意の上なんだろ?そんぐらいの分別は付く。あいつは悪人じゃあないな。俺としては嫌いだけど」

「さて、どうして」

「どうしてでしょう」

「当ててあげよっか」

「良いぜ、当ててみろよ」

「少年と狐ちゃんの事を無種族だなんて言うようなやつ、大っ嫌いだもんね」


 笑って言うと、少年はにやりと笑った。猫目がきらりと光る。

 その通り、とか言って、少年は私に向けて小さい氷の飛礫を投げつけてきた。全部、飛礫で防いでやる。少年が楽しそうに笑った。


「まあ、俺はあいつの事大っ嫌いってほどでもねえよ。確かに無種族なんざ侮辱だ。侮蔑だ。けど、俺はそこの剣の一族よりかいいと思うがね」

「へー、意外……でもないか。当然だね」

「そうじゃなくて。私怨抜きにしても、信頼を失ってでもお前の事手に入れようとする奴は悪い奴じゃあねえと思うがな」

「覗きは趣味が悪いからやめな。普通に忠告するけど」


 まあ、私も同感だけどね。信頼を失ってでもって姿勢は、案外、嫌いじゃない。

 私は椅子に座ったまま、横目でユアンを見た。いつも通り笑って、私を見ている。……ふうん。


「剣の一族だって嫉妬するだろうしな。お前が良いって言うならどっちでもいいけど」

「いい。私だってユアンと一緒ってのも疲れる。アイルズは面白いし、いいんじゃない?」

「気の毒に。残念だったなあ剣の一族」


 性格悪っ!私が言った言葉拾って投げつけたっ!

 ユアンを見ると、ユアンはにこりと余裕で笑っていた。これはこれでむかつくなあ。


「別に大丈夫です。それでもそばに居るのは私ですから」

「ユアンと、アイルズと、お兄様と、エリアスと、ビサね」

それだけか(・・・・・)?」

「……レーヴィと、コナー君と、狐ちゃん。少年もそうかな?」


 少年の煽るような言い方に、思わず反応してしまう。少年は、にやりと笑った。


「たくさん居るなあ。幸せ者だなあ、魔王は」

「え、そう?」

「ああ、すっげー幸せもんだ。だから魔王、願いを聞け。いや聞いてくれ」

「えー、何?」

「ここにある本、三冊ほど貸してくれ」


 硬直した。ホント、体が石になったかと思うくらい。

 えっとね。

 それ、ばれたらお兄様に怒られるの、私なんだけど。


「俺が盗んで行ったって事にしていいから。逃したって事にしておけ」

「えー。やだよ。てかユアンが捕まえちゃうと思うし」

「じゃあ何も言わずだまってりゃいいだろ。得意だろ、嘘吐くの」

「大の苦手」

「お前、森で鬼化した時どうやって治ったんだよ」

「え?普通に血を飲みましたけど?」

「どうやって飲んだんだよ」

「首筋に噛み付きましたが何か?」


 少年が面白そうにくつくつ笑う。

 ふん、笑え笑え。この本は決して貸す事はない!


「それ、お前の兄さんに告げ口するぜ?」

「三冊くらいどーぞ!何ならお兄様への言い訳もします!」

「はは、さんきゅーな。えーっと」


 本を三冊抜き取ると、少年はひらりと手を振って窓から飛び降りた。

 結構分厚い本だったけど、大丈夫なのかな。バランス崩さない?

 ……………。

 あの本の題名、『種族間の謎』だったなあ。

 変な事起こさなきゃ、いいけどねえ。

閲覧ありがとうございます。

少年は狐ちゃんと情報共有してますから、その部分でも情報通です。何より聞き出すのが上手いっていうのもあるんですけどね。

コナー君は素直ですからね……。

次回、特別編です。クーストース視点になると思います。

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