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94 怒ってます

 ユアンは帰ろうとなった時、アイルズにご同行願った。恐らくお兄様への報告のためだ。

 それに加えて、自分は私の命令で動けないからお兄様に叱って貰おうというユアンの思惑があると思うんだけど。

 帰り道、それはそれは目立って仕方なかった。身形の良い騎士服のユアンに、黒い服装のアイルズ。その間に居るのはローブを着た女の子?しかもその騎士服と黒い服の人有名人で?


 こんなん原宿に居ても目立つわ!原宿行った事無いけど!

 

 目立ちたくない私は苛々しながらズカズカ進んでいた。途中声を掛けられそうになれば、ますます早足になる。頭の中はお兄様への言い訳で一杯だった。

 どーしよう、アイルズってなんでこんな初日からやらかしてくれるんだろう。

 やばいなあ、分かりやすいから教師はアイルズがいいのに。押し切るって言う選択肢もあるにはあるけど、お兄様もユアンも私の事心配してくれてるわけで。

 そうなると押し切りづらい。


 そうこう考えてる間に、屋敷に着いた。

 っちゃー、どうしよっかなあ。


「……何故お前がここに来た?」


 いきなり聞こえてきた声に、私は門の側を見た。眼鏡をかけたエリアスが、鋭くアイルズを睨んでいる。アイルズはモノクルの奥の目を面白そうに細めた。

 ……こっちが聞きたいんですけど!?


「エリアス、なんでここに居るの?」

「アイルズが何かやらかす事は確定していたからな。カーティスはタフィツトだぞ」

「エリアスも来るの?」

「当たり前だろう。アイルズが来たとなると、かなりやらかしたな。ユアン、とりあえず殺気を仕舞え」

「嫌です」


 ユアンのこれは殺気と言うより敵意と悪意だけどね。アイルズに対しての。

 というより、ますますまずい事になったなあ。せいぜいお兄様に対して情に縋ればとか思ってたけど、エリアス相手じゃそれも厳しいや。

 それにエリアスが出て来たのは、私を心配してと言うよりアイルズにこれ以上何もさせないためっていうのが大きいだろうし、うー。


 ここの所ハプニング続きだから、なるべく何も起きなければいいとか考えてた私が馬鹿だったわ。前世みたいに、学校行って、授業受けて、帰って、おやつ食べて、宿題やって……っていうような平坦な日々はもう訪れてこないのね。

 無念。


「何をされた?」

「別に、なーんにも。ただユアンが嫉妬して怒ってるだけ」

「……」


 でも実質、何もされてないんだけどなー。ただ引き寄せられただけで。で、私が挑発しただけ。

 何が嫌なんだろう。私、皆の所有物じゃないんだけどな。


「だろうな。俺らがお前の所有物だ」

「久しぶりの読心術、ご苦労さま。けどねエリアス、私は所有してるつもりないよ」


 ああやばい、どうしよう。

 考えてるうちにタフィツトに着く。結局考えがまとまらない。

 ええい、ままよ!


 コンコン


「お兄様、ミルヴィアです。ユアン・アイルズ・エリアスも一緒です」

 

 カチャリと扉が開く。お兄様の表情は、どっちかって言うと呆れたような表情だった。


「やっぱり」

「お久しぶりですカーティス様」

「久しぶり?笑わせるね、僕としては何年経とうが一生会いたくない」

「魔王様としては、会いたいようですがね」


 アイルズ、ほんっとお願いだから今は挑発しないで。

 お兄様もユアンも多分本気で襲いかかるから。え?エリアス?この人は私に関してはあんまり怒らないでしょうよ。

 執務室に入る。お兄様が私を本気で見ていた。説明させられるのか、と思いながら、ちょっとだけ話す。


「アイルズが私を引き寄せただけです。それ以上はありません」

「そう言う問題じゃないんだよ?ミルヴィア、君はアイルズを信用してたんじゃないのかな?」

「信頼してますよ。過去形にしないでください、お兄様。私は別に今回の件に関して怒っていなければ傷付いても居ません」


 ていうかね。

 この部屋に居る人はアイルズ・ユアン・お兄様・エリアス。だよね?

 この全員が強いわけよ。で、アイルズを除く三人が本気で殺気放ってるわけ。

 要約すると、すごい怖いのよ。


「ミルヴィア、僕はミルヴィアに何もしないとは思ってなかったよ。けどさすがに手が早すぎないかな?僕としてもちょっとこれは頂けないよ」

「それ含めて、私としては『面白い』って思ってます」

「本気で言ってるの?ねえ、アイルズはどうせ期待には応えられないよ?」

「最初から何もしないなんて期待、一回で済むなんて期待してません。だから私としてはですね」


 グイ、とアイルズのネクタイを引っ張った。不意の事で、アイルズもバランスを崩す。


「しっかり『飼い慣らして』、他の女性に手がいかないよう躾けるつもりですよ」

「そんなことが出来るとは到底、思えないけどね」

「そうですか?楽ちんですよ。ユアンに比べたら」

「比較しないで下さい。こんな奴と私は違います」


 ユアンが怒ったような声を出す。そんな怒るなって。

 お兄様と私は数秒睨み合う。最近お兄様と対立してばっかりな気がする。

 お兄様離れかなー。もっと甘えたい気もするけど。


「カーティス、ミルヴィアがこう言っているんだから、いいんじゃないか?」

「エリアス!」


 お兄様が大声を出す。あれ、エリアスこっちの味方?

 意外。ああ、でも、アイルズが私に向かって色々してる間、国民には被害が及ばないもんね。

 ふむ、さすがエリアス、考えてますなあ。

 対してお兄様と言えば、顔を真っ赤にして怒鳴っている。


「外野が心配しても何にもならないだろう。ミルヴィアがやりたいと言っているんだ、意見を尊重すべきだと俺は思う」

「君は……っ!取り返しのつかない事になったら、どうするんだ!」 

「ならないだろう、魔王は」

「肝心な時に魔王を理由にするのは止めてくれ!僕は妹の事を心配してるんだよ!」

「だから、その妹はタフだから平気だと」

「何がキッカケになるか分からないじゃないか!」

「お兄様」


 激昂するお兄様に、私が声を掛ける。

 なんかすごい数人でお兄様を責めてるみたいで居心地が悪いと言うか罪悪感があるけど、アイルズは何はともあれ教えるのが超上手い。

 何ていうか、要点を押さえつつ応用もちょこちょこやって行く、みたいな。


 一桁の足し算を教えたら、次は一桁と二桁の足し算、みたいな感じかな。

 ちょっとずつやって行くんだよね。しかも、自分は全部理解出来てるからそれが意外と難しい。大まかになっちゃうんだ。

 だから、アイルズに教わるのは止めたくない。


「大丈夫です、お兄様。もし襲われれば、全力で抵抗します」

「出来るの?」

「ええ」


 ただしこれには付け加えるべく事がある。

 襲われて、尚且つ私が耐えられないと(・・・・・・・)思ったら(・・・・)、全力で抵抗する。

 襲われただけじゃあ、抵抗しませんよ?それがどこの誰かも分からない人だったら抵抗するけど、アイルズとかユアンとかだったら信頼はあるからね。

 ふふふ、これで完璧。


「でも、ミルヴィア、遠慮しない?」

「私が遠慮した事なんてありましたっけ?」


 首を傾げつつそう言うと、お兄様は苦笑した。うん、苦笑だろうと、初めて笑ったね。良きかな良きかな。

 私はアイルズのネクタイから手を離すと(途中から完全にアイルズは体勢を戻していた)、お兄様に向かってにっこり笑った。


「何かあったら言うんだよ。ああ、その前に」


 お兄様の目が一瞬にして敵意と殺意をはらんだかと思えば、腰に差していた細い短剣をアイルズに向かって投げつけた。

 あまりに早くて対応できなかった。ユアンの攻撃の前兆は訓練の時一生懸命観察したから分かるけど、お兄様のは分からない。

 短剣はアイルズの頬を掠め、耳を掠めると、後ろの壁に突き刺さった。こ、こえーっ!



「妹に手を出せば、今の、額に突き刺さるから」

「肝に銘じます」


 ちなみに、短剣は柄の部分を除いて全部刺さってました。どんなに強く投げたのよ。

 多分お兄様、ボール投げやったらすごい遠くまで飛ぶんじゃない?あ、魔法も使ったのかな?


「一応言っておくと、魔法は使ってないよ」

「……」


 さすが狼男。

 筋力あるねえ。


 ……お兄様も怒らせないようにしよう……。

閲覧ありがとうございます。

お兄様は剣で直接戦うより、肉弾戦、もしくはナイフ投げが得意です。

次回、休日に少年と会います。

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