91 家族会議
あの後狐ちゃんと散々訓練して、家に帰って来た。やっぱり同格の子との訓練は大事だね。
お兄様とユアンなんて何やってんだかわっかんないもんね。
それにあの技名だけ言うの良かったな。今度もそうしよう。
「ミルヴィア様」
屋敷に戻ってくると、エレナさんがそう声を掛けてきた。柔和な笑みを浮かべて、歩いてくる。
なんだろう何か怖い。
「カーティス様がお呼びです」
「お兄様ですか?」
「はい。ユアン様は来ないようにとの事です」
「行きますよ」
「そうですか。私は何も言いませんので、カーティス様に言って下さいね」
おお、見事なまでの責任回避。ユアンもはい、ってにっこり笑ってるし。
この人達は大人何だか分からんわ。
大体、私はいつも笑顔で居る人の気持ちは良く分かんないし。
にしても、何の話だろう。分かりやすいのは、アイルズに教師をお願いした事かな?
でもそれで家族会議とか、些か厳しすぎやしませんかね。
よっぽど嫌いなんだろなー。
タフィツト行くの気が重い。
とりあえず渡り廊下を渡ってタフィツトに着くと、執務室の扉をココンと叩く。すぐに中から返事があった。
入るとお兄様があからさまに顔をしかめ、何故だか私を睨み付けた。怖いです。
「ユアンは来ないように言ったよね」
「ユアンが来ると言ったので」
「僕がユアンの事嫌いなの、知ってるでしょ?」
「嫌なら出て行かせます」
「……」
「……」
今ので分かった事。
お兄様相当頭に来てる。私に気ぃ遣う余裕がないほどなんだね。
「……いいよ。座って、ミルヴィア」
「はい、失礼します」
堅いなあ。
私は用意されていた椅子に座ると、お兄様と向き合った。お兄様の鋭い眼光が私を射る。
ちょっと待ってマジで怖いです。
そう思いつつ顔には出さず、笑顔でいく。
「お兄様、何の用でしょうか」
「昨日、アイルズのところに行ったそうだね」
「ええ、誰も何も教えてくれなかったので」
「どうしてアイルズなのかな?頼んでくれれば、家庭教師でもなんでも雇ったつもりだよ」
ていうか最初からそのつもりだったんだろう。
けど私がアイルズという教師を見つけてしまったから、止めたと。本当なら今すぐにでも怒鳴ってアイルズを教師にするのをやめさせたいとこなんだろうけど、そこはさすがお兄様。ちゃんと抑え込んでる。
私が素直に家庭教師を雇って下さいと言えば、多分それで全部収まるんだろうけど。
でもねえ。
「お兄様、私はアイルズを信頼しています」
その言葉に、部屋の中が凍りついた。物理的に温度が下がって行く。
それでも気にせず言葉を続ける。
喋ってないと凍え死んじゃう。
「もちろんお兄様やユアン、エリアス、ビサの事も信頼していますが、誰も操作魔法は使えません。私は信頼できる人から何かを習うと決めているのです」
ちなみに信頼できる人の欄には狐ちゃんや少年、エレナさんにコナー君も入るんだけど、場違いな名前なので省いた。
そういや、エレナさんにも聞きゃあ良かったかもな。
「そうなれば、アイルズは適任じゃありませんか。信頼があり、操作魔法が使え、しかも私の執事です。ユアンと同じくらい信頼に足る人物であると――」
「ミルヴィア様」
「ユアンは黙ってなさい」
ここがユアンの琴線に触れる事は承知だよ。けど事実だしね。
だってこの前私の事押し倒したじゃん。信頼度、3くらい下がったよ、多分。
「――そう思っています」
「僕とユアンとエリアスとビサ、あとは他の人達も彼の事を嫌いなのに、意を汲まないのかい?」
「これは私の問題と思っています」
「それが?僕は君の保護者だよ」
「私は魔王です。それに手を出されて傷付くのは私で、それによって信頼と地位を失うのはアイルズです」
「そういう事じゃ、ないんだけどね……」
「?」
お兄様は、弱々しく微笑んで、私を見た。
「ミルヴィアは裏切られても、まだ信頼するだろう?」
「……否定はしません」
「だから、アイルズが気を良くしないか心配なんだ」
「それは」
お兄様もユアンもエリアスも、ちぃっと勝手じゃありませんかね。
忘れてるみたいだけど、私、アイルズの事ちっとも嫌いじゃないんだよ?
「アイルズの事が嫌いなのは皆です。私はアイルズが好きですよ」
「――!」
「ユアン」
「……っ、はい」
ユアンが激昂しそうになったので、すれすれで声を掛ける。
事実だし、それに怒るなんて身勝手だよ。
「お兄様、私はアイルズが好きです。ああいう大胆な人は面白いので。それにもし何かあればお兄様に報告しますし、その場合は私もお兄様の指示に従いアイルズの生徒を辞めます」
「……」
「本当ですよ。私、約束は破らないんです。それに約束を守るなら、アイルズの生徒を一回くらいやらなくちゃいけないでしょう。何も起きていないのに疑うのは、用心しすぎだと思います」
「……エリアスに言っておこう」
「は?」
思いもよらぬ名前が出た。
エリアスって、何故に?あれ、エリアスってこの件に何か関与してたっけか。いや、私の信頼できる人リストに入ってるくらいだよ。
お兄様は何かを諦めたように笑い、私の後ろに居るユアンを見た。
「アイルズには手を出さないように。命令だよ」
「……ミルヴィア様が傷付けば」
「その時は別だ。好きなだけ切り裂けばいい」
怖っ!お兄様もユアンも怖いねえ。
まあとりあえずは交渉成立かな。結果的に押し切ったけど。ユアンが怒ってるっぽいから怖いけど、うん、それは平気。
私、ユアンもアイルズも同じくらい好きだからね。
閲覧ありがとうございます。
何だか家族会議と言うより、ミルヴィアの一方的な論破でしたね。そしてユアン、不憫。
ミルヴィアは恋愛感情を誰にも抱いてませんからねー。難しそうです。
次回、アイルズのところへ行きます。