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90 狐ちゃんと魔法訓練


「操作魔法?」


 訓練場で向き合った狐ちゃんが、怪訝そうな声を出した。その後、渋い顔になる。


 今は狐ちゃんと訓練の真っ最中だった。どうやって狐ちゃんを誘おうか考えながら寝た私は、朝五時に万面の笑みを浮かべた狐ちゃんにたたき起こされる事になる。

 ユアンに起こされなかったの何日ぶりだろ。

 そんなわけで、訓練には広い所が良いだろうと一番小さい訓練場を借りたわけだ。

 職権乱用でタダ。ちょっと気が引けるけど、普段から一般開放されているところだし、兵士の訓練日でもないので貸切してって言ったらすぐオーケーもらったけど。


 え?魔力開放?

 してるわけないじゃないっすかー。何言ってるんすか、私は清廉潔白な乙女ですよ?

 ね?そうでしょ?ねえ?


「そう言えば弟が、操作魔法に憧れてたの」

「弟?」

「金狐」

「オウ……」


 いきなりデリケートなとこ突っ込んだ?私。

 地雷踏んだ?地雷踏んだ?


「無種族狩りの時違う方向に逃げたから、今生きてるかどうかも分からないの」

「へえ、逃げたには逃げたのね」

「うん、なの」


 じゃあ生きてるかもよ、と言おうとして、止めた。

 魔王が言う事じゃないな。これは少年にでも言ってもらおう。


「まあ、そんな事どうだっていいの。早く始めるの!初めは水魔法の撃ち合いからなの!」

「はいはい」


 狐ちゃん、予想以上に楽しみにしてたんだなあ。友達に飢えてたのか。

 私も友達らしい友達は狐ちゃんと少年とコナー君しかいないからね。

 五歳児にしては少ない気が。


 ちなみに、ユアンには端で待っててもらってる。常時立ってるのに疲れないとか、すごいな。

 子供の訓練見てて飽きないのかね?屋敷で待っててもよかったのに……って、この前攫われたばっかのコンビにゃ付いて来たくもなるわな。


「条件を付けよう」

「なんなの?」

「技の魔法を一度言うだけ。ちゃんと意味があるけど、言うよ」

「ん、了解なの」


 狐ちゃん素直だな。

 

 この条件には三つ意味がある。

 一つ目は不言魔法よりはイメージしやすく、精度を高められるって事。

 二つ目はその技が来ると身構えて、その予兆を見つける事。

 三つ目はそれに対する対策を一瞬で考える事。


 これを伝えると、狐ちゃんはほえー、と声を出して感心していた。

 狐ちゃんも可愛いよね、結構。

 今さらながらにそう思いつつ、戦闘態勢に入る。私は括った髪の毛(最近伸びて腰より少し上くらいにまでなった。正直切りたい)を振って狐ちゃんを鋭く睨み付け。狐ちゃんは銀色の髪の毛を垂れ流したまま私を僅かな殺気を放って睨んでいた。

 正直迫力で言ったら狐ちゃんが上だった。

 

 まあ、負ける気はないけどさ。訓練だろうと本気で行くよ。


「――開始」


 ユアンが空気を呼んで号令をかける。私が右手を振るのと、狐ちゃんが跳ね上がるのとは同時だった。


水流畑(すいりゅうはた)!」

流泳地(りゅうえいち)!」


 私が叫び、狐ちゃんが叫ぶ。私が訓練場の床を水で溢れさせ、狐ちゃんが流泳地を作り出す。

 流泳地は自分の居るところが泳ぎやすくなるっていうやつ。私の動きを封じる魔法に対して完全に対策を取られた形だね。先読みしてたみたい。

 まあ、それを読んでたけどね!


「噴水!」


 これは浸水という魔法を改良したもの。浸水は文字通り浸水させる魔法。これは普通に使えば全く役立たない魔法だけど、ある程度コントロールが出来れば空中に打ち上げる事が可能。

 つまり、狐ちゃんを巻き込んで訓練場の高い天井まで噴水を作り上げる形になった。

 よし、良好……と思ったところで、狐ちゃんが叫んだ。


「水流粉砕!」


 え!?

 何その魔法聞いた事無いんですけど!?

 噴水は一気に打ち砕かれ、狐ちゃんは空中から一気に下に落ちてきた。

 やば、守らな――あ。

 まさか、流泳地を作ったのってこれのため?泳ぎやすくなる、即ち自分の周りに空気を作り出す。

 水に打ち付けられようが全然平気。落下中の狐ちゃんの唇が、微かに歪んだのが分かった。


「領海侵犯!」


 ぐっ!

 私は一気に跳ね上がり、押し寄せる波を避けた。

 領海侵犯。これにはシリーズがあって、領海侵犯、領地侵犯、領空侵犯。それぞれ水魔法、土魔法、風魔法にカテゴリーされる。

 これは相手の領海(それは狐ちゃんが指定できる)を荒らす魔法だ。つまり私のいたところは今、荒波にもまれている。

 荒波にもまれていないところに、狐ちゃんは着水した。そのまま標的を見にくくするためか、たまに息継ぎをする時以外ずっと水の中。

 私は水の上でどうにか浮いてるだけだった。


 チ、水流畑を作ったのが完全に裏目に出たな。しゃあない。


「干ばつ!」

「雨風!」


 床を間伐させようとしたのを、雨を降らす事で防がれた。ぐう、こういう魔法はだいたい真反対の魔法が作られてるからな。

 こりゃ詰んだか?

 いや、まだ手はある。何より、狐ちゃんはまだ水の中じゃないか。

 相手の真似をする事になるけど、いいじゃないか。


 吸血鬼の得意分野だよ、真似(コピー)は。


「領海侵犯!」

「なっ、がふっ!」


 狐ちゃんが溺れ始める。

 そして、術者の集中が乱れたがために私のところの領海侵犯は中止された。

 安心しろ狐ちゃん。死ぬ寸前には助けてやるさ。


「ご、ごうさっ……なの!」

「え、なに、降参?」

「なの!たすけ、」

「了解了解。――領海返還」

 

 領海返還って言葉あったっけ?

 ま、いいや。てきとーに作った言葉だし。


「んじゃ、終了ね。風魔法で乾かすね」

「けほっ、りょうか、けほっ、なの」

「あー、待って待って。慌てないで」


 狐ちゃんがすぐに濡れている範囲から退こうとした。その際に四つん這いで、しかもびしょ濡れで、それに加えて咳をしてたので、さすがに呼び止める。

 えーっと、治癒魔法はと。


「小さき障害は取り除かれ、汝、安静安全を取り戻すべし。安息」


 狐ちゃんが少し、落ち着いたようだった。副作用で結構疲れてるはずだけど、大丈夫、だと思う。

 狐ちゃんを思いっ切り竜巻っぽいので範囲外に連れて行くと、私は不言魔法で水分を吹き飛ばした。うん、びちょびちょ。

 エリアスに怒られないかなあ。


「魔王、凄かったの。ていうか、真似なんて小賢しい事すると思わなかったの」

「え、何言ってるの?」


 心底驚いて、私は言う。

 腰に手を当て、唇に指を当て。

 なるべくカッコイイ格好を取って、言う。


「吸血鬼なんて、真似ばっかだよ?」

 

閲覧ありがとうございます。

魔法訓練は書いてて楽しいです。狐ちゃんも可愛いし。

実は今回、狐ちゃんがあそこで『雨風』を使わなければ勝てていました。まあ狐ちゃんが大人しく干ばつさせるはずがないので、実質ミルヴィアの完全勝利ですが。


次回、家族会議(ユアンいますが家族じゃないです)。

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