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89 授業の約束


「――ユアンあんた知ってて黙ってたでしょ!」


 コナー君にそっかそっかありがと全然知らなかったよいやーどうして誰も教えてくれなかったんだろうねほんとありがとうと言ってから屋敷に入って来て、ユアンに向かってそう叫ぶと同時に蹴りを入れた。

 まあ、躱されて終わったけど。

 次ぐ攻撃も出そうかなと思ったけど、また躱されそうなんで止めといた。

 止め時ってもんがあんのよ。


「だって言ってしまえば行くと言うのでしょう?」

「言うに決まってんだろが!そのために奔走したっつーのに、なんだよ知ってて皆黙ってたの!?」

「ええ、カーティス様もビサ様もエリアス様も知っているはずですよ」


 何が知ってるはずですよだ!

 思いっきり黙ってんじゃないか!笑顔で言うのやめてくんない!?

 ったく、ビサが私が操作魔法習いたいって言ってるのに『物好き』とかっていうキツイ言い方したのはこれか。

 なるほどね、皆アイルズ大嫌いだもんね。

 アイルズがんば。


「あーあー、もうちょっとで夕方じゃん。宮廷に行ったらそれだけで終わっちゃうなー」


 今日もちょっと教えてもらいたかったのに。明日は平気だけど、明後日は闇民の日で狐ちゃんと訓練だし。

 窓の外を見ながらどうしよっかなーと考えていると、ユアンがあからさまに嫌そうな顔をした。

 いや、行くって言うの知ってるでしょ。


「ミルヴィア様、今から私が勉強しますから、どうかそれだけはやめて下さい」

「えー……やだよすぐ始めたいもん。ユアンならすぐ覚えるだろうけど、やっぱり魔法は鍛錬だよ。アイルズの魔法は精密だったし、うん、確かに操作魔法には向いてそう」

「お願いですから」

「てか、ユアン嫌なら待ってていいんだよ?」

「いえ、あの方とミルヴィア様を二人きりにさせる等、許せません」


 ユアンが割とガチで嫌そうだった。

 身内の頼みって事で聞いてあげたいのは山々なんだけど、私このために一日歩き回ったからな。今さら引き返すのは惜しいや。


「いいから行こう。今日は行って帰って来るだけだから」

「……仰せのままに……」


 うーわいじけてる。

 止めなよ大の大人がみっともない、痛々しいだけだよ。


 宮廷を歩く途中、やっぱり視線を集めたけど、宮廷に着いた途端全員が目を逸らした。

 はは、やっぱり宮廷の周りはあんまり人居ないしね。ここらへんは静かでいいや。

 番兵は居るけど、どうかな。赤魔石は見せる用意はあるけど、さて、黒髪だけで通してくれるかどうか。

 とりあえず番兵に近付いて、ビサにやったみたいに帽子を持ち上げてにやりと笑う。


「ご苦労」

「ッ、魔王、様?」

「そうだ。アイルズに用がある」

「は、はい、少々お待ちを!」


 片方の番兵がめっちゃ慌てて中に入って行った。んな慌てなくても急かしてないって。

 あと、魔王なんだから宮廷に入れてくれてもいいんじゃないかな。

 あとどうして黒髪だけで私が魔王だって分かるんだろう。そう言えばこの番兵も、舞踏会の時居たような……って。


「ユアンか」

「は?」

「なんでもないよ」


 なるほどね。そりゃこんな豪奢な騎士服着た青髪の騎士ね。目立つわー。

 これは私が髪隠しても意味ないんじゃないか?だって側近が目立ってんだよ?

 程なくして、番兵が戻ってきた。アイルズ、は、居ないね。


 忙しいのかな?


「アイルズ様は二階の執務室にいらっしゃいます。案内をお付けいたしましょうか?」

「いや、いい」


 二階ね。それだけ聞きゃあ大丈夫だ。私の方向感覚舐めるなよ。

 途中途中、メイドさんとかに驚かれながら二階へ向かうと、すぐに見つかった。

 後から聞いた話だと、上る階段は三つあって、私はその中でも執務室に一番近い階段を選んだらしい。ふふ、私の方向感覚は健在だね。


 コンコン


「どうぞ、魔王様」


 ガチャリと扉を開けると、アイルズがモノクルを付けて座っていた。何故にモノクル。


「久々ですね、魔王様」

「そうか?全く久々ではないような気がするがな」

「あなたに会えない日々は長かったのですよ」


 キザっぽくさらりと言うと、椅子から降りて操作魔法で(・・・・・)椅子を作り出すと、にっこり笑った。

 こいつ、目的知ってやがるな。


「どうぞ魔王様、お座りください」

「……椅子は一つか」

「騎士の分は不必要でしょう?」

「確かにそうだ」


 どさっと豪胆に座る。お、ふわふわ。結構なんでも創れるんだな。

 これでまた操作魔法に関して知りたい事が増えた。

 ユアンはさっきから止めなく殺気を放っているけど、まーいいでしょ。ほっとこほっとこ。

 アイルズも向かいの席に座った。さり気なく私が奥に座ってる。準備が良いねえ。


「単刀直入に言う。操作魔法を教えてくれ」

「……ええ、良いですよ」

「そうか。助かる。近くには操作魔法を使える者が居なくてな」


 レーヴィとかなら使えるかな。でもレーヴィは本とかじっくり読んだ事はないだろうから、理論から勉強したい私には不向きだし。

 私が安心しきっていると、それに付け込むべくアイルズがにやりと笑った。


「ですが、条件があります」

「条件だと?私に条件を提示するか」

「ええ、でないと対等ではないでしょう?」


 ふうん。なるほどね。魔王と対等であると認識するなんて烏滸がましい、って取り方もできるだろうけど、許容範囲内だわな。

 にしても、条件ねえ。

 お願いを一回の授業ごとに一つだけ聞くとかそう言うのじゃなければ聞いてやろか。


「言ってみろ」

「ユアンと同じ部屋で授業を受けるのは頂けません」

「……は?」

「ッ、あなたは――」

「ユアン!暴れるな」

「………っ!」

「意図を聞こうか」

「簡単です、この方は私が嫌いですし、私もこの方が大嫌いです。同じ部屋に居るだけで虫唾が走る」

「なるほどな」


 要は嫌いだから同じ部屋に居たくない、と。

 公私混同だとか言ってもいいけど、思いっきり私事だし、いいか。


「じゃあユアンは隣室を借りよう」

「ミルヴィア様!?」

「それでいいですよ」


 ユアンが激しく動揺し、アイルズが満足げに微笑んだ。相変わらず誘惑的な笑みだな。

 そう思った次の瞬間、アイルズの首元にユアンの剣が在った。

 やばっ!


「避けろ!」

「っ!」


 アイルズが紙一重で躱す。次いで出たユアンの斬撃を、私がどうにか短剣で防いだ。と言っても短剣を投げただけで、ユアンは予期せぬ援護に剣を取り落しただけだけど。

 っ、あ、危なかったぁ……。

 アイルズ死ぬところだったぁ。ユアン短気すぎだって……。

 そしてなるべく、冷徹な声を作る。


「ユアン、いつ私がアイルズを攻撃せよと命じた?」

「ミルヴィア様、どうして私がここに居るか忘れてるわけでは無いですよね?」

「ユアンこそ、どうして私がここに来たか忘れたわけでもあるまいな」

「……」

「……」


 数秒、または数瞬の睨み合いの末、ユアンが折れた。

 目を逸らして息を吐き、今度はアイルズを殺さんばかりに睨み付けて。


「ええ、分かりました。いいですよ、許容しましょう」

「偉そうですね。魔王様は私に教えてもらってほしくて来たのですよ?」


 いつの間にか真後ろに居たアイルズが、私の肩を抱き寄せる。

 こいつ、何でユアンを刺激するようなことするの!


「アイルズ、離せ!今度こそ斬られるぞ!」

「いいですよ、やってみればいい。ほぼ間違いなく、魔王様の首も一緒に飛ぶでしょうけどね」

「!」


 くっそ、こいつ全部図ってるな!

 私は身を翻すと同時に蹴りを入れ――って躱された!?

 なんだよ、ユアン以外なら漏れなく入ってたのにッ!

 すぐに後ろに回り込んだアイルズを確保、てだめじゃん!

 チ、奥の手だ!

 『魅惑』オン!


 アイルズの体が固まる。顔に赤みが差し、苦しげに歪む。

 うわっ、扇情的な顔ですね!


「もらっ――」

「甘い、です」


 アイルズはそう言って、私の放った氷塊を粉々に砕くと、私を引き寄せた。

 やっぱ一筋縄ではいかないかあ。


「あー、もう遊んだだろう」

「そうですね」


 アイルズを突き放すと、とてとてと歩いてユアンの横に行った。うん、今日はもういいか。


「じゃあ、アイルズ、五日後にまた来よう」

「明日からでもいいのですが」

「いや、明後日に友達と会う約束だ。明日はその準備をしたい」

「そうですか、分かりました。では五日後、また」

「ああ」


 そう言って外に出、家に帰った。

 ………………。

 なんで後半バトル展開になったんだろう。

 謎だ。

閲覧ありがとうございます。

アイルズ書くの楽しいです。

次回、狐ちゃんと魔法訓練します。

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