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86 お話ししよう

 家に帰って来た後、エリアスは結局泊まる事になった。少年は一言もしゃべらないまま狐ちゃんと帰って行って、レーヴィは三百四号室で夜遅くまで読書をしていたいらしい。お兄様は仕事放って来たからって急いでタフィツトに戻って行った。

 コナー君は屋敷の中にあると言う個室に入って行った。


 うー、最後ぎこちない感じになっちゃったなー。なるべく自然になるように意識したんだけど。

 いや、意識しちゃだめなのか。

 愛発なら簡単にやって見せるんだろうな。あの子感情欠落してるし。戻りたいとは決して思わないけどさ。

 それに、コナー君が来てくれて結構嬉しかったんだよ。なのにぎこちなくなっちゃったんじゃ、何も言えないよ。


「ミルヴィア様がご無事で良かったです」


 私の部屋に向かう途中、ユアンがそんな事を笑いながら言った。


「……そう?どうせ助けに来たんでしょ、遅かれ早かれ。ならいつでも同じじゃ」

「違います。あなたが傷付いている前に助けに来れた事が嬉しいんですよ」

「何それ」


 こいつ、コナー君の事心配じゃないのかな。もしかして私さえよけりゃいいみたいな思考回路してないよね?そんな依存されるの嫌だよ私は。

 マザコンの母親になるつもりはないんだ。さっさと独立してお母さんを安心させてほしいわあ。


 とりあえず自分の部屋に入って、ベッドに潜る。

 ユアンにお休みも言わず、カチッとスイッチを切って寝る――


「お休みなさいませ、ミルヴィア様」


 振りをして、目を閉じた。

 ユアンが出て行く音がする。『五感強化』をオンにして、ユアンが完全に行ったのを確認した。ユアンが三つ目の角を曲がったところで、『五感強化』が追い付かなくなる。そこで、私はベッドから降りた。

 レーヴィには既に言ってある。大丈夫……な、はず。

 

 部屋を出たら皆にばれる。てなわけで、反省せずに飛行で三百四号室まで行きますか。

 えーっと、とりあえず窓から出なきゃだよね……うっわ出窓届かない!

 しょうがないなあ、ここで飛ぶか。

 羽を出して飛んで、窓を持つ手に力を込めて、横にスライド……重い!けど、何とかして開けなきゃ行けないんだから開けないと!

 

 せーの、おいっさ、ほいっさ、せーの、ふんぬー!

 まだまだあ!ぐおおお!


 五分経過。

 ……開かない。これもしかして開かないように細工されてるの?鍵、はついてないし。

 あれか、飛んでるから力が入らないのか。それとも私が非力なだけ?毎日剣振ってるのに?

 んー、どうしようかな。


 コンコン


 やばっ、ユアン来た!?

 慌ててベッドに潜りこむ。ガチャリと扉の空く音、丸まって気配を伺う。


「……ミルヴィア、寝ちゃった?」


 この声は!

 

「!」

「うわ、びっくりした!」


 跳ね上がるようにして起き上がると、パジャマ姿のコナー君が。

 え、なんで!?


「っと。ミルヴィアが気にしてるんじゃないかなって思って、来たんだけど……」

「いやいや!そんな事、ない、」


 やばい。気ぃ使わしちゃだめだ。でも嘘とかコナー君相手に吐きたくないし……。

 コナー君は寂しげに微笑んで、近くの椅子に座った。


「ミルヴィアは、魔力が無くなったら人はどうなると思う?」

「髪の毛が真っ白になる、とか」


 おずおずと答える。間違えるのが怖いと言うより、コナー君が傷付くのが怖い。

 コナー君は、また寂しげににっこりと笑った。


「死んじゃうんだよ」

「――な、それ」


 そ、れは。

 死んじゃう、って。


「だ、だって、レーヴィも狐ちゃんも、髪の毛白いけど死んでない……」

「あれは魔力がゼロなわけじゃなく、色素に表れないほどに少ないってだけだから。通常、魔力を使い果たして無くなっても、少し余裕がある。気絶しちゃうんだって。その気絶によって体が休まり、また魔力が作られる。でも僕には余裕がない。一瞬で死んでしまう」

「っ、あ」

 

 じゃあ、だめじゃないか。

 髪の毛の色が目に入る。白の一歩手前。白が混ざった緑って言うより、緑が混ざった白って言った方がいいかも。

 気を取り直して。


「じゃあ、もう魔法、使わないようにしないとね。ごめんね、今回、使わせちゃって」

「ううん。結局は僕が行かなくてもよかっただろうし」

「そんな事ないよ、安心したもん」


 やばい。

 これ、本当にマズイ。

 罪悪感がすごすぎて、押し潰されそうだ。苦しすぎて何も言えなくなっちゃいそう。

 ユアンと飛行に行けばよかった。

 レーヴィを連れて行けばよかった。

 エリアスに行先を伝えておけばよかった。


 後悔先に立たず。

 後悔なんてしても役に立たない。知ってても後悔してしまう。

 ごめんね。ごめん。ごめん、なさい。


「ミルヴィア」

「っ、はい」

「僕ね、大きくなったら魔王城で働きたいな」

「……ぇ」


 ぱっと顔を上げる。コナー君は笑顔で、こちらを見ていた。


「あのね、エルフって不死なんだ。不老じゃないし攻撃されたら死ぬんだけど、寿命はない。だからさ、将来、ミルヴィアが勇者に倒されちゃう千年先まで、生きていたいなあって。それまで、ミルヴィアの側に居たいなあって」

「……っ」


 天使!可愛い!癒しっ!

 という感情よりも先に、感動が来て。

 嬉しいって思って、これは、私の兄であるお兄様の言葉よりも、忠誠を誓うユアンの言葉よりも、すごく嬉しかった。

 何も保障されてない関係の人から好かれるって、すっごい嬉しいんだね。


「分かった!じゃあ魔王城の庭、管理してもらおう」

「いいよ。綺麗にするね」

「うん。あと、コナー君はもし戦争になっても、前線には出なくていいから。一市民として、逃げてね」

「……どうして、そんな事言うの?」

「私が戦いに行くって言ったら、コナー君、付いて来るって言いそうだから」

「……うん、分かったよ。もし戦争になってしまったら、ミルヴィアの事待ってるね」


 コナー君だけじゃなくて、ユアンもお兄様もエリアスもビサも、皆私の側に居ると言ってくれると思うんだ。

 だけど私は死なないからさ。離れちゃっても、死ぬことだけはないから。

 だから、安全に待っててほしいなあ、なんて。


 あ、もちろんビサは連れてくけど。昇進させて、第一軍の軍曹にさせるし。それどころか魔王の直軍の軍曹になれるかもしれないし。

 だけど、私の大切な人には待っててもらわないと。


 私は死なないけど、きっといつか、皆私を置いて死んじゃうと思うからさ。


閲覧ありがとうございます。

あれ、おかしいな。なんでこんな切ない感じになっちゃったんだろう。

あ、それと、前回間違った物を投稿しちゃってすみません!あれ書いてた短編だったんです(しかも完結してない)。

今後気を付けます!

次回、ミルヴィアとレーヴィが三百四号室で調べ物。

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