85 お掃除
魔力は使った後は補給される。
食事で、運動で、勉強で、寝る事で、リラックスする事で。
ただ稀に、魔力を使えない人が現れたりする。この人は割と簡単に問題が解決する。魔力の使い方が生まれつきつかめていないだけで、少々高めの魔導具さえ付けられればどうにかなる。
そして、その逆も生まれてくる。
魔力を使っても補給できない子供が。
その子は『隔離者』と呼ばれる。生まれつき魔力の量が決まっていて、魔法を使うたび魔力が消費される。つまり髪の毛の色が疎らになり、それか段々色素が薄くなっていく。目も、そうなのかもしれない。そこらへんは本に掛かれてなかった。
『隔離者』は、魔力を使い果たさないよう上手く立ち回らなければいけない。使い果たせばどこに居ようと目立つから。そんなの、簡単と言えば簡単だ。
しかし、この世界は種族が非常に重要視される世界。
例えば、人族だったら、それくらいの子は省かれたりするかもしれないけど生きていける。
魔族なんてなおさらだ。保護して、省く事すらないと思う。魔法なんて使わなくていい、とも言ってくれるかもしれない。
逆に。
優しくない種族。
魔法を使う種族。
魔法が無いと生きられない種族。
これらの種族に、世界から隔離されたとされる『隔離者』が生まれてしまったら?
私の知る話では、処刑らしい。忌み子として嫌われ、親にさえ忌まれて処刑されるとか。しかもその子を三歳くらいまで育ててから。
こうして、残酷で非情で無情な処刑をされるとか。間違ってるかもだけどね。
つまり『隔離者』に生まれたものの運命は二つだけ。
大人しく処刑されるか。
自ら種族から離れるか。
その二択だけ。
「コナー君……?」
私は驚いて、髪の毛を凝視してしまった。コナー君は弱々しく微笑んで、倒れ込むようにこちらに歩いてくる。
その後ろに、男が現れた。
っ、やば!
ユアンは私の方を見てて気づいてないしそもそも言って行ってくれるかどうかも分からないし間に合わないかもしれないからつまりそれはどういうことかというと
「レーヴィ!」
「了解した!」
レーヴィが男を弱体化させ、そこにお兄様が入って来て蹴りを入れる。
「うちの大事な庭師なんだ。傷付けないでもらえる?」
カッコイイ……。
身内補正入ってんのかなあ。お兄様がカッコ良すぎる。
「あ……カーティス様、すみません」
「君、魔法使ったの?何魔法?」
「……緑魔法を、少し」
え?
今なんて言った?緑魔法?
私の中で言葉が大回転を始める。この時点で私が『隔離者』をイメージできるはずもなく、どういう事なんだか一生懸命考えていた。
まず、まずだよ?緑魔法ってなんだっけ?いや、内容は憶えてんのよ。確か植物全般と会話が出来て、操れるっていう魔法だったはず。コナー君にぴったりだね。
だけど、その固有魔法がどの種族の物だったかが今一つ思い出せない。えーっと。
緑魔法が使えて、緑の髪(?)で、今、コナー君の髪の中から見えるのは?
「長い耳?」
て、エルフじゃん!?
マジ!?え、嘘!?コナー君がエルフ!?あの高慢ちきで面倒くさくて自尊心が高い、エルフ!?
「……ん?」
でも、風魔法得意じゃないとか聞いた事があったような。
エルフって自然系の魔法、ひいては魔法全般得意だよね?緑魔法は固有魔法だから使えるのは当たり前として、魔法が得意じゃないエルフって。
ピン、と思い当たる。
『隔離者』が。
そしたら今の状況全部納得がいくからね。
「さすが神楽、鋭いわい」
「まーね」
さあ、どうしようかな。コナー君が心配だけど、とりあえず。
「皆さん、手枷とか外して?」
あ、と言って、皆が拘束を解きにかかる。ちなみにさっきから大人しい少年は、とっくに狐ちゃんの拘束を解いてた。
エリアスが目隠しを取ってくれてたっぽい。
お兄様が猿轡を取ってくれてたんだね。
ビサが手枷。
ユアンが足枷。
痛くなった手足にレーヴィが治癒魔法をかける。
ふむ。
うん、足も手も動くね。ラッキ♪
さあてと。
立ち上がって、周りを見渡す。男達は逃げず、警戒しながらこちらを窺っていた。
「ねえねえ、女性たち?」
「何じゃ?」
「何なの?」
思ったんだよねえ。
蜘蛛の巣に埃に犯罪者。
「ここ、すっごい汚いよね?」
「そうじゃなあ」
「穢れてるの」
「じゃあさーあ」
お掃除しようよ。
お掃除は女性の仕事でしょう?
「うーん、どうやって掃除しようか。蜘蛛の巣を取り払えて、埃が消えて、犯罪者が逃げ出す方法……うーん」
「これしかないじゃろ」
「ない、の」
二人が手のひらに炎を浮かべる。私も、三つの熱塊を浮かべる。
そうだねえ。
蜘蛛の巣は火に弱いらしいしね?埃も焼けるし、犯罪者だって嫌いでしょ?
全部を明るくしちゃう炎、大嫌いでしょ?
「さて」
すーっと思いっきり息を吸い込む。皆に一気に伝わるように、メッセージを残すつもりで。
「退避――――!」
全員が出口に向かって駆け出す。私達は入り口に残って、大爆発を起こすべく三人の炎を合わせてでっかい塊を作り出した。
ふふん、今回のは自信作よ。魔力と魔力を縫合みたいに出来たから――あ。
これ、使えそう。さっき狐ちゃんにちょっとずつ魔力送れたし。
それはともかく。
私達は手を掲げて、一気に小屋に投げ込んだ。
多分犯罪者達は今頃散り散りになって逃げてるんじゃない?
それを想像すると、滑稽で面白い。
私とレーヴィと狐ちゃんは、外に出た。蜘蛛が居るかも、と身構えたけど、大丈夫だった。レーヴィが気を使って逃がしてくれたらしい。レーヴィさん最高!
「じゃ、帰ろっかー」
「その前にです、ミルヴィア様」
「んー?何ー?」
やだなー。どさくさ紛れに誤魔化せると思ったんだけど。
ユアンは悪魔の笑みで、こっちを見ていた。
「これから飛びに行くときは、レーヴィ様でも私でもカーティス様でもエリアス様でも、最悪猫族の少年でも、誰でもいいので連れて行ってください」
「はあい。じゃあね、狐ちゃんに私からお願い」
「何なの?」
私が狐ちゃんに向かって、ウインク。
「これからケンカした時は、真っ先にうちに来ること。誘拐されたら、今度こそ助けに行かなきゃならないからね」
「……了解なの。三日後の闇民の日、楽しみに待ってるの」
「はーい、サンキュ。じゃー私飛んで帰るから」
「待て」
「待ってね、ミルヴィア?」
「師匠、私もさすがに怒ってますよ?」
この後帰る途中、ずーっとネチネチネチネチお説教されたのは言うまでもない。
閲覧ありがとうございます。
お掃除、結構あっさり終わっちゃいましたが、この後誘拐犯達は大勢が犠牲になりボスが行方不明、最終的にあの大火事で駆け付けた冒険者に掴まると言う末路を辿ります。すごい不幸ですが、まあミルヴィアが知る事はないでしょう。多分。
次回、コナー君の事についてです。ミルヴィアと二人っきりで夜にお話。