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護衛編 発見

 土蜘蛛に乗った私達は、今、上空から下をのぞいていた。

 狼男のカーティス様がこちらを追って来ているのは、暗黙の了解として全員知っている。

 この土蜘蛛には四人ほどしか乗れないので、カーティス様には我慢してもらいましょう。あの方は正体を暴かれたくはないでしょうがね。


 レーヴィ様は土蜘蛛から伸びた糸を操って、土蜘蛛に指示を出していた。私としてはどうしてあの糸で精密な誘導が出来るのか、疑問が尽きませんが。

 とりあえず、今は町の空を飛んで気配を探っていた。が、収穫はなしだ。今のところミルヴィア様の髪の毛一本見かけない(これは比喩じゃなく、ミルヴィア様の髪の毛は黒色なのであれば目立つ)。


「ち、気配無いのう」

「そうですね。師匠の気配は皆無です。外に居たら、あの黒髪で目立つと思ったのですが」

「誘拐されてた場合、外になんか居ないだろ」

「ミルヴィア様がこの時間になっても帰ってないと言う事は、誘拐ですよ」

「というか皆の衆、誘拐の前提で話を進めておるが、帰れなくなったと言う可能性は?皆無じゃないじゃろ?迷ったとか、そんな子供らしい理由でいいんじゃよ?」

「あの方の方向感覚は素晴らしいですからね」

「そこだけは俺も認める」

「宮廷から飛んで帰れるほどですもんね。アイルズ殿も驚いてましたぞ」


 アイルズ様の驚く様子。

 観たいですね。観賞して、拍手を送りたいです。

 そう言えば、アイルズ様だけだ。ミルヴィア様が攫われた事を知らないのは。それだけで優越感を覚える。彼女に付き従うのは私だけでいい。


 そう思った途端、レーヴィ様の眼がきらりと光る。侵されてましたか。まあ、構わない。この際隠すつもりなどないのだから。

 レーヴィ様が、口を開く。


「神楽に付き従うのはお主と、儂と、小童と、小僧と、弟子と、あの庭師じゃよ。お主だけだなんて自惚れるでない。自分本位過ぎて虫唾が走る」

「そうですかね?好きな方と一緒に居たいと思うのは当然では?」

「お主のは征服欲じゃ。そんなんで神楽を壊されてたまるか」


 征服欲ではない。それに、ついでで言わせてもらえるならば、あの方はこれくらいで壊れるような軟な精神はしていない。石よりも固く、鉄よりも自在的で、空に浮かぶ雲のように壊し辛い。

 逆に、壊せたら、私だけのものになるのか。


 答えは否。彼女は魔王である前に吸血鬼であり、吸血鬼である前に強い人だ。壊されたとしても、もっと安全な所へ行く。そう、例えば。


「小童じゃな」

「ふふ、気が合いますね」


 エリアス様が一番安全と、彼女は思っている。正解だ。エリアス様以上に安全な人が居るとすれば、エリアス様より弱い人だ。

 カーティス様を選ばず、エリアス様に行くと、私は信じていますよ、ミルヴィア様。


「二人でなんだ、不気味すぎる。話すなら口に出して話せ。何か気が付いたのか?」

「いえ。それよりもエリアス様、誘拐犯がミルヴィア様を魔王だと知って攫ったとすればすぐに逃げ去るでしょうが、普通の女児と思って攫ったとすれば、恐らくまだ山奥です」

「魔王だと気付かず?」

「こんな所業、人族以外有り得ないでしょう」


 人族はまだ魔王が誰だかは知らない。故にこの件に関わっていると考えた方が自然だ。魔王と知って誘拐するなど、命知らずにもほどがある。

 そんな命知らずには、私が一族ごと滅ぼしましょう。


「……お主、」

「何も言わないでくださいよ?不気味と言われたばかりです」


 レーヴィ様は口を閉じた。そして直接、念話で語りかけてくる。これは無意識に在るゲートを通じて這入って来たのだろう。無意識にはゲートが存在し、そこから入り込むことによって夢魔は精神力を奪う。その際の念話が可能と言うのは魔法学的に証明されていた。

 レーヴィ様の最初の第一声は、私の予想を遥かに超えていたと言っていいだろう。


『お主、ただ神楽への信愛を恋愛だと勘違いしておるだけじゃろう』


「それは……聞き捨てならないですね」


 また、エリアス様が咎めるような目を向けてきた。笑って軽く受け流す。

 信愛と恋愛の取り違い。ありがちだが、今の私がそうだとは思えない。思いたくない。私のこれが信愛だとなってしまえば、論理が根本からひっくり返る。

 ただし、これが恋愛なのかと問われれば分からないと返すしかない。

 

 私は生まれてこの方、恋などした事が無いですからね。

 分からないのですよ。


「つっちゃん、奥に行っておくれ。ユアンの考えは当たっておるじゃろうよ。じゃから、儂は使われていない山小屋があるあの山じゃあ無いかと疑っておる。あそこがうるさいとつっちゃんも気が立っておるしな」

「そうか。じゃあ行ってくれ」


 エリアス様は蜘蛛がよほど嫌いなのか、気が立っていた。ビサ様は喋らず静かに周りを見ているし、レーヴィ様は糸での土蜘蛛との会話に熱心だ。

 マトモな人が居ませんね……強いて言うなら気が立っている私達に気を使って何も言っていないビサ様がマトモですかね。


「居た」

「え?」


 声を発したのは、エリアス様だった。真っ直ぐ前を見て、山奥にある小屋を見つめている。


「赤魔石の気配だ。あそこだな」

「ほほう、割と早く見つかったのう。さすが小童じゃ、赤魔石には敏感なんじゃな」

「いいから進め。急げ。あの猫族も居るぞ」


 猫族の少年が?

 カチリ、とピースが嵌る。つまり、ミルヴィア様は狐族の少女が誘拐されそうになっているのを見て、助けようとして巻き込まれた、と。あの方が負けるとなれば、大方魔導具でも使われたんでしょう。


 土蜘蛛が急速にそちらに近付いて行き、小屋の真上で止まる。小屋が大騒ぎになっているが、知った事じゃない、こちらとしてはミルヴィア様が居ればそれでいいのだ。

 垂らされた太目の粘着性のない糸を伝って、下に降りる。ふむ、滑って結構やりやすいですね。蜘蛛の糸と言うのは結構使い勝手が良いらしい。

 そして地面に足が付いた途端、勝負が始まる。


「ユアンは右の奴!ビサは奥に居る奴らを仕留めろ!レーヴィは」

「弱体化、じゃな!任せい、得意じゃわい!」

「ッ、こんなところにミルヴィアが居るの!?」

「カーティス!いいところに!肉弾戦だ、得意だろ!」

「分かったよ!」


 カーティス様が飛び出してきて、殴る蹴るで仕留めていく。無駄に剣を使わず得意分野で勝負している分、かなり速いですね。

 さて、私も始めますか。

 

 レーヴィ様の精神侵入によってふらふらとしている人達を、叩っ斬る。行動不能にまで陥らせれば十分、動こうともがく人には目もくれずとりあえず斬っておく。

 ふむ……随分やりにくいですが、まあいいでしょう。あの方を助けられればいいのですから。


 外の連中を一通り倒した後は、中に入る。ここ、思ったよりも広い。

 っ、もう、手段は選べませんね。

 片っ端から扉を開けて確認していく。目に付いた人は構わず殺る。そして、エリアス様の声が聞こえた。


「ここか!」


 全員、エリアス様の行った部屋に入る。

 両手足を拘束され、猿轡を噛まされ、目隠しをされた二人の少女。黒髪の少女と、銀髪の少女。ちょうど、エリアス様が黒髪の少女の目隠しを取った。


 こちらを見たミルヴィア様の目に涙があり、今にも気絶しそうなのを見て、全員が駆け寄った。


「しっかりして下さい!」

「う、」


 一番に着いた私が肩を揺さぶる。ミルヴィア様は、はっきりとは行かないものの、目を開いた。

 ああ。

 ああ、良かった。


「ビサ?て、あれ?ユアンも?お兄様?え、レーヴィと、エリアス」

 混乱したように、ミルヴィア様が言った。


「ああ、良かったです」


 そんな言葉が口を突いて出た。本心から言った言葉だった。


「気絶したかと思いましたよ」

「さすがに肝を冷やしたよ」

「神楽は世話が掛かるのう」

「魔王がそう簡単に捕まるなよ」


 口々にそんな言葉を言う。特にカーティス様は、安心して座り込んでしまいそうなほどにほっとした表情を浮かべていた。

 というか、みんなそうだ。


 ビサ様は満面の笑みを浮かべ。

 カーティス様は弱々しい笑顔をして。

 レーヴィ様だけは呵々大笑をし。

 エリアス様は突き放すような事を言いながらも口元に笑みが。


 ああ。

 ああ、この方は。

 愛されて、居るのですね。


「ミルヴィア!」


 ほっとした全員が、ビクッと肩を震わす。

 声のした方を見てみれば、鋭い猫目でこちらを見る猫族の少年と。

 綺麗な緑の髪の毛がまばらな色になってしまった、コナー様が居た。

閲覧ありがとうございます。

ユアン回でした。ユアン回は書くのが楽しいです。

次回、ミルヴィアがお掃除します。

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