83 誘拐犯の前で呑気に話
私の拷問(?)を終えた後、男達は情報収集のために飛び出していった。ボスがイラついてたから一緒に居たくなかったんだろうねー。
哀れにも見張りの三人は、奥の部屋に居るボスに怯えながら私達を見張っております。ご愁傷様~。
『にしても、魔王、いくらなんでも助けが遅い、の』
『……それはまあ、思ってたけどさ』
小屋に二つしかない窓。私達からは一つしか見えないけど、そこから見える景色は綺麗な星空だ。もう太陽なんて沈み切っている。満天の星は綺麗だけど、今はそんな感慨に浸っている場合じゃないしね。
何より、松明も照明もない小屋の中、星明りと月明かりだけで凌げている。
私達の背中の方にもう一つの窓があって月が見えてるみたいだし(影の方向的に私の背中から明かりがある感じ)、月を背負った吸血鬼なんて乙じゃない?
とかまあふざけてもしょうがないんだけど。
『お兄ちゃんはもう帰ってる頃なの。いつも日が沈み切る前には仲直りしてるから』
『ふうん。じゃあ今頃探してるんだね。ここ、そんなに山奥なのかな』
『ん、そうかもなの。何より一番の問題が』
『何?』
狐ちゃんは一拍置いて焦らすようにしてから、言った。
『――ご飯』
『……』
どうしよう、私からしてみれば全然問題ない。
血ぃさえあればどうにかなる種族だからなー。その血も無いわけだけど、いざとなれば舌を小さく噛んで血を味わえばどうにか……って、それお腹空いたからって指食べるようなもんじゃん。
怖!?
『水は、定期的に水責めしてくれれば飛んできた水でどうにかなりそうなの。猿轡に水が染み込んでるから、それを吸えばいいの』
『わお』
最近狐ちゃん、狐族としての矜持を失いかけてない?大丈夫?誇り高き狐族の設定は?いいの?
まあ、小路で生活してる時点で矜持も何もないのか……な……?
『でもそう都合よく水責めばっかりしてもらうわけにはいかないの』
『そうだね、私が寒いもんね』
『?魔王は死なないの』
『鬼畜か!結構キツイんだよ!』
いや、紛う事なき鬼畜だ。あれか?『死なないんだから何やっても大丈夫でしょ』的な?
冗談じゃない、あれかなり寒いんだからね!
『まあとにかく、少年は探してるわけだ。ならいつか私の屋敷に行くと思うんだよね、そこで私と狐ちゃんの件が同一視してもらえればなおよし』
『どうしてなの?』
『そんなの聞いて、エリアスが放っとくはずないでしょ』
『あの霊魂族が?どうして霊魂族なの?』
『んー?……あれ、どうしてだろ』
なんとなく?
何かなー、エリアスに関しては謎が多いのに、私どっかで知ってる気がするんだよねえ。知ってるのかな。知ってたとしたら、どこで知ったんだろう。
まさか神様に教えてもらったり出来たわけでもあるまいし。
『それは置いといて。とりあえずはレーヴィとビサに協力してもらえれば、かなり有利』
『聞いてばっかだけど、どうしてなの?』
『レーヴィは森から魔獣を連れて来られる。強いからね。ビサは兵士の知り合いがたくさんいるでしょ?だとしたら情報収集が得意なはず。兵長のビサは部下がたくさん』
『なるほど、なの。それにしても、私は何も役立ててないの……』
心なしか、落ち込んだような口調で狐ちゃんが言う。もしかして、少年とケンカした事かなり後悔してるのかな?
仲がいいお兄ちゃんが苛々してたから心配してあげた、優しい妹なんだけどね。
悪いのはレーヴィ、ひいてはレーヴィにお仕置きを頼んだ私、もしくは苛々してた少年。
『いやいや、狐ちゃんは何も悪くないよ』
『???悪いなんて思ってないの』
『あ、そうですか』
なんだ、さほど気にしてないの?気にしてないならそれ以上の事はない。気にしてたとしても、狐ちゃんは何も悪くないのは知ってるしね、私が!
私が知ってても何もなんないだろとかいう突っ込みは置いといて。
『とりあえず、今は人が来てくれるのを祈るしかないねー』
『魔王の言う人、って誰なの?』
『決まってるじゃん――皆、だよ』
お兄様。ユアン。エリアス。ビサ。レーヴィ。そして、もしかすると。
コナー君、とか、意外なゲストが来るかもよ。
閲覧ありがとうございます。
何とか毎日更新は維持できそうですが、相変わらず量が少ない……。
次回、誘拐犯が大騒ぎ。