81 小屋
数時間前。
どうも、主役のミルヴィアです。
私が出ずに五話も進んだみたいですねー。私主体の話ではあったけど。
話が五話も進んでる間に、私達は小屋に連れ込まれていた。そこらじゅうに蜘蛛の巣がある小屋、床は埃だらけの木造。
これが大自然の中で爽やかな風が吹いてたら掃除しよう!って気になるのかもしれないけど、禍々しい雰囲気でそんな気すら起きない。
でっかい屋敷で清潔な生活を送ってた身としては、辛いわー。
もうちょっと掃除しよう?せめてこの禍々しい雰囲気を表面上だけでも払拭しよう?
私、綺麗好きだったりするんだから。
『魔王が綺麗好き?……ぷっ』
『笑ったな』
狐ちゃんが有り得ないとでも言うように首を振る。いや、だって狐ちゃんの前じゃ掃除してなかったけど、小路も別に普通に歩けるけど、私としては結構綺麗好きと自負しているんですが。
お掃除したら結構いい部屋になると思うんだけどねー。
「おいてめぇら、怖ぇか?なあ、怖ぇだろ?」
「……」
全然?
とは、言わない。目に涙を浮かべて、うるうるさせる。演技には自信あんのよ。
案の定、男はにやりと意地悪い笑みを浮かべた。騙しやすっ!ユアンだったら絶対騙されないのに。
「なあそこの嬢ちゃん、お前珍しー種族なんだって?ハッ、お前の家族、売ったらどうなるだろうなあ?」
「……!」
狐ちゃんが必死でイヤイヤと首を振る。もちろん、演技なのは『以心伝心』で分かってる。
男はにやりと楽しそうな笑みを浮かべた。チョロッ!エリアスだったら絶対見抜くのに。
『狐ちゃん、ナイス演技』
『魔王こそ、なの』
何ならこのままハイタッチしてしまいたいくらい上機嫌だった。
こいつら多分、警戒しなくて全然平気。でも、手ぇ縛られて魔法使えないから厄介なんだよなあ。魔法さえ使えれば一瞬なんだけどなー。
そう思いつつ、これからの事をぼんやり考える。
皆が助けに来た場合。
私は安心してお家に帰り、ちゃんちゃん♪
皆が助けに来なかった場合。
奴隷用の魔法封鎖の首輪を付けられて、人族領で売られるだろう。そして魔王だと分かっても、多分山かどこかに捨てられるだけだよね。報復を恐れて首輪はそのままで。
最ッ悪じゃん!嫌だよこんな人生!
「ボ、ボス!」
『ボスぅ!?』
何て在り来たりな!
狐ちゃんと声がハモった。『以心伝心』、便利なり。
出て来たのは、片目に×印を付けた強面の男性。巨漢で、こちらを睨み付けてる。こいつ、ビサより背ぇ高いんじゃない?
ビサより高いって相当だよ、ビサが百七十八センチくらいだから、この人百九十センチくらい行ってるよ。
うーむ、さすがに威圧されてる。ビサもこういう感じを出せばいいのに。
あ、でもそうすると忠犬のイメージが崩れるからやめておこう。
「なあお前ら、帰りてぇか?」
「!」
なんだ……罠?
と思いつつ、頷く。なるべく期待を込めた眼で。しかし返って来たのは、愉悦に浸る最悪に気持ち悪い笑みだった。
うわあ。
「がっはっは!帰さないさ、俺が飼ってやらあ!」
「……」
『お断りします』
『まっぴらなの』
それもこいつには聞こえてないけど、一瞬だけ殺意が漏れちゃった。それで、全員が怖気付いたのが分かる。
いっその事ずっと殺意ダダ漏れにしてようかな。いつか気絶してくれるかも。
あー、でもそうなると睨んでるんじゃないって言って殴られそう。痛いのはやだな。
それにしても、この小屋の中寒い。いつもなら火魔法で小さく暖かいゾーンを作るんだけど(飛行中はそれで寒いのを防いでる)、この状態じゃそれすらもままならない。
ったくもう、この魔導具邪魔!なにこれ、これがもしトィートラッセで売られてたら破壊してやる!
……いや、止めておこう。大銀貨一枚で足りたらいい方だと思う、あそこは良心的な値段じゃないから。
にしても寒いな。例えるなら、十一月に半袖で外に出てる感じ。そりゃ寒いわ。凍え死ぬわ。
でもマジでそんな感じなんだよ。あーあ、あの屋敷の快適な温度が懐かしい。
『きっと、誰かは来るの。だけどそれまでにどんなひどい事をされるか』
『そして、助けに来た皆はそれをどうやり返すのか』
『見ものなの』
実に緊張感のないやり取り。確かに緊張はしてないな。絶対皆いつかは来てくれる。だから絶対帰られる。根拠はないけど、まあちょっと確信があるんだよね。
レーヴィも来そうだし。
『だけど、やり過ぎないようにちゃんと注意しないとね』
『私達がどうされようと、なの?』
『ま、性的になんかやられれば――』
私が笑顔を浮かべる。猿轡でよく見えなかっただろうけど、殺意だけは伝わったハズ。
皆がガクガク震えてるもん。
『ユアンとお兄様、主にこの二人がやっちゃう可能性はあるね』
『自分ではやらないの?』
『ん、やらない。二人が怒ってくれたらただ嬉しい』
『……自己犠牲的に他人に依存してるの、魔王は。それ、結構危険なの』
『自己犠牲的に他人に依存、ね』
……あれ?
これ、前にもどっかで言われたことあるような気がするんだけど……気のせい?
閲覧ありがとうございます。
はい、主人公はミルヴィアです。もう一度言います、主人公はミルヴィアです。
次回、誘拐犯たちがやらかします。