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夢魔編 虫が苦手な人は見ちゃだめじゃぞ

タイトル通り。


「――寝てますね」

「起こすか?」

「いえ、今起こすとどんな事が起きるか。夢魔の寝起きは最悪と聞きますし」


 儂が寝ておると、そんな声が聞こえてきた。

 なんじゃ、せっかく気持ちよく寝てたと言うのに。

 どれどれ、軽い悪戯をしてやろうかのう。

 

 『魅惑』を最大にしてオン。儂は寝転がっとるだけじゃが、あちらからすればさぞ甘美な絵柄に見えよう。

 楽しく思いながら、寝返りを打つ。おっと、さりげなくお腹のあたりを肌蹴させるのを忘れちゃいかん。男衆が息を呑むのが手に取るように分かった。


「っ、わ、たし」


 お、もう耐えきれんのが出たか。早いのう、神楽に精神面を鍛えるよう言わにゃならんのう。

 にやにやと心の中で笑いながら、その者の手の届かぬところへ寝返りをすることで移動する。ふうむ、感じからして弟子かの。

 あやつの精神、大丈夫か?


「おい待て夢魔、お前起きてるだろ」

「ばれたか」


 ばれれば、潔く立ち上がる。タンッとベッドから飛び降り、儂より数倍背の高い奴らを見上げる。それでも儂が一番長生きじゃというのだから、不思議じゃ。

 まあ、小童は儂に対して上手に出るがの。

 なんじゃろう、やはり魔王のオキニというのは自信を持たせるものなのじゃろうか。


「で、何の用じゃ?儂は心地よく寝ておったのに起こした罪は重いぞ」

「知らないな。さあ、さっそく聞かせてもらうが、お前は森の中で何番目の地位にいる?」


 おお、主導権を握ろうとしたのに、逆に奪われてしもうた。

 こうなれば、さっと諦めて考えたほうが早い。まあ、考えるまでもないことじゃが。


「二番目じゃな」

「……一番じゃないのか」

「おお、一番はマンティコアじゃからの。あやつには勝てんわい!」


 呵呵大笑すると、ユアンと弟子が顔を見合わせた。そんなに勝てんのが可笑しいか。

 そう思って睨み付けると、弟子が実に言いにくそうにしながら口を開く。


「私が倒しました、マンティコア」

「……は?」


 思わず間抜けな声が出たが、それさえも気にならん。

 まじか、こやつ。もしや、儂よりも強いんじゃないか?

 うわあ、うわあ。


「あの、そんな離れないでください」

「おぬし、そんなに強そうには見えんがの」

「レーヴィ様は立派な魔獣ですので、ビサ様には勝てないかと」


 なるほどのう。

 つまり、強さ順に表すと、今の段階では

 ユアン>小童=小僧>神楽=儂>弟子

 か。いずれ、神楽が全員を追い抜くのじゃろうなあ。楽しみじゃ楽しみじゃ。

 まるで本当の祖母のように笑いながら、儂は大体の状況を把握した。


 ……おい、そんな「嘘じゃろ」っつー顔をするな。儂だって頭くらいいいんじゃ。


「つまり、操りたい魔獣がいるっていうことじゃろ?それに加えて神楽が不在となれば、神楽がらみじゃ。ふむ、了解した。神楽を救うためというのなら、小童に協力することも厭わんよ」

「さすが、三百年生きた夢魔だ」

「正確には三百七十八年三ヵ月じゃがの」

「四捨五入すれば0歳だな」

「それじゃあどんなおばあちゃんだって0歳になるじゃあないか!」


 小童のからかいに、思わず乗ってしまう儂じゃった。

 三百年の老齢じゃというのに。

 まあよい、儂は懐が深いから見逃してやるわい。


「で、結局神楽はどうしたんじゃ?攫われでもしたのか?」

 

 軽くからかってやるつもりで言ったら、頷かれた。

 え?


「う、嘘じゃろ。攫われたんか?」 

「まあ」

「多分な」

「恐らくですが」


 儂はふっと息を吐いて、天を仰ぐ。


「何やってんじゃ神楽」

「だろ。とりあえず、鳥獣に乗って空から探したんだ」

「いいが、酔うなよ?嘔吐したら下の国民にかかるし」

「うわあ、いやですね」


 弟子ががちで嫌がっておった。む、すまんのう。

 儂らは庭に出た。途中で庭師とすれ違ったが、良かろう。

 儂らを殺さんばかりの視線で睨んでおったような気がしたが、気のせいじゃ、気のせい。

 

 庭に行くと、とりあえず考察。

 何がいいかのう。探すのに適した魔獣じゃろ?うーむ。


「そうじゃ、別に鳥獣じゃなくてもいいんじゃろ?」

「ん?いいけど、いるのかそんなの?」

「うむ、驚くかもしれんが、許せ」

「あ、ああ――」


 んじゃあ、遠慮なく。

 儂は思いっきり息を吸い込むと、叫んだ。夜じゃが、これくらいは許容してもらわんとのう。


「つっちゃーん、来とくれー!」

「つっちゃんっ!?」


 小童が驚いておる。

 そして、すぐにそれ(・・)は来た。

 厳密に言うと最初からそこに存在し、町中を監視する悪なる魔獣。儂以外は決して操れないであろう悪でありながら悪を許さぬ唯一無二でありながらどこにでも在るという矛盾を抱えた生物。


「つ、土蜘蛛!」

「黙っとれ、儂がいれば襲ってくることはない」


 弟子が叫びそうになったので、牽制しておく。叫んだら敵と見做されても仕方ないんじゃから。

 まあ、つっちゃんだけなんじゃがの、悪を許さぬっていうキャッチコピーは。


 不気味なカクカクした足に、真っ赤でこちらを見つめる目。真っ黒な胴体から伸びた糸は、絡め取られたらお終いじゃ。

 けどどうよ、言い方を変えてみればほら!

 

 すらりとした長い脚!

 つぶらな八つの瞳!

 ターゲットを逃さない、悪女のような糸!

 

 最高じゃあないか!男衆の望み全てを叶えておる!


「なるほど、土蜘蛛なら糸を辿ればいいわけですか。考えましたね」

「正直言うと、つっちゃんも飛べるからの、最適じゃろう」

「飛べるのか、こいつ」


 小童が驚きつつ、さり気なくつっちゃんから距離を取っておる。弟子に隠れてわかりづらかったが、こやつも相当に虫嫌いらしい。

 つっちゃんが傷つくからやめてほしいんじゃが。つっちゃんはもう誰も食べてないはずじゃし。

 今は大気中の魔力を食べて生きておるんじゃったかのう。


「さあ乗ろう!」

「嫌だ」


 儂がつっちゃんに乗り、次いでユアンが乗り、最後に怖がりながら弟子が乗ったというのに、小童だけは即答で断った。


「魔王が見つからなくてもいいのか?儂は別にいいんじゃぞ」

 

 よかないが、小童には効いたようじゃった。渋々、つっちゃんの背中に乗る。それでもあと五人ほどは乗れるつっちゃんは、ちょっと太っとるかのう?

 そう思ったとたん、つっちゃんは助走もつけず跳んだ。糸をそこら中に撒き散らしつつ、ぴんとした糸を操りつつ空中で高度を保つ。


「師匠のほうがいいです……」

「儂も同感じゃ!」


 高速で移動するつっちゃん。

 どうやら怒らせてしまったらしい。


 ……ふうむ。

 神楽、まだちょっとかかりそうじゃ。

閲覧ありがとうございます。

この前一章が終わったばかりなのに、もう累計百話。早かった気がする。

初登場のつっちゃん、次回は出ません。

次回、ようやく神楽サイドです。

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