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弟子編 捜索

「止め!」

「はっ!」


 私が声を掛けると、一斉に動きが止まる。前まではこの事に優越感を覚えていたのだが、師匠に会ってからはそれも薄れた。

 師匠は私よりも強い。

 そしてその師匠よりも強い人間が居て。

 しかしそれを師匠は追い抜く。

 それなのに、只の兵長である私が驕るなど言語道断。私は師匠の教え通りやるのだ。


 人を使い潰すな。

 素早さが無いのなら威圧しろ。

 偉くなったと思うな、偉くとも弱かったら意味がない。

 まあここまで過激な事は言ってないが、良いだろう。

 師匠は私に目をかけて下さった。私が師匠を師匠と呼ぶのは、魔王故ではなく、素直に人として尊敬しているからだ。


「兵長、ご飯、行きませんか?」

「ん?」


 訓練を終えた兵士が言う。確か……メズと言ったか。

 メズはにこにこ笑いながら、後ろに控える兵士達を見た。


「なぁ、兵長と飯行くよな!」

「おおー!」


 という訳で、私達は食堂街に向かった。大衆食堂の『ラットリア』にでも行くつもりだ。

 途中でいつかの庭師と会って一言二言言葉を交わしたけれど、その時の事はあまり憶えていない。

 『ラットリア』に付いて数十分。

 メズは酒を頼んでいた。


「にしてもー、兵長昇進の上にぃ、魔王様に気に入られるとかぁ、へーちょーすっごいっすよねー」

「そうだろうか」


 絶対酔っている……。

 こいつの家、どこだったかな。奥さんも居るという話だったから、途中で物取りにでもあったらたまらない。

 『ラットリア』に着いてから約一時間、皆良い感じに酔ってきた。

 ので、帰る事にする。


 元から訓練帰りで、皆家族に話していない。これ以上の長居は、逆に迷惑だ。


「奢ろう」

「えっ、そんな兵長、悪いです……!」

「いいじゃないか」


 値段も、大銅貨一枚でお釣りが来るし、この大衆食堂は兵士に優しい。

 今度もし昇進出来たら、兵士達を『夕足れ木立ち』にでも連れて行ってあげるか。ああでも、今日食べた分だけでも『夕足れ木立ち』では小銀貨三枚になるだろうな。

 あー、兵士には辛い。『夕足れ木立ち』には騎士くらいしか行けないのだ。


「ビサ様」

「ん――あ、ユアン殿」


 本物の騎士が来た。

 ここでこの国での兵士と騎士の区別を説明しておこう。


 兵士は戦闘要員だ。戦いの時もっとも力を発揮できるよう訓練されている。国のため戦い、国に貢献する。たまには魔獣退治もお手の物、魔王から依頼されればすぐに魔獣退治へ出かける。

 それに対し、騎士は護衛に特化している。主を護るため、いざと言う時には身投げの覚悟を出来るよう訓練され、当然、訓練もされている。だが、当然国に訓練されているわけではない。国に『騎士』になるための条件は皆無だ。


 決定的な違いは、雇い主だ。

 兵士は『国』に。

 騎士は『個人』に雇われている。

 つまり、私の主は国で、ユアン殿の主は師匠だ。

 まあ、『国』は師匠(魔王)なのだから結果的には似たような物だが。


「ビサ様、少し良いでしょうか」


 良く見てみれば、エリアス殿も居た。

 訝しく思いつつ、メズの同僚がメズを送ってくると言ってくれたので、この場は任せて先に抜けた。

 若い者同士、話もあるだろう(九十八歳)。

 外に出た。日はとっくに沈んで真っ暗だったが、火魔法の松明のお陰で辺りは少しだけ明るかった。

 星……は、出てないか。

 と、ユアン殿の顏が見える。


 蒼白で、苛立っていて、尚且つ余裕のない顔だった。

 ……そう言えば、師匠は。


「ビサ様、単刀直入に申し上げます。ミルヴィア様が行方不明になりました」

「……」


 私は何も言わず、目を細めた。なるほど、そういう事だったか。

 どうする……とりあえず、知り合いの兵士全員に当たるか。もしかすると何か知ってるやつが居るかもしれない。


「今朝、飛行して遊ぶって言ってたんだが」

「ああ、では今日奥さんが山へ行っている兵士が居たはずです」


 頭の中で、アファルの住所を思い出す。あいつは、確かこの近くに住んでたか。


「……私を責めないのですね」

「はい。ユアン殿のせいじゃないんですから。恐らく、師匠が粗相をしたか、何かに巻き込まれたかのどちらかだと思います」

「そうだが、お前、すごいな」

「何がですか?」

「庭師のコナーは随分取り乱してたぞ」

「ああ。あの子はまだ子供だし、私とは違います。師匠の事が大好きなようですし、仕方ないかと」


 頭の中で情報を整理しながら答えた。ここら辺、師匠に似て来ただろうか。

 とりあえず今すべき事は師匠を見つけることであって、誰かを責めることではない。しかしユアン殿を責めた少年を叱責もしない。

 不安でたまらないだけだろうから。


 ううむ、しかし困った。空で行方不明になっているのなら、探しようがないぞ。空を飛べる種族など、それこそどこにも居な――


「あ」

「?なんですか、ビサ様」

「いました、一人」

「……何がだ。答えろ」


 いつの間にか尋問のようになっていた。いいけれど。

 空が飛べなくても、跳べればいい。それならばユアン殿が居るけれど、ユアン殿は長時間跳べなかった。。

 ならばどうするか。


 簡単だ、飛べるものの力を借りる。つまりは鳥獣を飼っている奴という事になるのだが、生憎とここらにそんな変わり者はいない。


「魔獣は強者に従います。魔獣の強者を説得すれば、空を飛ぶ魔獣に乗せてもらえるのでは?」

「だからどうした。魔獣など森に行かないと会えんぞ」

「そうでしょうか」

「?」

「……ああ。しかし、あの方の力は借りたくないですねえ」


 ユアン殿は思い当たる節があったらしく、にやりと笑顔を浮かべて頷いた。

 少しずつ、いつもの調子に戻っている気がする。師匠の言葉を借りるなら、『そうでなくちゃ』だ。


「そうも言ってられないと思いますが?なにより、早く師匠を見つけたいのは全員の総意でしょう」

「まあ、そうですが」

「待て、何の話だ?魔獣の強者など、ここらには」

「居ますよ、今も惰眠を貪っているであろうあの方が」

「……嫌だぞ、俺はあいつとは関わらない」


 よっぽど嫌だったのか、エリアス殿が言った。確かに、男は絶対に関わりたくない相手ではあるのだが、仕方がない。

 支障を助けるためなら手段を選ばない。択べるはずがないのだから。


「行きましょう。今から行けば、八時前には着けるかと」

「チ、そこから森へ行って鳥獣を説得して空から捜しそこへ陸から行く――どれだけの労力だ。いくら魔王の事と言えど、俺は明日の仕事が」

「休んで下さいね?」


 ユアン殿が有無を言わさず口調で言った。

 その通り、エリアス殿も、立場上魔王が居ないと困る。だからこそ、協力が望めるわけで。

 そうなって来ると、かなり良好な方へ進んでいる気がする。

 少なくとも、今は。



 その頃、屋敷では。


「くああ、久々に良く寝たのう。おうい神楽ー!神楽ー。んん?居ぬのか?うお!?神楽どころか、男衆の気配が皆無じゃぞ!は!?何が起こっとるのじゃ!?ぬおお!もう七時半!?おっそ!どれだけ寝とったんじゃ儂は!……まあ、取りあえず、皆が来るまでもう一眠りするかのう。………………Zzzzz」


 


閲覧ありがとうございます。

ビサは結構大人ですが、一応まだ若者です(百歳越え)。魔族って……。

次回、レーヴィ視点でのお話です。『夢魔編』になってますが、お兄様ではなく夢魔なのであしからず。

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