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8 情報

 というわけで、トィーチさんは呪いに関しての情報をくれた。


「呪いっつーのは、人の強い憎しみ、恨み、愛憎、憎悪から来るものなのさ。そして、あの天井からぶら下がってるグラス玉があるだろう?」


 トィーチさんはぶら下がってるグラス玉を指差した。色とりどりのガラス玉は、蝋燭の光を反射して光っている。

 あれが何か?


「あれは感情が封じ込められていて、そこに魔力を追加すると呪いという形になって現れる。ちなみに一つ大金貨が四十枚だ」

「高っ!?」

「そりゃあ、ガラス玉の中の感情は他者から抜き取ったものだからねえ。その人はもうその感情が無いわけさ。となると、大金貨百枚でも足りないくらいさ」

「それで、呪うには感情が形になる物とガラス玉の物しか出来ない?」

「いんや、呪いの部族なら可能だ。正式名称はラアナフォーリだったかな」

「呪いの部族」

「ああ。知らんかね」

「五歳なもので」


 嘘じゃないよ?

 こっち来てからは五年だからね。てか、もっと言えば目覚めて一日だからね。昨日本で読んだ分しか知識無いから。


「ラアナフォーリ、呪いの部族。ラアナフォーリは呪いを思いのままに操れる。お前さんを呪おうと思えばすぐに呪える。呪い方も、様々だ」


 トィーチさんは指折り数えながら教えてくれた。


「即死、苦痛、絶縁、流産、厄寄せ、事故、貧乏、学業不振、短寿、不況、恋愛頓挫、挫折、他にも色々」

「…私は苦痛が嫌」

「私は絶縁が耐えられません」

「私はやっぱり不況かねえ」

 

 私は苦痛、ユアンさんは絶縁、トィーチさんは不況。全部嫌だ。

 苦痛なんて屈辱的じゃないか。絶縁も不況も別に良い。短寿なんかは私にやられても多分効果ない。万智鶴様の剣じゃないと貫けないんだから。


 苦しいのってすごい屈辱。絶縁は一人ぼっち。不況はこのお店が立ち行かなくなるって事。


「他にも、呪いの部族には招福というのも使える」

「招福?」

「人に不幸を呼び寄せる事も、福を呼び寄せる事も出来るラアナフォーリ。一時は重要視されたんだけどねえ…」

 

 その口振りからして、暗殺か何かをされたんだろう。


「もう残ってないだろうねえ。そういえば、吸血鬼もラアナフォーリに呪われて出来た部族だったね」

「え?」

「いや、単なる伝承だがね。初代吸血鬼はラアナフォーリに呪われたんだ。流血の呪いが微妙に失敗して吸血の呪いになってしまった。そして、吸血鬼は血を吸えば吸血の呪いを受け継げるようになった。ついでにとんでもないほどの固有魔法(ユニークマジック)を得たとか」

「へー」


 なんですか流血の呪いって。

 めちゃ物騒じゃないっすか。


「で、ラアナフォーリの全滅と同時に吸血鬼の討伐が開始された。今となっちゃあ吸血鬼なんぞ誰も居ないだろうよ」

「そう」


 いますよーここに。あなたの目の前に。魔王でありながら吸血鬼である人がー。


「呪いはこのくらいかな。次は勇者だ。ほら、情報料」

「あっ!」

 

 私お財布持ってない!情報料小銀貨三枚、払えない!


「私が出しますよ」


 ユアンさんが財布を取り出しながら言う。そういえば、綺麗な革の財布。センスいいな。

 

「だめですよ、一回出直して……」

「その頃にはもう閉まってますよ」

「もうそんな時間ですか?」

「トィーチ様はお客が一人だけ来ると帰った時すぐ閉めますから。後で来ると言っても無駄です」

「うー、後でお兄様から借ります」

「そうしてください」


 ユアンさんはニッコリ笑うとお財布から小銀貨を三枚取り出し、トィーチさんに渡した。トィーチさんはほう、と息を吐いた。


「小銀貨三枚を持ち運ぶ輩なんてあまり居ないんだがねえ」

「いいから話して」

「はいはい」

 

 トィーチさんは、次は勇者の情報を話し始めた。


「勇者はかなりの怠け者だね。しかも魔力が薄い。剣の才能はある、ただしサボり気味、師匠のデリックが頑張って矯正中。まあ難しいだろうとは思うね。魔王をなめてる節がある。すぐ、思い直すだろうけど。デリックを嫌ってるね。甘やかされて育ったから」

「王子様みたい」

「王子だよ」

「ふぁっ!?」

「勇者は王子だ。あいつが国王になった時にゃ、人族壊滅の時だね」

「魔族は人族を嫌ってる?」

「いや、別に?」


 おっと、予想外。別に嫌ってないのか。聞くと、あっちから攻撃してこない限りこっちからは攻撃しないとか。さすが平和主義国家。


「勇者は父さん母さんの事を大好きみたいだ。甘やかしてくれる人間には大体懐く」

「ミルヴィア様は、自分より強い人を好きますよね」

「ほっといて」


 なんだろう、恥ずかしい。ユアンさんも察したのか、ニッコリ笑いながら黙っていた。


 その後トィーチさんから語られた勇者の情報は、小説で見る勇者とはかけ離れたものだった。


 まず、勇者は訓練をサボる。師匠を嫌って、おそらく王になった暁には不敬罪で処刑するつもり。ちなみに、契約書に王子に対して王子と見做さずとも良いと書かれてるんだから不敬罪になんかできるわけもない。王の血判も押してあるんだから、捏造だとも言えないしね。


 帝王学?何それ美味しいの?

 魔王?何それ弱いんでしょ?

 父さんと母さん?好きだけど僕の方が立場が上でしょ?

 師匠?僕の方が強いくせにあんなに威張って馬鹿みたいだよね。

 

 …と、本当に王城のメイドさんに愚痴ってるらしい。で、そのメイドさんから情報が入ってるんだって。


「なんというか…先代の勇者とは真逆の方ですね」

「そうなの?」

「はい。先代勇者と先代魔王様の戦いと言ったらもう!剣で六時間戦い、勇者様の剣が魔王様を貫いた時――誰も文句のない戦いでした」

「へ、へー」


 よく先代魔王の話が出るし、ちょっと調べてみようかな。どうやって調べるのかって?そりゃ、まあ、どうにかして、だよ。


「最後、魔導具」

「おお、では何か買ってくれ」

「解呪の魔導具とか」

「ないね」

「あら」


 随分あっさり言い切りましたね。これはつまり、解呪なんて出来ないって事だろう。呪われたら致命的。あの学校に通う他ない。


「魔力循環を促すっていうのはどうだい。無言詠唱が楽になるよ。ほら、この腕輪なんだがね」

「じゃ、それ…いくら?」

「大銅貨一枚だよ」

「どうぞ」


 大銀貨を取り出し、お釣りをもらう。もらった腕輪は普通の腕輪にしか見えない。金色のリングにぱらぱらと宝石が散りばめられている。控え目で、どちらかというと引き立て役だ。


「魔力循環を促す腕輪、それはフォルスブレスレーラ(魔力の腕輪)と言うんだ。で、ミルヴィアは魔力はどっから来ると思う」


 えー、急に言われても。体内を循環する魔力…循環…あっ!?


「血」

「正解。だから、吸血の魔族である吸血鬼は魔力が高いんだ」


 ふーん、私の黒髪はそのせいか。


「魔力は年を取ると詰まりやすくなる。それに体調が弱ってる時もね」


 動脈硬化みたいなものか。


「魔力が循環しなくなると、解けてなくなってしまう。魔族が魔力を失いかけるとどうなると思う」

「…」


 分からない、と首を振る。


「死ぬよ。消滅だ」

「消滅」

「そう。体も骨も脳も、何もかも無くなってしまう。魔力が消えると言う事は、魔族にとって致命的、いや、死そのものだ」

「魔王は魔力が無くならないから寿命が無い?」

「そうだ。魔王の魔力は自然界の理に直接かかわっている。そこに木があれば、空気があれば、雲があれば、魔王は決して魔力を失わない」


 魔王の寿命が無い理由が判明した。なるほど。そりゃ最強なわけだ。魔王の魔力吸収に必要なのはこの赤魔石かな?

 そっと胸元を触る。固い石の感覚があった。

 

「それで、魔力が詰まった時に使うのが」

「この腕輪ってわけさ。これは消耗品というわけでも無いからね。本当ならもっと高いのさ。私はもう製造方法を見出したから不必要だし安く売れるんだけどね」

「なるほど。それを市場の職人に言うつもりは?」

「ない。まったくないね。あんたが複製しようが勝手だけれど、売らない方がいいよ。目をつけられるからね」

「吸血鬼は魔力が詰まる?」

「詰まらない。それどころか血を吸うたびに増えていく。それに傷口を舐めるとその人の傷が回復する」

「あー……」


 うん、確かに。あれってやっぱり吸血鬼の能力だったのね。固有魔法(ユニークマジック)に含まれていないのは、治癒能力という当たり前の能力だから、かな?


「っと、で、道具に魔法をかけりゃあ魔導具になるってもんじゃない。ここに魔力の回路があるのが分かるかい?」

「この模様?」


 綺麗な模様だけど、魔力の回路だったのか!ぐるぐる回ったり丸かったり四角かったりしてるけど、それ全部が細い線で繋がっている。これかあ。


「そう。回路はどんなのでも構わない。腕輪を一周するだけでも構わない。それだけだと魔力を流せる量が少なくなるから大した効果はない」

「だからこんなに複雑な模様なのか」

「ああ。それに、魔力回路…というんだが、魔力回路に細かな魔女文字…異界語じゃなく古代文字のほうだ。魔女文字を彫ると効果が違う。魔女文字の違いは自分で調べてくれ。…これくらいか」

「ありがとう」


 私はユアンさんの方に向き直った。


「手、出してください」

「?」


 ユアンさんは分からないまま手を出した。私はそこに腕輪を嵌める。


「帰ったらお金は返します」

「い、いえ、お金を頂くならこれはミルヴィア様の物です」

「いいじゃないですか、これくらいカッコつけさせてください」


 私は笑うと、トィーチさんに一礼してトィートラッセを出た。


 でも、そうか。私はまず魔法訓練しないとな。お兄様に手伝って貰おう。簡単な魔法なら全然使えるんだけど、もっと精密に使いたい。ユアンさんに気絶させられた時は大雑把すぎてガード出来なかった。

 

 指先で砂粒一つを正確に動かせるように、砂粒一つ分の魔力だけしか出さないように。これが案外難しい。私だって膨大な魔力をすこーしずつ使わなきゃいけない。

 魔力を水だとして、砂粒分の水だけを取ろうとしてもほとんど無理でしょ。それとおんなじくらい難しい。


 長い長い螺旋階段を上り終わり、外の光が見えた。


 帰ったら、ユアンさんに付き合ってもらいながら魔法訓練しよう。

閲覧ありがとうございます。

すみません、予告詐欺でした。呪いの説明じゃなくて、呪い、勇者、魔導具の説明でした。

次回、ミルヴィアが色々やらかします。

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