表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.騎士と紅の瞳の新入生
9/40

07 王国暦五九八年 コンセル 二十五日

「…なっ」

 朝っぱらから、会長が来た。

 テスト、もう用意したって言うのか?

「諸君。今日は一日潰して、私の問題を解いてくれるという話しだったな。今日はこの問題が解けるまで、教室からの出入りを禁止する。もちろん、テストを拒否しても構わないが、一度教室から出た者の再入室は禁じる。あぁ。この教室にあるものは、何を使ってくれても構わない。食事はこちらで準備しよう。…テストに参加しない者は?」

 敵前逃亡をする奴がいるかよ。

「そうか。では、はじめよう」

 そう言って、会長が。

 黒板にテストの問題を、書く?

 なんだって?なんで、用紙で準備しないんだよ。

 会長も何も見ないで書いているから、本当に用紙は準備していないらしい。

 っていうか、何語だ、あれ。

 隣を見ると、エルロックがすでにノートに書き始めている。

 教室の一番前に座っているセリーヌも、ノートを開いて何かを書き始めた。

「古代語か…」

 シャルロがそう言って、エルロックの元に来る。

 エルロックが現代語に翻訳し続けているが、いくつか単語を古代語や現代語の音だけで記入している。

「これ。人の名前じゃないかなぁ。…歴史上の人ぉ。教科書に載ってるかもぉ」

 歴史はユリアの得意分野だ。

「おい、最初の問題消されるぞ。誰か写しておけ!」

「こっちで写してるわ」

 セリーヌが応える。

「そういうことか」

「どうしたの?シャルロ」

「ユリア、一問目解けるか?」

「んー…。この人誰だっけなぁ。イエイツ?」

 イエイツって。

「それ、騎士じゃないか?」

「じゃ、カミーユ。一緒に解いてぇ?」

「まじかよ」

 俺にテストの問題やらせるって言うのか?

 ユリアの側に行く。

「イエイツって、何やった人なのぉ?」

「現代の騎士の制度についてまとめ直した人物だよ」

「流石、騎士っ子だねぇ」

 なんだ、騎士っ子って。

「騎士の階級、全部ノートに書き出して欲しいなぁ」

「それ、問題に関係あるのか?」

「たぶんー?」

「たぶんって」

「良いから書いてぇ?時間ないよぉ」

 騎士の階級、制度。少し貴族の制度だって入ってくる。

「図解で良いか?」

「うん。良いよぉ」

 騎士の制度は兄貴から一通り教わってる。

 まさか、養成所でその知識が役に立つなんてな。


「全員、手を止めろ!」

 担任教師の声がして、手を止める。

「いいか。ランチの時間は手を休めろ。作業は禁止だ」

「えー」

「食事はきちんととるように!」

「はーい」

 もう、昼なのか…。

 机に突っ伏してるエルロックの側に行く。

「大丈夫か?エルロック」

 死んだように動かない。

 ずっと、古代語で書かれた問題の翻訳をやり続けているらしい。

 あの会長、馬鹿みたいな長文を問題として押し付けてるから。

「わぁ、ケーキまであるわ」

「やった。午後も捗るわね」

 ケーキか。

 たぶん、エルロックが食べるだろう。

 シャルロと一緒に、自分の分とエルロックの分のランチを持ってくる。

「あの会長、本気出し過ぎだろ」

「一問目はどうなった?」

「あぁ?あんなもん、とっくの昔に終わらせたよ。要は現在の騎士の階級制度についてまとめたのは誰で、その制度を詳しく述べよって問題だ。これ間違えたら、親父に何言われるかわからないからな。そっちはどうなんだよ」

「法律の問題なら、もうすぐ終わる。終わったら、錬金術の問題に取り掛かるぞ」

「アレクシス様が選んだ本、借りといて良かったな」

 というか。アレクシス様が居なかったら、終わってた。

「エルロック。いつまでも死んでないで、ちゃんと食べろ」

 ようやく、エルロックが体を起こす。

 フォークを持って、最初に食べ始めたのはケーキだ。

「なんで、それから食うんだよ」

 本当に、女みたいなやつ。


 午後。

 四限目の授業を終えるチャイムが鳴るころ。

 ようやく。

「終わったー!」

「こっちも、なんとか…」

「自信ないな。もう一度確認しておこう」

「私のも見てー」

 後は、エルロックがやってる、古代語の翻訳だ。

 エルロックが、ノートを掲げる。

「お。終わったか」

 エルロックが頷く。

 シャルロがばらばらにやっていた皆の答えをまとめて、担任の教師に提出する。

「おー。ご苦労さん。会長に提出してくるから、お前らはこのまま解散して良いぞ」

 監督役をしていた担任教師が眠そうにそう言って、教室を出て行く。

 みんなが、机に突っ伏して死んでるエルロックの元に行く。

 ずっと翻訳をしてたんだから、相当疲れただろう。

「お疲れ様。本当に古代語得意なのね」

「今度図書館のあれ。翻訳してもらおうかなぁ」

「あぁ、あの本。ちょっと読みたいよね」

 エルロックが頭を上げて、また、何か書きはじめる。

 これは、クラス全員の名前?

「何やってるの?エルロック」

 名前はわかるけど、顔がわからない。

 エルロックがそう書くと、マリー、セリーヌ、ユリアが笑う。

「私はセリーヌよ」

 セリーヌがそう言って、ノートに何か書く。

「あ、あたしもぉ」

 ユリアも何か書いて、ペンをマリーに回す。

「はい」

「何書こうかしら」

 次から次へと、ペンを回して、みんながエルロックのノートに文字を残していく。

 あぁ、そういうことか。

 全部で二十人。

 俺も、自分の名前の横に文字を書く。

「あ、一人足りないぜ、これ」

 二十一人目のクラスメイトの名前を書く。

 エルロック・クラニス。

「ほら、お前も何か書けよ」

 お前だって、クラスの一員だろ。

 エルロックにペンを渡すが、何を書くか悩んでいるようだ。

「悩むことか?エルロック」

 エルロックが俺の顔を見る。

 そして書いた言葉は。


 呼び方。エルで良いよ。


 あぁ。変な奴。

「よろしくな、エル」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ