04 王国暦五九八年 コンセル 二十一日
コンセルの十七から二十日にかけてあった養成所の前期のテストが終わる。
補習が確定してる教科がいくつかあるな…。
だから、勉強は苦手だ。
朝のホームルームの後。
エルロックにシャルロが話しかける。
「エルロック。…これ、やってみろ」
それだけ言って、シャルロが席に着く。
何を渡したんだ?
「おーい、全員座れ!授業を始めるぞ」
一限目、二限目。
エルロックは、ずっとシャルロが渡した紙を見ながら何かノートに書き続けている。
今日は酷い。
「おい、エルロック!」
教師が何度呼びかけても、完全無視。
教師の方が諦めて、授業を続ける。
ランチの時間も、当然のように無反応。
シャルロを誘って、食堂へ行く。
「なぁ、エルロックに何渡したんだ?」
「テストだ」
「テスト?」
テストなんて、終わったばかりなのに。
「あんなに集中して取り組むと思わなかったな」
あ。そういえば。
「あいつ、そういうの断らないと思うぜ」
「断らない?」
「なんていうか。聞いたことには何でも答えるみたいだ」
数学の問題も丁寧に教えてくれたし。
俺が作った薬だって、疑いもせずに一気飲みしたな…。
「実はすっげー素直な奴かも」
「素直?あんなに教師に反抗的な態度取ってる奴が?」
反抗的な態度っていうか。
たぶん、話しを聞いてないだけなんだろう。
「なんか作って持って行ってやるか。…いや、やることあったんだ」
「やること?」
「シャルロ、あいつにサンドイッチでも作って持って行ってくれ。俺はランチを食べたら用事がある」
「あいつの好みなんて知らないぞ」
「何でも食うんじゃないか?」
「適当な奴だな」
この前作った声を出せるようになる薬。
もう一つ試作出来そうなんだよな。
薬を作って戻ると、俺の机の上にサンドイッチが置かれている。
「食わなかったのか?」
「食えって言ったが、あの調子だ」
また無視か。
「おい、食えよ」
エルロックが解いているノートの上に、サンドイッチと薬の入った紙コップを置く。
ようやく顔を上げたエルロックが、眉をしかめる。
「もう昼休み終わるぞ」
時計を見て、ようやく気付いたらしい。
エルロックは右手でサンドイッチを持ちながら、またノートにペンを走らせる。
「なぁ。何やってるんだ?」
テストを見ても、何のテストかわからない。
「教師が怒ってたぞ。お前、本当に人の話し無視するよな」
口をもごもごと動かしながら、エルロックが顔を上げる。
そんなつもりはない、とでも言いたげに。
そして、薬を飲む。
「効くか?」
まぁ、前回のと大差ない、ドリンクだけど。
口の中のものを飲み込んで、エルロックが口を動かす。
「……」
声は出ないらしい。
っていうか、そんなサンドイッチをほおばりながらじゃ、薬の効果なさそうだな。
四限目の授業中。
突然、エルロックが立ち上がる。
「どうした?エルロック」
クラスの全員が、エルロックに注目したが、そんなことは構わずに、エルロックが帰宅の準備を始める。
え?
シャルロの机に、ノートとテスト置くと、自分の席に戻って荷物を取り、教室から出て行った。
「こら!エルロック!」
教師が呼んだ時には、もう教室の扉が閉まっていた。
みんなが、シャルロの机に集まる。
エルロックが一日中解いてたテスト。
みんなも気になるんだろう。
「シャルロ、何やらせてたんだ?」
「頼まれたんだよ。…でも、本当に全部解いたのか?あいつ…」
「ねぇ、見せてよ。すごい難しそうな問題だったわ」
「見たの?」
「だって、エルロック、目の前に居ても気づかないんだもん」
「俺も見たぜ。錬金術のテストだろ?」
「錬金術?」
「こら!全員、席に着け!」
教師が叫んで、皆がしぶしぶ席に着く。
シャルロは、エルロックのノートを見ている。
錬金術の、テストだって?
午後のホームルームにも、エルロックは戻ってこなかった。
代わりに、担任の教師が、エルロックがやっていたテストの問題とノートをシャルロから取り上げていた。