Rêve de Chevalier
試合が始まってから、どれぐらい時間が経過したのかわからない。
剣先を相手に向けながら、カミーユが額の汗をぬぐう。
そして、両手で剣を握り直すと、相手に向かって駆ける。
王国歴六〇四年。カプリコルヌの三十日。
養成所の演習場では、間もなく卒業を控えたカミーユの七等騎士の叙勲を決める試験が行われている。
試験の内容は、皇太子近衛騎士となったヴェロニクとの試合。
ラングリオンの皇太子が見守る中、試合は長期戦にもつれ込んでいた。
数度、剣を合わせてから鍔迫り合い。
お互いの呼吸の荒さが、長期戦による二人の疲弊を物語る。
…負けられない。
騎士の叙勲は、勝敗ではなく試合の内容で判断される為、カミーユがヴェロニクに勝つ必要はない。
けれど、どちらにも負けられない理由がある。
一歩も譲らない鍔迫り合いの末、押し負けそうになったヴェロニクが一歩引き、カミーユの剣先を自分の右手に落としながら翻した剣を、カミーユに向かって突き刺す。
同時に、カミーユは鍔迫り合いの優勢を生かしてヴェロニクに向かって剣を振る。
「そこまで!」
審判の声にも関わらず、カミーユの心臓を狙う剣と、ヴェロニクの首を狙う剣は、にらみ合ったまま動かない。
「両者、剣を引くように」
再度の警告にも関わらず、二人は微動だにしない。
「ロニー。剣を下ろすように」
「御意」
主君の命令に従ったヴェロニクが先に剣を納め、続いてカミーユも剣を引く。
「試合終了。…礼!」
審判に従って礼をした二人の側にラングリオンの皇太子が近づくと、カミーユとヴェロニクがその場に跪く。
「カミーユ。君がロニーと互角に戦うとは思っていなかったよ」
「光栄です。…アレクシス様に勝利を捧げられなかったことが残念です」
「良い試合だったよ」
「とんでもない。騎士の名も持たない剣士と引き分けたとあっては、皇太子近衛騎士としての恥です」
二人が勝利への執着を最後まで捨てきれなかった理由に、皇太子が苦笑する。
「困ったな。ロニーの汚名を晴らすのに一番手っ取り早い方法は、君が私の近衛騎士になってくれることなんだけどね」
「…アレクシス様」
「良いんだよ。私の答えは変わらない。君の答えも変わらないのだろう」
カミーユが顔を上げる。
「はい」
「では、騎士の叙勲を行おうか」
「え?」
「会長から騎士の叙勲を任せてもらったんだ。君は養成所で騎士としての心得を十分に学び、そして今、ラングリオンの騎士と名乗るに相応しい戦いをした。君に与えられる位が七等騎士でしかないのが残念でならないよ」
ラングリオンにおける最上位の騎士が七等騎士の叙勲を行うなど、本来ならば有り得ないことだ。
『おい。呆けてないでなんとか言えよ』
自分の精霊の声に気付いたカミーユが慌てて答える。
「光栄です」
「ロニー。立会人として見届けてくれるね」
「御意」
「剣を」
カミーユが自分の剣をヴェロニクに渡し、跪いたまま首を垂れる。
立ち上がったヴェロニクが両手で水平に持った剣を皇太子に差し出すと、皇太子がカミーユの剣を取り、切っ先を天に向ける。
「これより、騎士の叙勲の儀を行う」
「はい」
「カミーユ。礼節を重んじ、正義と寛大な心によって行動せよ。裏切りと欺きを恥とし、自由、平等、博愛の精神の元、同胞を守る盾となり、敵に臆することなく、気高く勇ましくあれ。ラングリオン王家と剣花の紋章に忠誠を」
皇太子がカミーユに剣先を向けると、カミーユがその刃に口づける。
「ラングリオン王家と剣花の紋章に忠誠を」
「では、カミーユ。騎士となる上での誇りを示せ」
正義、武勇、高潔、誠実、慈愛、礼節、寛容。
これが騎士の示すべき誇りであり、本来ならば騎士はこの中から一つを自分の最大の誇りとして誓う。
「国を支える存在となることを、誓います」
カミーユの誓いに、皇太子が微笑む。
「誓いを受け入れよう。騎士としての誇りを忘れず、己の誓いに忠実であれ」
皇太子が剣の腹をカミーユの肩に置く。
「ラングリオン一等騎士、アレクシスの名の元に、カミーユを七等騎士に叙する。…立て」
立ち上がったカミーユに皇太子が剣を渡すと、カミーユは剣先を上に掲げて礼をし、剣を鞘に納める。
「勲章を」
「はい」
皇太子がカミーユの胸に七等騎士の勲章をつける。
「おめでとう。君の夢を祝福するよ」
「ありがとうございます。…主君」
騎士の誓いの元に。
彼は自分の夢を選択する。




