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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅴ.夢と選択
38/40

06 王国暦六〇〇年 ヴェルソ 十五日 後編

「ツァレン様、レンシール様」

 二人とも、警備の人間に顔を覚えられてるのか。

「校舎に御用ですか?」

「いや。俺たちはここまでだ」

「ここまでって。ロビーに行かなくて良いのか?」

「部外者が校舎に入るには手続きが面倒なんだよ」

「私たちはアレクシス様の近衛騎士ではないからな」

 近衛騎士じゃないと、自由に出入りできないのか。

「次の指示があるまではここに居るから、エルを頼んだぜ」

「わかった」


 校舎のロビーは静かで、誰も居ない。

 まだ眠ったままのエルをソファーに寝かせると、ロニーが来た。

「ロニー」

「ヴェロニク」

「お疲れ様。卒業式が始まったからアレクは講堂に居るよ。外に居た二人もアレクの所に行ってもらったからね」

 卒業式は無事に始まったのか。

「ロメインたちは?」

「来てないんじゃないの」

「来てない?」

「来てないことになったんだろう」

「あんなに派手にやってたのに?」

 校舎前の通りが幻影の魔法で覆われていたんだから、目立つと思うけど。

「あれね。…さっきまで、私のクラスでショーをやっていたんだよ」

―さて。ショーの続きをしようか。

「光の魔法で校舎前の通り一帯に幻影の魔法をかけて、それを背景に使った魔法のショーをやっていたんだ」

 あの幻影はショーの一環?

 俺たちが居た場所は、外からは見えなかったってことか?

「本当は卒業式の後にやる予定だったんだけど。マリアンヌからの伝言を聞いて、アレクが先にショーをやるって言ったから前倒ししたんだ」

 ってことは。アレクシス様は、最初からエルが誘拐される可能性や、魔法研究所の連中が来ることを想定して、準備してたってことだよな。

「君たちも黄金の蝶は見た?アレクが幻影の魔法を吹き飛ばして黄金の蝶を出現させてフィナーレだったんだよ。…アレクに喧嘩売ろうなんて、馬鹿みたいだよね」

 ロメインは、アレクシス様が手出しできない時間を見計らってエルを誘拐するつもりが、失敗したんだ。

 そして、自分たちが居た痕跡を一切残さないようにして、養成所から出て行ったんだろう。

 アレクシス様が戦ってるところが見えなかったのが残念だけど。物体を消すなんて魔法が存在するなら、誰もアレクシス様には敵わないだろう。

「カミーユを騙した奴は誰だ?」

「パメラじゃないの。同じクラスで、有名なバイオリニストの娘。バイオリンに専念する為に養成所は今日で卒業。卒業式が始まるぎりぎりの時間に来たし、少し行動が怪しかったかな」

 バイオリンケースを持った女。

 そういえば、アレクシス様がエルに楽器を見せるために主催した音楽会で第一バイオリンだったのって、あの女だったかも。

「っていうか。酷過ぎるよ。カミーユ」

「え?」

「今まで私が、あんな間抜けな呼び出し方したことあった?少しは不審に思って欲しかったな」

 不審に思わなかったわけじゃないんだけど。

「悪かったよ」

「ちゃんと反省してよね。…エルはまだ寝てるの?」

「あぁ」

「着付け薬を使えばすぐに目覚めると思うけど、使う?」

『光の魔法ならすぐに目覚めると思うぜ』

「光の魔法?」

「私に魔法を使わせる気?さっきのショーでかなり魔力を消費したし、これ以上は使いたくないな」

 魔力をどれぐらい消費したかなんて見た目にはわからないけど。使い過ぎると倒れるんだっけ?

「ヴェロニク。今日で全部終わりなのか」

「終わりだよ」

「…何が?」

 シャルロとロニーが俺を見て溜息を吐く。

「シャルロ、任せて良い?私はアレクの卒業式に行きたいんだけど」

「あぁ」

『いつの間に仲良くなったんだ?こいつら』

 仲が良いわけじゃないと思うんだけど。

「あ。カミーユ、約束は忘れないでよ」

「約束?」

「何でも言うことを聞いてくれるって言ったよね」

「…忘れてないけど」

 ロニーが微笑む。

「じゃあね」

 ロニーが手を振って出て行く。

「忘れたって言っておけば良いものを」

「なんで?」

「エルを部屋に運ぶぞ。話しはそれからだ」

「わかったよ」


 ※


 エルの部屋に行って、エルをベッドに寝かせる。

「本当に起きないな」

「無理に起こす必要はないだろう。今日は夜の方が忙しいんだ」

 確かに。

「で?何が終わったって?」

「ロメインがエルを狙うことはもうない。エルはただの人間だってことが証明されたんだ」

「そんなの、わかりきってることだろ?」

「だったらもう説明は良いな」

「良くないって。ちゃんと教えてくれ」

「ヴェロニクが魔法研究所に対して行っていたことがあるだろう」

「エルの素行報告?」

「そうだ。他にも複数の人間がエルの様子を観察していたようだが。その報告結果が示すのは、エルは魔法使いの素質があるってだけの、ただの人間ってことだけ。エルはラングリオンに来てから、一度も奇跡の力を使っていないからな」

 奇跡の力が何を指すのかは知らないけど。

 俺だって一切見たことはない。

「エルがクロライーナの奇跡だから、魔法研究所はエルを保護する必要があったんだ。その力が無いことが証明されれば、魔法研究所がエルを保護する理由が無くなるってわけだ」

―私にとっても利益があることだからね。

 ロニーがやってることがアレクシス様の利益にもなる事って。そういうことだったのか。

 アレクシス様だって、最初からエルに奇跡の力なんてないって言ってたからな。

 でも。

―無いことの証明は不可能だ。

「ロメインは、証明は不可能って言ってなかったか?」

「当然だ。悪魔の証明だからな」

「悪魔の証明?」

「無いことの証明が不可能なことはわかりきっているんだ。だから、最初から調査の期限は決まっていた。その期限が今日だったんだよ」

「じゃあ、エルが誘拐されることはもうないのか?」

「誘拐したら犯罪になる。フラーダリーが訴えればいくらでも取り返せるようになったってことだ」

 だから、今日で全部終わり?

 これもアレクシス様の予定通りだったのかな。

 アレクシス様が卒業するまでにエルが奇跡の力を見せなければ、エルを普通の人間として扱うって。

 ロニーはそれを手伝っただけ?

 あの口ぶりだと、本気でエルのことを嫌ってそうだったけど。あいつの本心は本当にわからないからな。

 っていうか。ロニーがもう魔法研究所にエルの情報を渡さないなら、約束なんて反古にしても良いってことじゃないのか。

 …いや。そういうわけにもいかないよな。

 約束は約束だ。

「俺は教室に戻って次の指示を出して来る。エルを頼んだぞ」

「え?ちょっと待ってくれ」

「何だ」

「エルが起きるまでこの部屋に居ろって言うのかよ」

 シャルロが溜息を吐いて、俺に何か投げる。

「着付け薬だ」

「持ってたのか」

「魔法と違って、強制的に目覚めさせる薬を使えば体の負荷が大きいことぐらいわかるだろう」

 上手く目覚められれば良いけど。体の状態によっては、強制的に目覚めさせればめまいや吐き気を起こす場合もある。

「それでも起こしたいなら起こせ。じゃあな」

 そう言ってシャルロが部屋を出る。

『目覚めの魔法なんて光の魔法だけだからな。感電させてみるか?』

「何、馬鹿なこと言ってるんだよ」

 それなら薬で起こした方がましだ。

 悪い夢にうなされているわけでもないんだし、起こす必要もないだろう。

 仰向けに寝かせたはずなのに、エルはいつの間にか横向きで寝ている。

 その顔にかかっている金色の髪を払おうと手を伸ばして…。

 途中で、手を止める。

 …そんなに無防備な状態で目の前に居られても、困る。

 エルが誰かを好きになってくれれば、少しは諦められる気もするんだけど。

 たとえば、ユリアとか。

 エルはユリアのことが嫌いじゃないみたいだし、上手く行きそうな気もする。

 …いや。駄目か。

―だって、好きって言ったら離れちゃいそうな気がするんだもん。

 ユリアの言う通り。

 エルは誰かと深い関係になることを怖がってる気がする。干渉して欲しくない一線をずっと保ち続けてるって言うか。

 フラーダリーですら、そうだ。

 血の繋がった親子じゃないし、一緒に過ごす時間なんてほとんどないんだから当たり前かもしれないけど。二人の関係は、どう見ても親子には見えない。

 エルが心を開いている相手がいるとしたら、アレクシス様だけ。

 まぁ、養成所に来た直後よりは他人に興味を持てるようになったみたいだけど。

 …今のままの状態を維持するしかないのかな。

 エルがもう少し他人に興味を持って、誰かのことを好きになって、幸せになるまで?

 いや。冗談じゃない。

 俺がもう少しまともに誰かを好きになるべきなんだ。

 …頭ではわかってるのに。どうすれば良いかわからない。上手くコントロールできるようなものだったら、ここまで悩まないのに。

 なんで、好きになったんだ。

 あぁ、もう。

『大丈夫か?お前』

「大丈夫なわけないだろ」

『人間って面白れーよなぁ』

 その声、面白がってるように聞こえないけど。

 …だめだ。何もしてないと余計なことを考える。

 本でも読んで待ってるか。

 いつも集まる時は俺の部屋に集まるから、エルの部屋にはあまり来たことがない。

 面白そうな本はあるかな。

 本棚を眺めると、変わった本がある。何の本だ?

 本の中には様々な図柄が乗っている。

『お。魔法陣の本じゃねーか』

「魔法陣か」

 そういえば、エルは魔法陣が使えるんだよな。

 …っていうか。

「古代語か」

 苦手なんだよな。

『古代語なら俺様に任せな。いくらでも読んでやるぜ』

「まじで?」

『古代語は精霊の言葉なんだから当たり前だろ』

 そういえば、前にそんなことを言ってたな。

『とりあえず、雷の精霊の魔法陣を覚えろ』

「は?覚えるのか?これ」

『覚えなきゃ使えねーだろ』

 こんな複雑な模様を?


 ※


「起きろ!」

「いってぇ…。何すんだよ」

「いつまで寝てるんだよ」

 絶対、本気で蹴って来ただろ。

『おー。ようやく起きたか』

 起きた?

 …俺、寝てたのか?

 っていうか、今の声って。

「エル?気が付いたのか?」

 俺を蹴ったのはエルだな。

 その後ろに、ロジェとシャルロが居る。

 あれ?

「ロジェ?なんで顕現して…」

「説明は後。花火を上げに行くぞ」

 もう、そんな時間か。

「はいはい。わかったよ」

 机に置きっぱなしの魔法陣の本を閉じて、立ち上がる。

『本当に良く寝てたよなー。お前って、そんなに魔法を勉強するのが嫌いなわけ?』

 そんなことないけど。

 っていうか。ロジェが顕現してるってことは、エルはシャルロとロジェが契約してることを知ってるんだよな。

 俺だけ、言ってないのか。

「ブレスト、顕現してくれ」

『あー?なんだよ』

「何?この精霊」

 エルが珍しそうにブレストを見る。

『どいつもこいつも。俺様が何の精霊か知らないなんてどうかしてるぜ』

「雷の精霊か」

 シャルロは俺の魔法を見たから気づいてるよな。

「雷の精霊なんて初めて見た。カミーユの精霊なのか?」

「そうだよ。名前はブレスト」

『雷の魔法でも見せてやるか?』

「見たい」

 嬉々として言うな。

「やめろ。お前の魔法は被害がでかいんだよ」

「見たいなら、魔法研究室にでも行け」

「魔法研究室?」

「魔法を使っても平気な部屋だ」

 そんなのがあるのか。

「メラニー、顕現して」

『了解』

 目の前に漆黒の精霊が現れる。

 今まで見たのと全然違うタイプの精霊だ。

「闇の精霊のメラニー。すごく優しい精霊なんだ」

 エルが柔らかく微笑む。

 精霊が好きなんだな。本当に。

 っていうか、精霊には絶対人見知りしないよな、エルって。

「カミーユ、シャルロ」

「何だ?」

「何だよ」

 エルが何か言いかけて、笑う。

「何でもない」

「変な奴」

「ほら、仕上げに取り掛かるぞ」

「ん。一緒に行こう」

 一緒に、か。


 ※


 また、養成所のど真ん中で上げるのもどうかと思うけど。

 あそこが一番広くて安全な場所って言うのも頷けるから仕方ない。

「本当に何も見えないな」

「メラニーの魔法は優秀なんだよ」

 エルの闇の魔法で、セットした仕掛けはすべて隠して来たのだ。

 宿舎の屋根の上から見下ろす限り、広場に何かあるような様子は全くない。

 さて。始めるか。

「ブレスト、来い」

 花火の設置場所に置いてきたブレストが、俺の目の前で顕現する。

 本当に召喚ってできるんだな。

『順調だぜー』

 ブレストが顕現を解く。精霊は呼び出した直後は必ず顕現しているものらしい。

 今回の花火の打ち上げは、シャルロの案で三人の精霊に手伝ってもらうことになった。

 花火設置後に俺たちが安全な場所に移動して、ブレストを呼んだタイミングでロジェに点火してもらう。点火の仕方はシャルロが教えたから大丈夫だろう。

 こうすれば逃走経路の確保は必要ないし、花火ものんびり眺められる。

 打ち合わせ通り、晴れ渡った空に花火が上がった。

「一、二」

「三、四」

「五、六」

 全部で七つの予定だ。

 最後の一つは…。


 夜空の高い位置で、三重の輪を交差させた花火が上がる。

 碧色の輪が二つと、紅色の輪が一つ。


「成功したな。…ロジェ、おいで」

 炎の精霊が目の前に現れる。

 シャルロと契約した時に見たのとは明らかに違う、強い輝きを持った精霊。

 俺がエルの部屋で寝てる間に、エルがロジェの傷を癒したらしい。

『後はメラニーに任せて来たよ』

 そう言ってロジェが顕現を解く。

 打ち上げ後の花火の処理はメラニーに頼んだ。闇の精霊なら暗闇で作業しても目立たないから。

 少し時間を空けて、エルが呼びだす予定だ。

「さっきの花火、名前つけようぜ」

「名前?」

「俺とシャルロの碧眼に、エルの紅の瞳。俺たちのサインにぴったりだろ」

 エルは紅色を嫌がったけど。

 打ち上げた花火の色はすごく綺麗だった。

「頭文字を取ると、El、Ca、Chaか?」

 微妙だな。

 語呂が良い組み合わせが思いつかないけど。

 エルがうなってる。

 何か良い案があるのか?

「カミーユはMiにして、Mi、Cha、Elは?」

「ミカエルか」

「おー。かっこ良いし、それにしようぜ」

 Michael。

「警備員が集まって来たな」

「そろそろメラニーも呼んだ方が良いんじゃないか?」

「ん。メラニー、来て」

 闇の精霊が現れる。

『順調に終わった』

「ありがとう」

 エルが微笑む。

 …なんか、エルが誰かにありがとうって言ってるの、初めて聞いた気がする。

 もしかして、精霊に感謝はしても人間に感謝したことはないんじゃないのか?エルって。

「今度は何しようかな」

 もう、次のこと考えてるのか。

「また錬金術の本でも読み漁るか」

「その前に。選択授業は決めたのか?」

「決めたよ」

「俺も決めたぜ」

 進むべき道。

「カミーユは魔法の授業を取るんだろ?」

「錬金術と騎士の授業を取るんだよ」

「何だ、その選択の仕方は」

「これで良いんだよ」

「シャルロは?」

「俺の専門は法律だ」

「じゃあ、錬金術も取って」

「もともと、そのつもりだ」

 シャルロは前に、魔法科に進む気はないって言ってたからな。

「さて、見つかる前に帰るか」

「ん」

「了解」

 これが、俺の決めたこと。


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