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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅴ.夢と選択
32/40

00 王国暦六〇〇年 カプリコルヌ 二十四日

「中等部一年からは、選択授業が増える。自分が将来進むべき道を考えて、教科を選ぶように。魔法専門科、錬金術専門科、それぞれに進むためのモデルは別紙で配った通りだ。各自、個人面談の時までに作成しておくように」

 ほとんど選択授業だな。

 面白そうな授業が一気に増える。

 ようやく錬金術の本格的な実験の授業だって…。

「カミーユ。放課後面談室に来い」

「え?俺一人?」

 身に覚えがないけど。

「面談室は説教部屋じゃないからな」

 クラスの連中が笑う。

 説教じゃないのか。

「以上」

『だったら何の呼び出しなんだろうな』

 …さぁ?


 午後のホームルームが終わって、担任教師と共に面談室へ行く。

 説教以外で呼び出されたのって…。あれだ。会長に呼び出された時ぐらいじゃないか?

 担任教師が目の前に用紙を置く。

 選択授業のモデルみたいだけど、さっき見たのと全然違う。

 乗馬に、槍術?

「養成所で七等騎士の叙勲を得られるのは知っているか?」

「知ってるよ」

「これは騎士の叙勲を得るためのモデルだ」

『騎士?ここって魔法使いと錬金術師を育てるところだろ?』

 そうなんだけど。

「魔法剣士の育成も…」

「そうだ。これは魔法剣士を育成する為の教科の取り方だ」

『おい。精霊の声に応えたら精霊と契約してるってばれるぞ』

「…はい」

 未だに慣れない。

 頭の中にもう一人の人格でもできたみたいな不便さだ。

「騎士の科目は高等部の専門科に入ると取りにくくなるから、中等部の内にほとんどのものを取得しておく必要がある」

 中等部一年で取る教科と、二年で取る教科。

 武術系の授業だけじゃなく、騎士の心得や、歴史、貴族史、そして魔法学関係の授業がびっしり書かれている。

「これを取れば、養成所を卒業後、すぐにでも騎士になれるってことか?」

「騎士に必要な科目は赤のマーカー、魔法専門科に進むための必修教科は青のマーカーだ。騎士の科目については、高等部でもいくつか取ってもらうことになる。それから、卒業前に試験がある予定だ。内容はまだ決められていないが、グリフレッドとヴェロニクが卒業するまでには詳しく決まるだろう」

「あいつらもこの授業を全部取ってるのか?」

「騎士の課程は、まだ実験段階だ。授業がすべて揃ってない。今年から始まる科目もあるし、あの二人と同じ授業もあるだろう」

「二個も上なのに」

「教養関係の授業なら、先に専門的な授業を取った上級生とかぶることは珍しくないぞ」

 まぁ、ほとんどが選択授業だからな。

「異論がなければ、このまま提出して構わない。カミーユは騎士を目指す課程のモデルになるだろうからな」

「モデル?」

「そうだ。この先、騎士を目指す学生が出るかもしれないだろう」

 騎士を目指す学生…。

「なぁ、先生」

「なんだ?」

「兄貴が会長に訴えて、騎士の課程が出来たって本当か?」

「騎士課程の創設は以前から話しの出ていたことだ。個人の意見で急に創設されるわけがないだろう。グリフレッドとヴェロニクを騎士にする為、という方がしっくりくると考えておけ」

 なんだよ。その言い方。

「それって、グリフがさっさと騎士にならないとアレクシス様が近衛騎士を置かないからか?」

「…この話しはこれで終わりだ」

 やっぱりそうなのか。

 グリフが養成所を出てから従騎士を目指すとなると、後何年かかるかわからない。

 アレクシス様の成人に間に合わなかったら、まずいだろうからな。

「各教科に質問があるなら、グリフレッドとヴェロニクに聞くと良い。お前はあの二人と仲が良いんだろう」

「わかったよ」

 教師からもらった用紙を持って、面談室を出る。

 なんだ、この、もやもやした感じ。

『何ぼーっとしてるんだよ。実験室に行くんだろ』

「あぁ」

 エルとシャルロが居るはずだ。

『っていうか、お前、本当に騎士になりたいのか?』

「…なるよ」

 それ以外の選択肢なんてない。


 ※


 実験室に入ろうと扉の前に来たところで、声が聞こえる。

「もっと大きくしてぇ。…良い感じに膨らんできたねぇ。…あっ。…もっと優しくしてねぇ?」

 この声…。

「してるよ」

「…うん。その調子。…ちゃんと見てねぇ?……ほら、次はエルの番だよぉ」

 エルとユリア?

「…っぱなしはだめだよぉ。今度は私がやってあげるねぇ?」

 思い切り、研究室の扉を開く。

 実験室の中に居た五人が一斉にこちらを見る。

『うるさいのがたくさん居るな』

 なんでこんなに居るんだよ。

「何やってるんだ?」

 ユリアとエルが向かい合って座ってて、シャルロとセリーヌがチェスをやっているのをマリーが眺めてる。

「見て分かんないのかよ」

 エルがストローを振り回しながら言う。

 わかるけど。

「ふふふ。もっといっぱい入れてみよっかぁ?」

「じゃあ、もっと大きくしないとだめなんじゃないか?…あ」

『面白いことやってんな』

「そうだねぇ。じゃあ外でしよっか」

「準備しよう」

「え?待ってよ、私たちも行くわ」

「チェスが終わってからでいいよ。針金で作らなきゃいけないし。…カミーユ、作って」

 エルから針金を受け取って、チェス盤を見る。

 駒の数が少ない。終盤か?

 ルーク二つの守りはクイーン一つじゃ破れないだろ。

 チェックメイトに必要な駒は十分そろってる。

 シャルロの勝ちだな。

「チェックメイト」

 終わった。


 ※


 外に出て、平らな容器にエルが大量に作ったシャボン液を入れる。

「マントを持ってくれば良かったわ」

 真冬だからな。

「くっついてたらあったかいよぉ」

 ユリアがマリーに抱き着く。

「えぇ。…寒くなったら戻りましょう」

 シャボン液に針金を浸して引き上げる。

「おぉ」

 浸した場所からできる、シャボン玉のトンネル。

「エル、動くなよ」

「え?」

 そのまま、針金の輪をエルの頭の上から通す。

「…綺麗」

 シャボン玉に包まれたエルが、シャボン玉に息を吹きかけた瞬間、シャボン玉が割れた。

『すぐ割れるな』

「寒いから割れやすいのよ」

 もう一度針金でシャボン液を掬って、今度は振り回すと、大きなシャボン玉がいくつかできる。

 エルが大きなシャボン玉に息を吹くと、シャボン玉がへこんで、大きなシャボン玉の中に小さなシャボン玉が出来る。

「できた」

 楽しそうだな。

 エルが実験室でユリアと一緒にやっていたこと。

 シャボン玉の中にシャボン玉を作る。

「エル。ストローで小さなシャボン玉をたくさん作れ」

「わかった」

 シャルロに言われて、エルが小さなシャボン玉を作る。

「カミーユはそれを掬え」

 そういうことか。

 針金にシャボン液をつけて、エルが作ったシャボン玉を大きなシャボン玉で包む。

「わぁ、いっぱいできたねぇ」

「綺麗ね」

『賑やかな連中だな』

 大きなシャボン玉の中に、たくさんの小さなシャボン玉が浮かぶ。

「初めからこうしてれば良かったじゃない」

「室内では無理だ」

「カミーユ、もう一回」

「私もやるー」

 たくさんのシャボン玉が宙に浮かんでは、割れる。

「?」

 エルとマリーが正門の方を向く。

「誰かしら」

 正門の方を見ると、警備員と一緒に誰か歩いてくる。

「ナルセスだ」

 エルの知り合い?

「久しぶりだな、エルロック」

「久しぶり」

「その後、変わりないか」

「…見ての通りだよ。何しに来たんだ」

「給水塔を見に来ただけだ」

「給水塔?なんで?」

 給水塔に向かうナルセスに、エルがついてく。

「仕事だ」

 針金をシャボン液の器に置いて、慌ててその後を追う。

「エル、待てよ」

 結局、みんなでついて行くことになる。

「誰なの?」

「錬金術研究所のナルセス」

『研究所の奴か』

「シュヴァインの坊やはなんでも詳しいな」

「……」

「俺もお前たちのことは知ってるぞ。養成所の不良三人組、エルロック、カミーユ、シャルロと、マリアンヌ、セリーヌ、ユリアだな」

「同列に扱わないでくれる?私たちは悪いことなんてしてないわ」

「悪いことをしてるのか。エルロック」

「してないよ」

「毎回叱られてるんだろう」

「少し」

 どういう関係なんだ?

「錬金術と魔法、どっちを極めるか決めたのか」

「錬金術に決まってる」

 だろうな。

「えっ?そうなの?」

「なんでマリーが驚くんだよ」

「魔法専門科を目指すのだと思ってたわ。だって…」

「魔法は好きじゃない」

「フラーダリーは魔法研究所だよねぇ?」

「そうよ。フラーダリーを手伝うんじゃないの?」

「エルロックが錬金術研究所に来るなら歓迎だ」

「…先のことなんてまだ決めてない」

「そうだな。お前が何を目指すのか楽しみにしておこう。今、私が一番欲しい人材はカミーユだからな」

「え?俺?」

 なんで?

「カミーユは騎士になるのよ。錬金術なんて勉強するわけないじゃない」

『おい。マリーは悪戯騒ぎが錬金術の実験だって知らないのか?』

 マリーは錬金術に興味ないからな。

「君が入ってくれると助かるんだが」

 助かるって言われても。

「考えておいてくれ」

 だって、俺の夢は一つだ。

 養成所に入った時からずっと。


「こら。ここは立ち入り禁止だぞ」

 給水塔の前に警備員が居る。

 …前は居なかったし。この前のあれのせいだろう。

「お前たち、何かしたのか?」

「虹を作ろうと思って、給水塔の上から水をばらまいたら怒られたんだ」

 去年の話しだったと思うけど。

『あれは楽しかったよなー』

 給水塔が、配置的に一番丁度良かったんだから仕方ない。

「相変わらず面白いことをやってるな。…水の実験をしたいならこれをやる」

 ナルセスから渡された袋をエルが開く。

「魔法の玉?」

 魔法の玉って、錬金術で魔法を込めた玉のことだよな。

 エルがサンドリヨンの劇の時に使ってた奴だ。

「水の玉が入ってる。割ったら水が大量に出て来るから気をつけろよ」

「ん。わかった」

 それがあれば虹は簡単に作れそうだな。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

 エルがメモをナルセスに見せる。

「材料を揃えるのは難しいぞ」

「難しい?」

「そんなに作りたいのか」

 エルが頷く。

 また何か見つけて来たのか。

「仕方ないな。…今日は忙しい。聞きたいことがあるなら俺に手紙を寄越せ」

「わかった」

 たぶん、授業をさぼってる間に図書館で仕入れた錬金術の知識だろう。最近ではエルが授業をさぼるのなんてしょっちゅうだ。

 …それにしても。

 養成所には大抵のものが揃ってるのに、材料を揃えるのが難しいって。

 一体何を作る気だ?


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