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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.桜と犯人
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06 王国暦五九九年 ベリエ 十七日 後編

 マリーが居たのは図書館。

 いつも通りユリアとセリーヌと一緒だ。

「あれぇ?エルは一緒じゃないのぉ」

「あいつは今日花見だよ」

「花見?」

「外出禁止令が解けたから、フラーダリーとアレクシス様と一緒に出かけてる」

「まだ咲いてるかしら」

「ふふふ。花見は、桜の状態よりもぉ、誰と行くかが大事なんだよぉ」

「そうね。外出禁止令がなければ、三人も誘ってあげたのに」

「誘うって?」

「昨日、グラム湖まで花見に行って来たのよ。エミールたちも誘って」

「マリーのメイドさんたち、馬車を用意してくれたんだぁ」

 十六日に、マリー主催の花見があったのか?

「良いのよ。三人とも十五日に行ってるんだから」

「え?どういうこと?」

「アレクシス様が俺たちを連れ出してくれたんだよ」

「オルロワール家の花見に参加したんだ」

「なぁんだ。ちゃんと連れてって貰えたんだねぇ」

「そういうことだ。…ちょっとマリー借りても良いか?」

「何か用?」

「話しがあるんだ」

「内緒の話しぃ?」

「いじめないでよ」

「誰が苛めるかよ」

「前例があるじゃない」

 くそっ。

「大丈夫よ。…話しをするって、どこに行くの?」

「ここで話したら?私たち、先に部屋に戻ってるわ。マリー、終わったら私の部屋に来てね」

「わかったわ」

「じゃあねぇ」

 ユリアとセリーヌが席を離れる。

「で?何の用なの?」

「光の洞窟の中で何があったのか教えてくれ」

 マリーが周囲をうかがう。

「この話し、誰にも話しちゃいけないって言われてるの」

「なんで?」

「花見の時期に、聖地で亜精霊が出たなんて噂が流れたら困るからって。お兄様から口止めされてるのよ」

 もしかして。

 魔法研究所が光の洞窟に仕掛けを出来たのって、どうせこうやって情報規制がされると解ってたからか?

「俺たちは知ってるぞ」

「言わないでちょうだい」

「他言しないから、詳しく聞かせてくれ。凶暴な亜精霊と戦ったんだろ?」

「戦ったのは、ほとんどエル一人よ」

「エル一人?」

「えぇ。…そうなの?そういえば、そんな事言ってたわね」

「?」

 変な独り言だな。

「マリー。お前が契約している精霊の声は、俺たちには聞こえないからな」

 精霊と話してたのか。

「そうだったわね。ナインシェ、顕現してくれる?…大丈夫よ。私が光の精霊と契約してることは二人とも知ってるもの」

 目の前に光の精霊が現れる。

『こんにちは。ナインシェよ』

 黄色く光る妖精。

 本物の精霊を見るのは初めてだ。

 綺麗だな。

『精霊が顕現したのだから、挨拶ぐらいしたらどう?』

「こんにちは。俺はシャルロだ」

『名前は知ってるわ。マリーが教えてくれたもの』

 普通に喋ってる。

 精霊って、なんかこう、もっと神々しいものだと思ってた。

『あなたは?カミーユ』

 俺のことも知ってるのか。

「こんにちは、ナインシェ」

『亜精霊のことを聞きたいの?』

「あぁ」

『亜精霊は、オルロワール家が来る前日に放たれたの。トラップもね。催眠、麻痺毒、煙幕、捕縛。たくさん仕掛けてたわ。全部見てたわよ』

「随分多いな…」

「引っかからなかったのか?」

「エルが闇の精霊を呼び出して、安全な道の案内を頼んでくれたの。エル、魔法陣が使えるみたいよ」

「魔法陣が使える?」

 魔法陣なんてまだ習ってない。

「私もびっくりしたわ。でも、古代語が自在に使えるなら使えてもおかしくないって、お兄様が言ってたわ」

 そう、なのか?

「つまり、マリーたちは初めから洞窟に亜精霊とトラップがあったことを知ってたのか?」

「えぇ。精霊が教えてくれたもの」

「亜精霊が居てトラップもあったのに、どうして引き返さなかったんだ」

「先に行こうってエルが言ったのよ」

「エルが?」

「だから先に進んで、ナインシェと契約したの。その直後に亜精霊が現れたわ。光の精霊たちが助けてくれるって言ったんだけど…。そういえば、私、あの時、顕現していない光の精霊の声が聞こえたわね」

『それは、マリーが光の精霊の存在を感じてたからだよ。共鳴してくれれば、いつでも精霊が語りかける声は聞こえるよ。エルみたいにね』

「エルみたいに?」

「どういうことだ?」

「さっき、精霊が教えてくれたって言ったじゃない。亜精霊とトラップのこと。あれ、全部エルが聞いたのよ。私はちっとも聞こえなかったけれど、エルは光の精霊の声にすぐに気づいて、精霊たちから色々聞いてくれたの」

「マリーが気付かなかった声に、エルは気付いてたってことか?」

『そうだよ。エルは常に共鳴してる』

「精霊と共鳴し、対話し、契約する、か」

 魔法使いの素質の話しだ。

 共鳴とは、精霊の存在を感じられる才能。

 対話とは、精霊の言葉を聞くことのできる才能。

 契約とは、精霊と契約することのできる才能。

 この三つの才能がある人間は、精霊と契約し、魔法使いになれる。

『そういうこと。エルって不思議な子。あんなに精霊に慣れてる子、初めて会ったな』

「精霊に慣れてる?」

『君たちは、精霊が今、ここにどれぐらい居るか知らないよね。たとえば…』

 ナインシェが周囲を見回す。

『見渡す限りにも七人、精霊が居るんだよ』

「そんなに?」

『精霊はずっと身近にいるのに、君たちはちっとも気付かない。存在しないと思っている限り精霊の声は聞こえない。…エルはきっと、精霊が常に身近にいる存在だって知ってるんじゃないかな。だから、いつでも精霊が語りかける声に気付けるんだと思うよ』

 本当に精霊が居る?

 俺のすぐそばにも?

『そうね。エルって私と友達になってくれるぐらいだもの』

「えっ?」

「!」

 シャルロと一緒に周囲を見回す。

『あ、聞こえる?…ふふふ。やっぱりエルの友達だからかな』

 これ、精霊の声?

『私、ミーアよ。エルの友達なの』

「エルの、友達?」

『そうよ』

「…エルの奴、そんなこと一言も言わなかったぞ」

『だって、私がエルと遊ぶのなんて夜だもの。あ、でもこの前…。うーん。言っていいのかな。アレクに怒られちゃったのよね』

 アレクって、アレクシス様のことだよな?

「教えてくれないか」

『私、君たちの舞台を手伝ってたのよ。マリーを探したり、光の魔法を使ったりして』

 あれ?

「ミーアはアレクシス様の精霊なのか?」

『違うわ。養成所で君たちを見守ってるのよ。私たち』

「養成所には、俺たちを守ってる精霊が居るのか」

『うん。そうだよ。だから安心して過ごしてね』

「知らなかったわ。本当に精霊って身近にいるのね。ありがとう」

『そう言ってもらえると嬉しいな』

 養成所が安全な場所なのは、養成所を守っている精霊も居るからなのか。

「マリー。亜精霊の話しに戻すぞ。エルはどうやって戦ってたんだ」

「え?…えっと、メラニーが援護していたみたいよ」

「メラニー?」

『マリー。精霊の名前を、簡単に他人に話しちゃだめよ』

「ごめんなさい」

 精霊か。

「援護って、魔法を使ったのか?」

『使ってなかったわ。エルが危なくないように、誘導してあげてたみたい。…だって、エルは私たちが助けてあげるって言ったら、だめって言ったのよ』

「だめ?」

『そうよ。私たちの洞窟で悪いことするなんて許さないわ。あの亜精霊がマリーとエルに危害を加えるなら、私たち、すぐに二人を助けたもの』

 ってことは、光の精霊も、ミーアが養成所を守ってるように、光の洞窟を守ってるのか。

 …アレクシス様は光の洞窟の中は安全だって知っていたんだ。

 エルとマリーを二人だけで行かせても心配しなかったのはそういうことか。

 でも、わざわざ魔法研究所の連中が亜精霊やトラップを仕掛けたってことは…。

「仕掛けをした連中は、光の精霊が二人を助けるって思わなかったのか?」

「…そうだろうな」

「本当に、なんだったのかしら。あれ。結局、首謀者は解らずじまいだもの」

「マリーは怪我しなかったのか?」

「平気よ。エルがほとんど一人で倒してたもの。私もエルに当たらないように、光の魔法を使ってみたけれど、魔法って難しいわ」

 契約してすぐ、自由に魔法が使えるってわけじゃないのか。

『すぐに慣れるわ。一緒にがんばりましょう』

「えぇ。そうね」

「参考になった。マリー、ナインシェ、ミーア。ありがとう」

『またね』

 ミーア。

『うん』

 ナインシェが顕現を解く。

 見えなくなったけど、マリーのすぐそばに居るんだよな?

 契約中の精霊の声は、顕現しないと契約者にしか聞こえないから、もう何を話しても聞こえないけど。

「なんでかしら。少し疲れたわ」

「契約中の精霊を顕現させるには、契約者の魔力を使うんだ。当たり前だろう」

「そういえばそうだったわね。…えぇ。大丈夫よ。この話し、誰にもしないでね?」

「わかった」

「エルにも言っておいてちょうだい」

「言っておくよ」

「じゃあ、またね」

「あぁ。ありがとう」

 マリーが席を立つ。


「何か分かったか?」

 シャルロが口元に手を当てて、何か考えてる。

「マリーの話しでは、エルが何か特別なことをしたわけじゃなさそうだ」

「確かに。精霊に援護してもらって、普通に戦って勝ったみたいだな」

「光の精霊が見てる前で亜精霊やトラップを仕掛けたってことは、精霊が二人を助けるなんて想定していなかったはずだ。見た目よりも弱いキマイラだったのか?…いや。それなら、もっと危険度の低い亜精霊を出せば済むはずだ。…魔法研究所がエルを殺そうと思ってたわけがない。エルにキマイラを向けて何かさせようとしていたのは確実なのに」

「何かさせようとしていた?」

「たとえば、エルが強力な魔法を使うとか」

「なんだそれ」

「エルを危機的な状況におけば、エルが何かをする可能性があったんじゃないか?それは、精霊戦争と同じ状況だ。エル以外全員死ぬほどの戦争で、エルが生き残れた方法の検証なんだ」

「でも、光の精霊が助けてくれるって言ってたんだし、危機的な状況じゃなかったんじゃないか」

「連中は精霊が助けるなんて想定してないだろ。現にエルは断って…」

「ん?」

「なんで、断ったんだ?」

「さぁ」

「断る理由なんてない。勝てるかわからない相手で、マリーも居たんだ。精霊が助けてくれるなら、精霊に頼んで逃げても良かった状況だ。何故、断ったんだ」

「そんなの知るかよ」

「断る理由がない」

 自分の命が危ない状況だったからな…。

 エルは好戦的なタイプでもないから、自分の実力を試したかったなんて理由は考えにくいだろうし。

「精霊が魔法を使えば、精霊戦争を思い出すから嫌だったとか」

「精霊戦争を思い出す?そんな理由で自分の命を…」

 自分の命を優先するに決まってるか。

「…なぁ。カミーユ。エルは、精霊から助けてやるって言われて、断ったんだよな」

「あぁ」

「それと同じ状況が、精霊戦争で起こったとしたら?」

「同じ状況?エルが危険な状況に陥って、精霊が助けて…」

 あれ?

「おい、待てよ。それじゃあ、」

「…おそらく、そうなんだ」

「嘘だろ?なんで?」

「わからない。でも、それなら、エル一人が生き残ってる理由にもなるし…」

「シャルロ、推測はもうやめようぜ。直接、アレクシス様に聞きに行こう」

「…そうだな」


 ※


 夜。

 アレクシス様の部屋をノックする。

「どうぞ」

 声だけが返ってくる。

 開けていいのか?

 シャルロが扉を開くと、アレクシス様がサイフォンでコーヒーを入れている。

「コーヒーで良いかな」

「…はい」

「はい」

「座って」

 促されるまま部屋に入って、円形のテーブルを囲んだ椅子に、シャルロと一緒に座る。

 っていうか。

 アレクシス様にコーヒーを淹れさせることになるなんて。

 コーヒーを俺たちの前に並べ、お菓子を前に置いて、ようやくアレクシス様が座る。

「どうぞ」

「はい」

「教えてもらいたいことがあります」

「取引をしようか」

「え?」

「取引?」

「十五日に、エルがグラム湖に行くことを知ることのできた人間。それを見つけ出せば、君たちが出した結論について詳しく教えてあげよう」

 全部、知ってるんだな。

「裏切り者の話しですか?」

「犯人、としておこうか」

「見つけ出すということは、犯人をアレクシス様の前に連れて来る必要がありますか?」

「そんなことをする必要はないよ。名前を教えてくれれば良い。その人物が本当に、エルが十五日にグラム湖に行くと知り得た人間かどうか。ロメインと繋がりのある人間かどうか。一緒に検証しよう」

 この前みたいに、シャルロと話すのか。

「わかりました」

 アレクシス様を納得させられるのか?これ。

「アレクシス様は、ご存知ですね?」

「ほら、コーヒーが冷めてしまうよ」

 言われた通り、コーヒーを口に含む。

 良い香りだ。

「簡単なゲームだと思ってくれたら良いよ。私は、その人物に何かしようという気はないからね」

「罰しないんですか?」

 身近に裏切り者が居ても。

「しないよ。私にとっても利益があることだからね」

 エルの情報を流すことが?

「それに、そろそろロメインがエルを狙う理由もなくなるだろう」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

 わからない。

「君たちは、エルのことをどう思う?」

「え?」

「エルは友人です。少し変わったところもありますが」

「…俺も。エルは、馬鹿だけど良い奴だと思います」

 アレクシス様が笑う。

「会長に養成所きっての天才と言われたエルも、君たちからは変人で馬鹿と呼ばれてしまうんだね」

「あ、あの、あいつが頭良いのは知ってます」

「いいよ。エルらしいじゃないか。…エルは、少し特殊な環境で育ってるんだ。だから、私と姉上はエルに子供らしい経験をさせてあげたいと思っている。その為に姉上はエルを保護し、ここに入れたんだよ」

 それが、フラーダリーがエルを保護した本当の理由?

 やっぱり考え方は過保護だよな。

 …アレクシス様、俺たちと二歳しか違わないのに。

「ほかに、何か聞きたいことはあるかな」

 シャルロが、今日受け取っていた手紙をアレクシス様に渡す。

「一番早い調査結果だ。流石だね」

「ヴィクトル研究所について、どのようにお考えですか」

「彼に会ったことがあるかい」

「いいえ」

「ありません」

 今日初めて知ったのに、会うも会わないもない。

「会いに行ってごらん。彼は面白いよ」

「非合法な研究をしているはずです」

「彼を罰することは、今のラングリオンの法律ではできない」

「何故ですか」

「人間ではないからだ」

「…え?」

「自分の研究におぼれた結果、彼は亜精霊になってしまったんだ。幸か不幸か、理性を失わずに済んだヴィクトルは、人間に戻る方法を研究している。私は一生かかってもそれは無理だろうと思っているけれどね」

「じゃあ、ヴィクトルがエルに興味があるのって…」

「エルが普通の人間だからだよ」

「…研究所の資金が流れています」

「活動資金に乏しい優秀な研究者に資金提供しているのは、研究所の事業の一環で、不正なことではない。実際、彼からは有益な情報が得られている。魔法研究所の事業として、何の問題もないよ」

「わかりました」

「ロメインを失脚させようと考えてるのかな」

「はい」

「彼は彼なりに、エルを大事にしようと思っているんだよ。エルの可能性を開こうとしているのだから」

「可能性?」

「そう。自分の敵が、必ずしも倒すべき敵だとは限らないんだ。世の中、そういうことの方が多いんじゃないかな」

 ロメインは敵だし、ヴィクトルも敵なはずなんだけど。

 アレクシス様にとっては、倒すべき相手ではないってことか?

 だから、アレクシス様は何もしない?

「何故、亜精霊が仕掛けられたのだとお考えですか」

「精霊戦争の再現。ロメインは、エルに何かやらせようとしてたみたいだね。でも、失敗した。思った通りのことは起こらなかった」

「アレクシス様は、何が起こると思っていましたか?」

「何も起こらないと思ってたよ。だって、エルは普通の人間だからね」

「ロメインは何が起こると思ってたんですか?」

「奇跡でも起こると思ってたんじゃないかな」

 奇跡…?

「質問は終わり。チェスでもやって行かないかい」

「え?」

「二人とも強いってエルから聞いてるよ」

 アレクシス様がチェスボードを取りに行く。

 これって、問答無用だよな?

「…はい」

 絶対強いだろ、アレクシス様。


 ※


 一戦ずつして、完敗だった。

 容赦ない。

「めちゃくちゃ強いな。アレクシス様」

「…あぁ」

 頭を使いすぎて眠い。

 思わず、あくびが出た。

「カミーユ。お前は犯人が誰かわかったか?」

「え?…いや。わかんないけど」

「俺は、ずっと前から怪しいと思ってる奴が居るんだ」

「ずっと前から?誰だよ、それ」

 シャルロがその名前を口にする。

「え…?なんで?」

「俺は、そいつを犯人だと仮定して外堀を埋める」

「ちょっと、待ってくれ。なんで?理由は?」

「信じなくても構わない」

「それが、お前の結論なのか?」

「あぁ」

 なんで…?

 意味が解らないだろ。

 だって、理由がない。



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