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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.桜と犯人
24/40

01 王国暦五九九年 ベリエ 八日

 課題と補習が終わって、ようやく本題に取り掛かれると思ったのは良いけれど。

 図書館で色んな本を調べても、校外学習の要件に見合うようなネタが探せない。

「やっぱり、外に行くなら、自然の観察が目的なんだろうけど」

「植物学や昆虫学の授業は中等部の選択科目だ。自然の観察では許可が下りないだろう」

「春じゃないとできないこと…」

 そもそも、興味のある勉強の種類がインドアなんだから、どうしようもない。

「桜を見に行きたい、だけじゃだめかな」

「中庭の桜で我慢しろって言われただろ」

 中庭の桜は既に何輪か咲き始めていて、いつ満開になってもおかしくない。

 あの一本桜を眺めるのも良いけれど、せっかくならグラム湖の桜を見せたい。

 きっと喜ぶと思うんだけど。

「また何か悪いこと考えてるの?」

 この声は。

「マリー」

「悪いことじゃないぜ。養成所を抜け出す方法を考えてるんだ」

「十分悪いことじゃない」

 誰にも迷惑はかからないはずだけど。

「あれ?今日はアシューは一緒じゃないのか」

「ほっといて」

「え?もう別れたのか」

 あっさりしたもんだな。

「別れた?」

「恋人関係を解消した」

 エルの疑問に、シャルロが間髪入れずに答える。

 もう慣れたものだ。

「ご丁寧に説明しなくても結構よ。養成所を抜け出すなんて、警備隊に喧嘩売るつもり?」

「売らないよ。合法的な方法を考えてる」

「グラム湖に桜を見に行くんだ」

「行けば良いじゃない」

「外出禁止令がある」

「普段から悪いことばっかりやってるからそういうことになるのよ」

 今回のは事故だったんだけど。

「エルは桜を見たことがないんだ」

「え?そうなの?」

 エルが頷く。

「だからグラム湖に連れて行く方法を…」

「そういうことなら、連れて行ってあげるわ。エルには借りがあるもの」

「え?」

 まだサンドリヨンのこと気にしてるのか。

「毎年ベリエの十五日は家族でグラム湖に行っているの。連れて行ってあげるわ。外出許可も、お父様に頼んであげる」

 オルロワール伯爵に頼めば外出許可も簡単に降りるのか。

「王都の外に出るから保護者の許可はちゃんともらっておいてね」

 フラーダリーは許可するのか?

「カミーユとシャルロは連れて行けないわよ」

「俺一人?」

「そうよ。連れて行けるのは一人だけ。…みんなにだって内緒にしてね」

「内緒って。ユリアとセリーヌも知らないのか?」

「家族の行事だもの。誰も連れて行けないわ。エルは特別よ」

「だってさ」

「エル、行って来い」

「…ん。わかった」

「決まりね」

 エルが養成所を出るのか…。

「オルロワール家が遠出なら、近衛騎士もついて行きそうだな」

「えぇ。近衛騎士とメイドが何人か」

「移動は馬車か」

「もちろん」

 警備は十分厳重だよな。

「なら安心だ」

「…安心?」

 あ。やばい。

 シャルロは表情を変えないまま俺を見る。

 助け舟を出す気はないらしい。

「いや、ほら、フラーダリーは過保護だからさ。安全が確保されてないとエルを王都の外には出さないだろうと思って」

「お父様は国の書記官なのよ?うちの警備があれば十分だわ。それに、お父様もお兄様たちも光の精霊と契約してる魔法使いなんだから。何を心配するって言うのよ」

 そうだよな。

 オルロワール伯爵を白昼堂々、襲ったりはしないだろう。

「噂には聞くけど、そんなにフラーダリーって過保護なの?」

 あの甘やかし方は有名になってもおかしくない。

「エルは信じられないぐらい甘やかされてるぞ」

 エルが頷く。

 自覚もあるだろう。

「アレクシス様もエルには甘いものね。…エル、フラーダリーから外出許可をもらったら教えてちょうだい。十五日は朝食を食べたら門のところに来て。遠出だから、身分証とマントも忘れずにね」

「わかったよ。…それより、なんでアシューと別れたんだ?」

 マリーの顔が引きつる。

 どうして、今、このタイミングで蒸し返すんだ。

「マリー、行って良いぞ」

「エルって本当に無神経ね!」

 シャルロに言われて、マリーが去る。

 殴られなくて良かったな、エル。

「エル。そういうことを堂々と聞くな」

「なんで?恋人関係って、そんなに簡単に解消されるのか?サンドリヨンと王子も?」

「何もかもをごちゃまぜにするな」

「マリーはアシューを嫌いになったのか?」

「そんなのマリーに聞いてみないと、」

「カミーユ」

 あー。エルなら本当に聞きに行くだろうな。

「いや、聞かない方が良いんだけど」

「どっちだよ」

「聞けばマリーを怒らせて、グラム湖に行けなくなるぞ。…それに、マリーがアシューを嫌いになったってことはないだろう」

「付き合ったからって、相手が運命の人とは限らないだろ」

「運命の人?」

「だから、」

 何て言えば良いんだ。

「生涯の伴侶となるかは今の時点ではわからないってことだ」

 そういう感じだ。

 本当、シャルロはエルの辞書みたいだな。

「カミーユは?」

「え?」

「誰かと付き合ったことある?」

 何、聞いてんだよ。

「ないよ」

「シャルロは?」

「ない」

「なんだ。じゃあ、好きな人はいる?」

「いない」

「カミーユは?」

 それを俺に聞くのか。

「いるけど」

 目の前に。

「じゃあ、好きだって言って恋人になって」

「は?」

 今、何て言った?

「だめなのか」

「な、に、ばかなことっ」

 俺の正面で、まっすぐ俺を見るな!

「そして別れて、その気持ちを教えろって言うんだろう」

 信じられないぞ、この馬鹿!

「エル、そういうことは自分で体感しないとわからないぞ。感情的なものを言葉だけで学ぼうとするな。…カミーユに謝れ」

「なんで?」

 聞くなよ。

「謝れ」

「嫌だよ」

 しんどい。

「自分はどうなんだ」

「俺?…カミーユもシャルロも好きだよ。でも、そういうのとは違うんだろ?」

 それは、友情だ。

「それだけわかってれば十分だ。ほら、片付けてランチに行くぞ」

 無理。

「俺、今日はいいわ」

「カミーユ?」

「気分じゃない」



―じゃあ、好きだって言って恋人になって。

 …落ち込む。


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