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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.桜と犯人
23/40

00 王国暦五九九年 ベリエ 六日

「…それから、外出禁止期間を三日間延長する」

 課題と補習だけじゃなくて、外出禁止もかよ。

 相当怒らせたみたいだな…。

 いつも通り。悪戯をして説教部屋に呼び出され、最早、形式化してしまった説教を一通り聞いた後、教師から課題と補習の説明書きを渡される。

「十六日まで?」

「そうだ」

「まじかよ。桜の季節だってのに」

 三日追加されると、連休も潰れるのか。

 エルが横で首を傾げている。

「桜は、ラングリオンでベリエの短い期間だけ咲く花だ」

 そうか。桜、見たことないんだな。

「見に行こうぜ」

「中庭の桜の木で我慢するんだぞ」

「中庭?」

「行こうぜ」

「いいか、お前たち。妙なことは考えるなよ。外出禁止令を破ったら、禁止の期間が倍になるからな。補習は明日の放課後。さぁ、帰れ」

「はーい」

「ん」

「はい」

 教師がため息をついてる。

 もう、何回目かわからないからな。

 養成所の規則では、悪いことをした時の罰は必ず課題か補習、外出禁止令、外泊禁止令だ。養成所の第一の目的は勉強で、それを阻害する行為を教師は行ってはならない。

 結局、教師は、これ以上俺たちに効果的な罰を与えることは出来ないのだ。っていうか、エルは全部楽しんでるんだから、教師側は詰んでいるとしか言いようがない。

 でも、今回のは少し反省すべきだったとは思う。

「あれ、何が原因でゲルに戻ったんだ?」

「エルが作ったのは、ダイラタント流体なんだろう。時間が経てば戻る」

 この前習ったな。普段は流体で、そっと触れると液体のままだけど、強い力を加えると固まるって奴。

「結局取れたのか?画鋲」

「さぁ?」

「天井にはなかったぞ」

「じゃあ成功なのかな」

 今日の昼休みだ。ルシアンとルードが馬鹿をやって、画鋲を天井に刺したらしい。

 危ないから早く取ろうという話しになったが、エルが、補習で教わった粘着液を試してみると言い出して、みんながそれを見たがったから。

 エルが言うには、目的のものに張り付いて、引っぺがすような粘着物。

 あいつの作るものは良くわからない。

どういう発想なのか、言った通りのものを作ってくる。

 そして完成したのが、なんだかよくわからないゲル状の物質。天井に張り付けて画鋲だけを取り出すらしいんだけど、天井に放り投げた後、固まってはがれなくなった。

 そうこうしてる内に午後の授業が始まり、天井の物質は教師の頭上に落下した。

 教師の悲鳴が響いて、警備員まで出動する騒ぎになったのだ。

 そこまで大事になるとは思ってなかったけど。

 あ。

「ほら、桜の木、ここからも見えるぜ」

「どれ?」

 エルが窓に寄って、中庭を見る。

 花が咲いてないから、説明が難しいな。

「いつも昼休みにアレクシス様が居るところなんだけどな」

 中庭の中央にあるベンチの辺り。

 昼休みに中庭に行けばアレクシス様に会えるのは有名な話しだから。


 ※


 中庭に入って桜の木の近くまで行くと、蕾がいくつかついているのが見える。

「今年は早そうだな」

「あぁ。ほら、エル、これが…」

 振り返ると、エルは花壇を眺めている。

 そして、一つの花を指さす。

「この青い花は?」

「アヤメだ」

 ラングリオンならメジャーな花だけど。

 っていうか、砂漠に花ってあるのか?

「どこかの国では虹の御使いの化身と言われているらしいな」

「虹の御使い?」

「そういう物語があるんだよ」

 どうせ、エルは知らないだろう。

「花言葉は愛のメッセージ。好きな人に、他の花と混ぜて贈るんだ」

 告白とか、プロポーズの時に。

「ほら、これが桜の木」

「これが?」

「満開になると、すごく綺麗だぜ。ピンク色の花なんだ」

「ピンク色?チューリップみたいな?」

 チューリップはわかるのか。

「もう少し優しい色だな」

「花も可愛いんだぜ」

「楽しみだな。花が咲くの。…短い期間しか咲かないんだっけ?」

「早ければ八日ぐらいから咲き始める。それから三日から五日で満開になって、満開から四、五日で見頃を終えたら、後は散るだけだ」

「え?」

 満開の時期は短い。一気に咲いて、一気に散る。

 エルを見ると、なんだか残念そうな顔をしている。

 十六日まで外出禁止になったからな。養成所の外で花見は出来ないだろう。

「抜け道を探してみるか」

「抜け道?」

「養成所を抜け出す方法があるかもしれない」

「方法って。外出許可は下りないぜ。正門で門前払いだろ?」

 俺たちの顔を、警備員が知らないわけがない。

 外出禁止令が出てるのもわかってるはずだ。

「こっそり抜け出すのか?」

「そんな危ないことはしない」

 エルを勝手に外に出すのは危ないだろう。

「門番が俺たちを通す方法を考えてみよう」

「門番を脅かすのか?」

「正門を守っている奴らが子供だましにひっかかるとは思えないな」

「じゃあ、どうやるんだよ」

「それを今から考えるんだ」

 外に出るためには、外出届が必要だ。

 どこへ行くか、何の目的で行くか、誰と出かけるか。詳しく書かなくちゃいけない。

 王都の外に出るなら、必ず保護者の許可が必要だ。っていうか、子供だけで王都の外に出るなんて、絶対許可されないだろうけど。

 外泊の場合は外泊届も必要で、どこに泊まるか、同伴者は誰か書かなくちゃいけない。

 帰省以外の目的で養成所の外に出るのは、結構面倒なのだ。

「ちょっと行ってみよう」

 そう言って、エルが走って行く。

「どこ行くんだ?」

「門の事務所だろ」


 ※


 正門の脇にある事務所は、外出、外泊届の申請をする場所で、養成所の警備隊の駐屯地でもある。

 中庭から校舎を抜けて外に出ると、エルがまっすぐ走って行くのが見える。

「何しに行ったんだよ。外出届の偽造でもする気か?」

「偽造?養成所の公文書は、全部ホログラムがついてる。偽造難しいし、リスクが高い」

「リスクが高い?」

「公文書の偽造は悪質過ぎる。今までのような処分じゃすまないぞ。前例はないが、退学処分が検討されても仕方ない」

「そんなにやばいのかよ」

「当然だ。ホログラムの技術には、魔法と錬金術の知識が不可欠。偽造文書を作る為に勉強させてるんじゃないからな」

「…そうだな」

「それ以前に、俺たちの顔は門番に割れてるんだから、外出禁止の期間に門番が俺たちを通すわけない」

「養成所きっての不良三人組、か」

「そういうわけだ」

 シャルロと一緒に、門の近くまで歩く。

「こら。用がないなら門には近づくな」

 近づくだけで咎められた。

 シャルロがポケットから何か取り出して、門に向かって投げる。

 懐中時計だ。

 門の鉄格子の間から、時計が外に出る。

「時計を落とした」

 良く、そんなセリフが言えるな。

「おい、拾ってやれ」

 門番が声をかけると、門の外側に居た兵士が懐中時計を拾って、鉄格子越しに懐中時計を内側の兵士に渡す。

 その兵士が、シャルロに懐中時計を渡す。

「勤務の交代時間は何時だ?」

「教えられないな」

「ランチの時間で入れ替わる」

「答えられない」

「ランチの時間は警備が倍になる。それが終われば、午前に警備をやっていた人間が休憩に入る」

 それ、いつの間に調べたんだ?

「今度は何をしようって言うんだ?赤髪の秀才君」

「無駄だと思ったことはないか」

「駒というのは命じられたままに動くものだ。自分の駒が意思を持って勝手に動いたら、一手損をするだろう。致命的だと思わないか?」

 チェスの話しか?

 確かに、一手の違いは大きい。

 先手である白が有利なゲームなんだから当然だけど。

「カミーユ、行くぞ」

 シャルロと一緒に門を離れる。

「門を抜けるのは無理だな」

「みたいだな」

 内側にも外側にも門番を置いてるんだし。

「監視されてる。それがエル一人なのか、俺たち三人なのかは知らないが」

「監視?」

「俺たちがチェスをやってるのを、あの門番が知ってるわけないだろ」

「ただの例え話じゃないのか?」

「相手に意味が通じなければ、例え話として成立しない。…エルが来たな」

 事務所から出たエルが、こっちに向かって来る。

「カミーユ、シャルロ」

「終わったか」

「何か面白い話しでも聞けたか?」

「授業の一環なら外に出られる」

 授業の一環?

「研修旅行のことか?そんなのまだまだ先だ」

 研修旅行は中等部一年の終わりだ。

「違う。何か、外に出ないと出来ないような授業を考えよう」

「養成所の中ではできない授業か…」

「グラム湖に行きたいんだ。桜が綺麗だって」

 確かに、花見ならグラム湖だ。

 あれ?なんで、そんなこと知ってるんだ?

「誰に聞いたんだ?」

「事務所の人に」

「お前、俺たちがこれから何かやるってばらして来たのかよ」

「楽しみにしてるって言われたけど」

「楽しみにしてるって?」

「誰が?何を?」

「事務員の女の人が、俺たちの悪戯を」

「は?」

 意味が分からない。

「ほら、図書館に行くぞ。とりあえず課題を片付けないと何もできないからな」

 課題は確か、書き取りだったな。


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