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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.王子と姫
22/40

06 王国暦五九九年 ポアソン 十日

 ランチの時間。

 いつものようにエルとシャルロと一緒に食堂に行って、食事も終わる頃。

「あぁ、つまらない」

「何が?」

「実験が始まるのは、中等部からだ」

 次の授業は錬金術の授業だが、内容は錬金術概論。

「当たり前だろ。何の知識を持たずに、実験を先行して出来るわけないって」

「どうせ二人とも偏った知識しかないんだ。この機会にしっかり勉強しろ」

「実験、楽しみにしてたのに」

「そんなの学習計画表を読んでいればわかるだろ」

「学習計画表?」

「知らないのか?」

「知らない」

「まさか、もらってない?」

 エルが首を傾げる。

 もらってない可能性はある。

 あれは、入学時に配布されたはずだから。

「担任の教師に言えばもらえるだろう。目を通すだけで良いなら、後で見せてやる」

 どうせ、初等部の授業は選択科目がないから、学習計画表なんてなくても問題ないけど。

「教えて」

「なら、さっさと食べろ」

 さっきから、エルの目の前にあるパスタが減っている気がしない。

「あの、カミーユさん」

 声をかけられて、近づいてきた子を見る。

 初等部の一年だろう。

 見慣れない女の子だ。

「マリアンヌさんと付き合ってるって本当ですか?」

「はぁ?」

 冗談じゃない。

 なんでそんな話しになってるんだよ。

「付き合ってるわけないだろ」

「マリーの彼氏はアシューだぞ」

「え?そうなのか?」

 いつの間に?

「彼氏?」

 エルが首を傾げる。

 あぁ。わかってないな。

「お前は黙っておけ。…そういうわけだ。俺は誰とも付き合ってない」

 女の子が顔を赤くしながら、両手で包みを差し出す。

「あの、良かったら、食べて下さい!」

 菓子でも入ってるのかな。

「あぁ。ありがとう」

 包みを受け取ると、相手は更に顔を赤くして俯き、走り去る。

「初々しいな」

「簡単に受け取って、後悔することになっても知らないぞ」

「別に、困らないだろ」

 俺に気があるのは確かだろうけど。

 媚薬が入ってるわけでもあるまいし、菓子ぐらいもらっても問題ないだろう。

 包みを開いて、中の菓子をつまむ。

 サブレだ。

 セリーヌたちが焼いたのより数倍美味い。

 女の子らしいな。

「彼氏って?」

「恋人だ」

「好きな人?」

「全部、同じ意味だ」

「なんでそんなに言い方があるんだ」

 そこに疑問を挟むなよ。

 エルがショートパスタを一つ口に入れる。

「いつまで食ってるんだ」

「持って来過ぎた」

「残せば良いだろ」

「残すなんて考えられない。カミーユ、食べて」

 お前は女か。

 エルがコーヒーカップだけ持って、トレイを俺に押し付ける。

「食ってやれよ、カミーユ。サブレなら後で食べられるだろ」

「あぁ、くそ。食えば良いんだろ」

 皿に残ってるショートパスタを食べていると、俺にトレイを押し付けたエルは、のんびりコーヒーを飲む。

 コーヒーは飲めるのかよ。

 本当に我儘で自分勝手だ。

 劇の時もそうだったけど、何でも思い通りになると思ってるよな。

 甘やかされ過ぎてるんじゃないか?

 いや。

 だったら食事ぐらい残しても気にしないはずなのに。それは嫌なんだな。

 アレクシス様に頼るのも極力控えたいみたいだし。

 その辺が良くわからない。

「カミーユ。とっとと食えよ」

「誰の残したものだと思ってんだ」

 エルがフォークで残りのパスタを集めて、俺の口に突っ込む。

「ごちそうさま」

 人の口に突っ込んで、自分が食べ終わったことにするな。

「終わったか?」

「コーヒーぐらい飲ませろよ」

「これだけじろじろ見られていたら居心地が悪い。早く行くぞ」

 あー。さっきの初等部一年連中がこっちを見てるのか。

「わかったよ」

 仕方ない。食後のコーヒーは諦めるか。


 ※


 夜になって、シャルロの部屋に行く。

「誰か来てたのか?」

 テーブルの上に、もう一人分のカップが置いてある。

「あぁ。もう帰った」

 椅子に座るとシャルロがカップを片付けて、サイフォンに新しいコーヒーの準備をする。

「何の用だ」

「…好きかもしれないんだ」

「お前もか。俺は恋愛相談屋じゃないぞ」

「俺の前に来た奴もそうか」

「そうだよ」

 シャルロは口が堅いから、相談したくなるんだろう。

「相手は誰だ」

 でもって、面倒見が良いから。

「どうしようもないぐらい我儘で自分勝手なんだけど、気が付いたら引っ張り回されて、それが楽しくなって、一緒に居たいと思って、もっと知りたいと思ってる」

「?…待て。何の話しだ」

 シャルロが手を止めて、こちらを見る。

「絶対女じゃないってわかってるんだけど。たまに女に見えるから困るんだ」

 沸騰したお湯が、ロートを通じて昇る。

 シャルロはコーヒーの粉をかき混ぜながら、溜息を吐く。

「どこまで本気だ」

「本気じゃなかったらこんな話はしない。俺だって、冗談だって思いたいぐらいだよ。っつーか、サンドリヨンのあの可愛さは反則だろ。なんであんなに可愛いんだよ。男だろ?自覚なさ過ぎだ。俺も可愛い子は今までたくさん見て来たけど、なんで、よりによって、あれが一番なんだ。自分の感性を疑う」

「落ちつけ。お前の葛藤は良くわかった」

「俺、どうしたら良いんだよ。自分が頭おかしいってわかってる。俺だって信じられない」

 頭を抱える。

 今日、ランチの時に会った子だって可愛かったのに。

 全然興味が湧かなかった。

 普段だったら、女の子から菓子をもらえば、もう少し嬉しいはずなのに。

「…コーヒーでも飲め」

 シャルロが俺の前にコーヒーを置く。

 真っ黒な液体を眺めながら、カップを手にとって、口に運ぶ。

「まず、自分を責めるのをやめろ」

 言いながら、シャルロが俺の前に座ってコーヒーを飲む。

「お前がどこの誰を好きになろうと、誰も文句は言わない。否定すればするほど悩んでどつぼに嵌るだけだ」

「好きで良いのか」

「どうしようもないんだろ」

 シャルロの言う通りだ。

 もう、どうしようもない。

 だから悩んでる。

 悩んでるっていうか…。

 自分が信じられない。

 友人として、すごく好きだ。

 我儘で自分勝手だけど、嫌いになれない性格で、一緒に居て楽しい。

 純粋に友達だと思ってる。

 それなのに。

 同時に、恋愛対象にしてる。

「選べ。これからも一緒に居るのか、離れるのか」

「なんだよそれ」

「お前が悩んでるのはそういうことだろう。これからも友人で居られるのかどうかは、お前次第だ」

「俺次第?」

「どうせ、あの馬鹿はお前の気持ちには絶対気付かない」

「…だよな」

 人の気持ちなんて、考えようとも理解しようとしないだろうから。

 だから平気で、相手がどう思うかなんて考えずに、思ったことをそのまま言えるんだろう。

「それに、お前が離れてもエルは追いかけないだろう」

 あぁ。そんな感じはする。

 俺が避けてることを空気で読めって言ってもわからないだろうけど。

 忙しいふりをして避け続ければ、必要最低限の頼みごとしかしなくなるだろう。

「まさか、告白なんてしないと思うが…。すればどうなるかぐらい、想像がつくだろ?」

 きっと、俺が好きだって言っても、その意味を理解しない。

 むしろ俺のことを好きだって言われそうだ。

 そういう意味じゃないって言えば、どういう意味なのかを俺に説明させようとするのは目に見えてる。

 絶対言えない。

「すぐに決める必要はないが。…エルはお前を信頼してる。変な真似だけはするなよ」

「信頼してる?」

「じゃなかったら、自分から進んで俺たちと付き合おうとは思わないだろ。…エルは過去を話す気がない。喋れないことも黙ってた。もともと俺たちと積極的に関わる気がなかったんだ」

 そういえば、入学したての頃って、そんな感じだったな。

「それを変えたのが、カミーユ。お前だ。だからエルはお前を信頼して、俺やクラスの連中と関わってる。…だから、離れるならともかく。お前がエルの信頼を裏切るようなことをすれば、エルを相当落ち込ませるって覚えておけ」

「俺が、傷つけるって?」

「そうだよ。手に入った瞬間、要らなくなるものを手に入れたな」

 俺がエルを好きだって気持ち?

 それとも、エルからの信頼?

 …あぁ。こんなもの要らない。

 友人として好きでいられれば十分なのに。

 それとも、信頼なんてされていなければ、無理やりにでもこの気持ちを押し付けられた?

 あぁ、くそ。

 なんで、好きになったんだ。

 もう二度と抱きしめられない相手なのに。


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