02 王国暦五九九年 ヴェルソ 二十三日
「あ、カミーユ。ちょうど良いところに来たわね。これ、合わせてくれない?」
「衣装か」
セリーヌから上着を受け取って羽織る。
「良い感じね。でも、これって背中を丸めると恰好つかないから、舞台上では姿勢良くしててね」
「わかったよ」
「カミーユ、ちょっと待ってて!」
「なんだよ?」
「ほら、並んでみて」
奥から、サンドリヨンの衣装を着たマリーが…?
「何、やってるんだよ」
マリーじゃない。
「しょうがないだろ。マリーと同じ身長なんだから」
そういえば、同じ身長だったな。
「やっぱりリボンもつけて良さそうじゃない?きっと邪魔にならないわよ」
「そうね」
長い金髪に、ドレス。
顎を持ち上げて、その顔を見る。
化粧までしてるのか。
「何だよ」
可愛い。
これはどっからどう見ても…。
「女みたいだな」
言った瞬間、絶対女では有り得ない速度で拳が飛んでくる。
「同じ手を二回も受けるかよ」
かわして、エルの腕を掴む。
「ちょっと!暴れないでよ!」
「うるさいな。もう脱いで良いだろ?」
「もうちょっと着てて」
「いつになったら解放されるんだ」
「ケーキ奢ってあげるから我慢して」
「甘いものは嫌いだって言ってるだろ」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
この前、サブレの時に言っただろ。
「あー、もう。面倒だ」
「ね、ティアラもつけよっか」
「リボンとどっちが良いかな」
「両方試してみようよ」
「あ、あの大きい帽子もかぶせてみない?」
「三角帽?…劇では使わないと思うけどね。せっかくだからかぶせてみようか」
っていうか。
遊ばれてるな。エル。
「バイオリンの練習はどうしたんだ」
「四六時中、ユリアに付き合ってられるかよ」
逃げて来たのか。
「どこまで弾けるようになったんだ?」
「愛の喜びも悲しみも、一通りは弾けるよ」
「え?もう出来るようになったのか?」
「アレクが一回弾いてくれたから」
「俺も聞いてみたかったぜ、それ」
「頼めば良いだろ」
「頼めるわけないだろ」
相手はアレクシス様だぞ。
「…なぁ、カミーユ。手に入った瞬間、要らなくなるものってなんだと思う?」
「なんだそれ。なぞなぞか?」
「なぞなぞ?」
なぞなぞも知らないか。
「言葉遊びかって聞いてるんだよ」
エルが頷く。
手に入った瞬間、要らなくなるものか…。
「夢」
「夢?」
「叶ったら、夢じゃないだろ?」
まぁ、夢が叶ったら、次の夢を作れば良い話しだけど。