02 王国暦五九八年 リヨン 二十八日
「お、良い動きだな」
くそっ。
後、もう少しなのに。
右…、違う、左だ!
「!」
兄貴の剣が、俺の左手に反る。
すかさず胴体に向かって突き刺すと兄貴が倒れた。
倒れた?
「や…、やった!」
初めて、兄貴から一本取った!
「とうとう、やられたな」
兄貴に手を差し伸べると、その手を取って、兄貴が立ち上がる。
「今の、本気の勝負だよな?」
「当然だ。純粋に俺の負けだよ」
「やったー!」
ちゃんと、毎日鍛錬をしていた甲斐があった。
「おめでとう、カミーユ兄さん」
「マリユス」
振り返ると、弟のマリユスが駆けてくる。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「なんだよ、敬語なんて使うなよ」
マリユスは、エグドラ家の本家で修行中だ。
年末年始、家族で過ごすために王都に来たのだ。
養成所に入るまでは俺も兄貴も本家に居たが、兄貴は従騎士を目指す準備の為、俺は養成所に入る為に、今年のヴェルソから王都に居るのだ。
養成所は春入学。ポアソンにスタートだったから。
「兄さんこそ、養成所の人は貴族ばかりだから、敬語に慣れたかと思ったのに」
「そんなことないぜ。敬語使ってる奴なんかちっとも居ない」
「そうなの?せっかく、敬語の練習してきたのに」
「マリユスも養成所に入りたいのか」
「カミーユ兄さんと遊べないの、つまらないから」
「遊びに行くところじゃないぜ。死ぬほど勉強させられるんだから」
「カミーユなんて、いつも愚痴ばかりだぞ」
「だから、誰にも挨拶せずにクロフト兄さんと稽古ばかりしてるの?」
そういえば、家に帰ってすぐ兄貴に会ったから、真っ直ぐ訓練場に来たんだっけ。
養成所は今日の午後から年末年始の休暇に入った。
ヴィエルジュの朔日まで休みだ。
二日は、午後にホームルームがあるだけで授業がないから、二日もほとんど休みみたいなものだけど。
「三人揃うのは久しぶりだな」
「そうだな。マリユス、俺と勝負しようぜ」
「愛剣を忘れて来たのに…」
「忘れて来た?」
「間違えて、演習用のを持って来ちゃったんだ」
「それなら、武器庫で選んで来ようぜ。俺もそろそろ、もう少し重い剣に変えようと思ってたところだ」
「こら。ちゃんと父上に許可を取らないとダメだろ。カミーユは挨拶だって済ませてないじゃないか」
「え?親父、家に居るのか?」
親父は陛下の近衛騎士だ。だから、家に居るなんてこと、滅多にない。
「居るよ。年末年始は城で陛下の守りにつくが、今日とヴィエルジュの朔日は休暇を取っている」
「じゃあ、三人で押しかけるとするか」
「うん」
親父のことだから。
新しい剣を選んだら、訓練場に戻って稽古をつけてくれるだろう。