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旧作2-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.錬金術師と蜜の薬
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01 王国暦五九八年 リヨン 十六日

 喋れるようになる薬。

 声を出せるようになる薬。

 昨日は養成所の図書館を調べて、今日はセントラルにある王立図書館まで足を延ばしたのは良いんだけど。

「あぁ、くそ」

 なんで、錬金術の本ってこんなに難しい事ばかり書いてあるんだよ。

 さっぱりわからないぞ。

 もう少し初歩的な本を探した方が良いのか?

 こっちの本なら…。

「君は、カミーユだったっけ?」

「ヴェロニク」

「妙なところで会うものだね」

 ヴェロニクがくすくす笑う。

 それは、こっちの台詞だ。

「錬金術の授業はまだ先なのに、何を調べているの?」

「作りたい薬があるんだ」

「作りたい薬?素人が薬を作るなんて危険だよ」

 素人、か。

 そうだよな。錬金術の本をまともに読めないんだから。

「食材の組み合わせだけで作ってるから大丈夫だ」

「そうでもないよ。組み合わせ次第では毒にもなる」

「…え?」

 そうなのか?

「作りたいものがあるなら手伝おうか。少しは先輩だから。ね、誰に使う薬なのかな」

 ヴェロニクは、エルが喋れないこと知ってるのか?

「無理に言わなくても良いけど」

 知ってるみたいだな。

「エルだよ」

 降参して言ったのに、ヴェロニクは驚いて、笑った。

「なんだ。女の子に盛る媚薬でも作ってたのかと思ったら」

「媚、薬?」

 なんでだ?

「だってそれしか考えられないよ。錬金術を知らない少年が作りたい夢の薬なんて」

 あぁ、くそ。

 嵌められた気分だ。

「エルに使うってことは、あれかな。声を取り戻す薬」

「知ってるのか」

「うん。知ってるけど、エルは大抵の治療なら受けてるはずだよ。君が持ってる程度の本じゃ、エルの声は戻らない」

「そうか…」

 そうだよな。

 エルにはフラーダリーもアレクシス様もついてるんだ。

 治療なら一通り試してるだろう。

 あれ?

「声を、取り戻す?」

「うん?知らないの?エルはもともと喋れたらしいよ」

 今まで考えなかったけど。

 良く考えたら、言いたいことを伝えようと口を動かしてるんだから、もともと喋れたって考えるのが普通だよな…。

「でも、何か大変なことがあって、喋れなくなったらしいね」

「大変なこと?」

「詳しい事は私も知らないな。アレクも教えてくれないし」

 フラーダリーとアレクシス様は知ってる?

 大変なことってなんだ?

 そういえば、エルは孤児だ。

 親を亡くした?何か酷い目にあった?

「まぁ、彼の過去なんてどうでも良いけど。…薬を作る話はどうするの?」

「さんざん試してダメだったんだろ?」

「そうだね。でも、試してないことがあるかもしれないよ」

「試してないこと?」

「もともとは喋れていたんだから、何かのきっかけで喋るかもしれない。物凄く恐ろしい物を見せて叫び声を上げさせるとか。体にナイフを刺して悲鳴を上げさせるとか。両手を縛ってどこかに吊るしておけば、助けを呼ぶために声を出すかもしれない」

 死ぬだろ。

「なんで、そんな危ない方法ばっかり提示するんだよ」

 恨みでもあるのか?

「甘い方法なら一通り試していると思うからさ」

「あー」

 それは、納得。

 フラーダリーもアレクシス様も、絶対危ないことはさせないだろうな。

 ってことは。

「リスクのある薬は試してない?」

「正解」

「でも…」

 それなら余計、俺には無理だ。

「錬金術の授業をしてあげようか」

「錬金術の授業?」

「そうだよ。エルの声を取り戻すことはアレクの望みでもあるからね。手始めに、その本の内容について勉強してみる?」

「俺、クラスで一番成績が悪いんだぞ」

「勉強が嫌いなの?」

「嫌いってわけじゃないけど」

「じゃあ大丈夫。先にこっちを勉強しておけば、何が必要かわかってくるから。それに合わせて、他の能力を補完すると良い」

 なんかそれって、この前のチェスみたいだな。

 夕飯までずっとチェスの棋譜を並べ続けてたら、それぞれの駒の動き方と、特殊なルール、得意不得意がわかったから。


 ※


 結局、夕方まで勉強したけど、ちっとも捗った気がしない。

「後期の古代語の授業はしっかり勉強した方が良いよ。教科書はともかく、図書館にある高度な錬金術の本は古代語が多いから」

 年明けからは、後期が始まる。

 古代語か…。

「古代語は、エルが得意だからどうにかなるだろ」

 教えてもらおう。

「得意なの?」

「知らないのか?会長も認める能力だぜ」

「そんなに優秀なら、こっちのクラスに来れば良いのに」

「そういや、シャルロにテスト渡してエルにやらせたの、お前だったな」

「そうだよ。アレクと同じクラスの方が良いと思って。会長にも根回しはしたんだけど、失敗したみたいだね」

 全部、お前のせいか。

「こっちは酷い目に合った」

「うん。聞いたよ、会長の挑戦に勝ったって。君たち、面白いよね。クラスにまだ馴染んでも居ないクラスメイトの為に必死になるなんてさ」

「あいつは俺の友達だ。友達が困ってたら力を貸すだろ」

「他の子は違うんじゃないの?」

「同じクラスに入った仲間なんだから。助けるだろ」

「そういうものかな」

 お前はそうじゃないのかよ。

 薄情な奴。

 いや。俺に勉強を教えてくれたんだから、そこまで薄情じゃないか。

「なんで、俺に錬金術を教える気になったんだ?」

「面白いから」

 ヴェロニクがほほ笑む。

「面白い?」

 何が?

「それから、お礼のつもり」

「お礼?」

「君は、将来騎士を目指すんだよね?」

「もちろん」

「来年から、養成所に通いながら騎士を目指せる過程が出来るのを知っている?」

「え?」

「選択科目に、今までなかった馬術や槍術、騎士の心得を習う授業が増えるんだ。授業は順次増えるみたいだよ」

 確か、中等部に入ったら授業はほとんど自分で選ぶんだっけ。

 それが本当なら、卒業後すぐに従騎士をやれるかもしれない。

「騎士に必要な過程を修了すれば、卒業時に騎士の試験を受けて、七等騎士の叙勲を受けられるよ」

「え?本当に?」

 七等騎士。

 騎士の階級では最下層だが、正式な騎士に違いない。

 つまり、従騎士をやる時間が省けるってことだ。

 軍に所属すれば、騎士の階級も、功績や軍の階級に従って上げられるだろう。

 もしくは、位の高い騎士の近衛騎士になれば、その騎士より二つ下の階級が得られる。

「私もグリフも、アレクの近衛騎士を目指しているから、とてもありがたい。君のお兄さんには感謝してるよ」

「兄貴に?」

 なんで?

「君のお兄さんが会長に手紙を送ったって聞いたけど」

 知らない。

「騎士過程の創設を訴えたみたいだよ。あの会長を動かしたぐらいだから、相当熱心に手紙を送ったんじゃないかな」

「兄貴が…」

「その様子じゃ、知らなかったんだね。仲の良い兄弟で羨ましいな」

 そんなこと、全然言ってなかったのに。

「というわけで、カミーユ。これは課題。次の休みまでにやっておいてね。今日の続きは、養成所の図書館でやろう」

「え?」

 錬金術の授業って、まだ続けるのか?


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