Quand on prie la bonne étoile
心地良い風が吹く夜の丘を、良く似た顔の三兄弟が歩く。
「ほら、僕が一番!」
頂上に向かって丘を駆け上がる弟と、それを追う兄を眺めながら、のんびりと後ろを歩く少年が満天の星空を見上げる。
「あ」
夜空に一筋の光。
「どうした?カミーユ」
「何かあったの?」
兄と弟が振り返る。
「流れ星」
「え?どこどこ?」
末の弟が、星の散らばる夜空を見渡す。
「今から探しても遅いって」
「あ~あ。また、願い事を言うのが間に合わなかった」
流れ星を探すことが叶わなかった弟が溜息を吐く。
「願い事なんてあるのか?」
「あるよ。兄さんたちはないの?」
「俺の今の願いは養成所なんて行きたくないってことだよ」
「まだそんなことを言ってるのか」
「俺は行きたいなんて一言も言ってないぜ」
「僕だって、兄さんたちが王都に行っちゃったら寂しいよ」
「二人とも。いつまでもそんな甘えた態度では、騎士になんてなれないぞ」
「…はい」
「はーい」
「カミーユ。その間延びした返事は止めるように言っただろう」
「はいはい。わかってるよ。…マリユス、願いって何なんだ?」
「騎士になることだよ」
「そんなの星に願うことじゃないだろ」
「だって、クロフト兄さんは来年の春から従騎士だし、カミーユ兄さんだって養成所を卒業したら王都で従騎士をやるのに。僕ばっかり置いてけぼりになっちゃうよ」
「あのなぁ。養成所なんて行ってたら騎士になるのが遅れるんだよ」
「そうなの?」
「カミーユは六年間、養成所で過ごすことになるからな」
「それから従騎士をやるんだぜ。弟に先を越されたら、かっこ悪いだろ。だから養成所なんて行きたくないんだよ」
「そうだったんだ」
マリユスが笑う。
「笑い事じゃないんだぞ」
「でも、魔法剣士なんてかっこ良いよ。僕は絶対なれないから羨ましい」
「マリユスの言う通りだ。お前が持ってる才能を無駄にする必要はない。騎士になるのが後か先かなんて些細なことで悩んでいる暇があったら、日々の鍛練を怠らないことだ」
「はいはい。わかってるよ」
兄から何度も聞かされた説教に、カミーユが肩をすくめる。
「じゃあ、今度流れ星が流れたら、三人で騎士になれますようにって願うよ」
「一度の願いで三人分頼むのかよ」
「良いでしょ?騎士になることは兄弟の目標なんだから」
「こら。騎士になることが目標じゃだめだぞ」
「え?」
「なんで?」
「騎士になることが到達点であってはならない。国民と国王陛下を守り、国の平和の為、国を支える存在となること。それが騎士の役目だ」
「国を支える存在、か」
「じゃあ、それを兄弟の夢にしようよ」
「良い案だな。三人で国を支える存在になること。どんなに離れてても、その過程が違っていても。俺たちが目指すべきものは常に同じだ」
「…そうだな」
三人で過ごすことが出来るのは今日で最後。
長男のクロフトは来年の春から父親の従騎士になる為、二男のカミーユは今年から王立魔術師養成所に入学する為、幼い三男のマリユスを残して王都に旅立つのだ。
最も、二人で王都へ行ったからと言って、全寮制の養成所に入学するカミーユが兄のクロフトと過ごせる時間はほとんどないだろう。クロフトが従騎士になれば尚更だ。
兄弟は明日から離れ離れの生活を送ることになる。
「何処に居ても、俺たちの夢は、ずっと同じだ」
「うん!僕も目指すよ。僕たちで、国を支える存在になるんだ。だから、待っててね。クロフト兄さん、カミーユ兄さん」
二人の兄が末の弟に微笑むと、夜空に一筋の星が流れる。