表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの帰り道  作者: 銀花
#07 幸せの花をあなたへ
33/33

おまけ

本編のおまけです。

 凍えるような風が吹き付け、菜月のコートをバサバサとはためかせる。


「ひぃ、寒い!」


 菜月はポケットに手を突っ込んだまま、縮こまった。

 朱那の結婚式の二次会からの帰宅途中、時折街灯やイルミネーションを飾る家が点々と見えるが、住宅街は暗く静まり返り、人影もない。

 菜月は少し前を歩く大貴を追いかけ、隣に並んで、暖を取るようにピタリとくっついた。


「うう、ダメだ、風避けにもならん」


「……」


 ぶつくさ言う菜月に、大貴は無言で呆れたような視線を向けた。それからため息を吐いて前を向く。


「帰ったら勉強しなきゃ」


「あらあら、受験生は大変ですこと」


 菜月が口に手を当ててニヤニヤ笑うと、大貴は微かに眉を上げた。


「ムカつく、自分だけ進路決まったからって。この前まで、何したらいいか分かんないって泣いてたくせに」


「そんな昔のこと覚えてないもーん」


 唇を尖らせてそっぽを向くと大貴の肘に軽く小突かれた。


「ていうかさ、こんな時期に結婚式挙げなくてもいいよな。ホントに俺らの担任かあの先生」


「本人に直接言ってみればいいよ。俺は受験生じゃないからな、って言うよどうせ」


「……ホントに教師かよあの人」


 やれやれと大貴は肩を落とし、菜月は吹き出した。

 その時、何かがふわりと目の前に落ちてきて、夜空を見上げる。


 暗い空からちらちらと舞い降りてくるのは、白い雪。


 菜月は顔を綻ばせて大貴の袖を掴み、揺さぶった。


「見て見て! 雪!」


「あー、どおりで寒いわけだよ」


 はあと白い息を吐き出しながら、大貴は雪を眺めている。

 その横顔を見上げ菜月はハッとし、自身のマフラーを外して彼の首に巻き付けた。

 大貴が目をぱちくりとさせて振り返る。


「何、いきなり」


「受験生が風邪ひいたらヤバいじゃん。もうすぐセンターなんだから。貸してあげる」


「菜月は寒くないのか」


「平気平気、私寒いの嫌いじゃないし」


 菜月はへへと笑って先に歩き出そうとしたが、大貴に腕を掴まれ引き止められた。

 驚いて振り返ったのも束の間、彼の両手が菜月の頬を包む。菜月は自分の心臓が跳ねるのを感じた。


「平気とか言ってる割に、顔冷たいけど」


「……大貴の手も冷たいんだけど」


 冷えきった彼の手から逃れようともがいてみたが、上手く力が入らない。

 それに心臓の音がうるさくて、その音が彼にまで届いてる気がして、体温が一気に上がった。


 大貴の顔がすぐ近くにあり、恥ずかしいのに、視線が外せない。

 弱り果てて眉を下げると、彼は微苦笑して尋ねた。


「……キスしていい?」


「うえっ!? キッ……!? えええ……!?」


 こんなとこで!? と菜月は顔を真っ赤にして慌てふためいた。そんなこと突然言われても心の準備ができていない。

 狼狽しきって視線を揺らがせていると、大貴は更に小首を傾げる。


「していい?」


――ちょっ、そんな顔されたら……!


 断れないじゃない、と内心叫びながら目をキツく閉じた。


「う……うん」


 覚悟を決めて菜月が頷くのとほぼ同時に、唇が重ねられる。


 初めてのキスは、優しくて、温かかった。


 心臓が早鐘のように鳴り続け、次第に足下がふわふわしてくる。緊張に硬直していた身体も溶けるように力が抜けていく。


 一度唇を離し、視線を絡めてからまた口付ける。


――好き……大貴が好き。


 気持ちが溢れて、止まらない。もっと触れていたい。

 菜月は大貴のジャケットをきゅと握りしめた。


 長く思えたキスの後、唇を離した彼は、少し照れたように視線をそらした。それを見た菜月も何だか恥ずかしさが増し、俯いた。

 向き合ったまま無言で佇んでいると、大貴が低く呟く。


「これからちゃんと抑えられるかな……」


「……え?」


 それが全く聞き取れず、菜月は彼を見上げて首を傾げる。すると大貴は一瞬弱ったような視線を向けたが、そのまま歩き出した。


「帰ろう」


 彼は当然のように菜月の手を掴んだ。

 菜月は不思議に思ったが、おぼつかない足取りで大貴についていった。


 彼の少し後ろを歩きながら、菜月は指で自分の唇に触れた。


 展開が早すぎてちょっと頭がついていかない。

 でも胸は高鳴るばかりで、大貴がいとおしくてたまらなかった。


 彼から幸せをもらったら、同じぐらい彼を幸せにしたい。そうやって一緒に幸せになっていけたら、どんなにいいか。


 繋がれたこの手を離さないために、どんなときも側にいよう。

 そう考えたとき、不意に、二次会で朱那が神父の真似事をして言った台詞が蘇った。


 病める時も健やかなる時も――。


 菜月は足を速めて大貴にそっと寄り添った。

 胸の中にひとつの誓いを抱きながら。




#00 いつもの帰り道 終

これにて完結です!

ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました!


下部に番外編のリンクを貼りましたので、そちらもよろしくお願いいたします^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ