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「よかった、じゃあ大貴連れてくるから、ちょっと待ってて」
そう言って踵を返そうとしたとき突然佐々木に腕を掴まれ、菜月は驚いて彼を見上げた。
「お前も無理するな」
「え……別に無理してないけど、私」
「俺にはそうは見えないけどな」
じっと顔を覗き込まれ、言葉を詰まらせた菜月は彼の視線から逃げるように顔を背けた。
佐々木はやれやれとため息を吐き、菜月の腕を離して代わりに頭をポンポンと撫でた。
「篠原は頑張ってるよ。でも、頑張りすぎるなよ。弱音ぐらい吐いたっていいんだぞ」
「……はい。……大貴呼んでくる」
小さく頷き、菜月は待合室へ向かった。
佐々木の言葉はじわりと胸に染みた。それにやはり“大人”の存在はホッとするものがある。
自分たちはまだ子供で、学生で、人一人支えることもままならないぐらい頼りない。
でも、一人ではないのだ。
彼にもそれを分かっていてもらいたかった。
あんたの側には、私がいる。
面と向き合って、いつかそう伝えられたらいいのだけど。
大貴と佐々木を送り出し、そして帰宅する大和と光も病院の玄関まで見送った。それから家に連絡し、病院の外にあるベンチに座って両親の到着を待った。
何となく、待合室に一人ポツンと座って待っていたくなかった。気分がどんどん落ちていく気すらした。
ぼんやりと見上げた空はまだ明るく、時折吹く風にトンボが揺られるように飛んでいく。
日は傾き、風は生温い。
――無理してるように見えたのかなぁ……。
不意に佐々木の指摘を思い出し、無意識に頬を擦る。
泣くことはなかったけれど、顔は始終強張っていたのだろう。頬が僅かに固まっている。
だって、目の前で朱那が死ぬのかと思ったのだ。
朱那の名を呼んでも彼女が全く目を開かないのが不安でならなかった。
病院に運び込まれるまで、彼女の姿を見ている間、菜月はずっと怯えていた。怖くて怖くて、思わず傍らにいるはずのない大貴の姿を探したほどだった。大貴に助けを求めてもどうにもならないことぐらい分かっていたのに。
ただ、彼の側が一番落ち着けるのだと、自身の心がそう言っていた。
でも、大貴にとって自分は落ち着ける存在なのだろうか。
待合室で“家族同然”などと言い放ったが、改めて考えると押し付けがましくも感じる。
今まで良い距離感で彼と接してこられたと思っていたのに、それも自分の思い過ごしだったのかもしれない。
菜月にとって大貴は大切な、かけがえのない存在だ。これまでも、これからも。
それが当たり前すぎて、この感情は常に抱いていたはずなのに気付いていなかった。
――好き、なのかな、やっぱ。
しかし“側にいたい”と“好き”はイコールで繋がっているのだろうか。
――でもなんか違うような。
菜月はうんうん唸りながらぐしゃりと頭を掻いた。
「考えること多くて訳分かんないや……これは後回しにしよう、そうしよう」
そう独り言を呟き、菜月は考えを断ち切った。
今は考える余裕がないが、一段落したら自身の感情ともう一度向き合おう。それが自身のためにも、大貴のためにもなるのだと思う。
今はまだ、このままでいい。
いつかその時はくるのだから。
#05 移りゆく日々の中で 終




