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ハリボテ天使な彼女

作者: 笹田 一木




 木々のあいだの崖に面した見晴らし台に二人の子供が立っていた。

 年は二人とも小学校高学年ぐらい。一人は男の子、もう一人は女の子だ。

 男の子は眼下に広がる景色を眺めていた。

 崖のすぐ下には森が広がり、その先には町が広がり、さらに先には青い海が輝いていた。


「きれいだなー」


「うん、きれい」


 そう返事をした女の子は、男の子とは別の方向を見ていた。上を向いている。


「どこ見てんだよ、ミナ」


「空」


「え……?」


 女の子は晴れわたった青い空を見つめていた。


「大きな雲がいっぱい出て、柔らかく光ってる」


 女の子は微笑みを浮かべる。ちょうど、その空を飛行機が横切る。


「ねぇ、カズちゃん。わたしには二つ、夢があるんだ」


「夢?」


「一つはね。空を自由に飛ぶこと。もう一つはね……」


 女の子は笑顔で男の子を見た。


「カズちゃんと結婚すること!」






 四年後。


 朝日が照らす中、自分の部屋で、向井ムカイ 和樹カズキは新しい制服を着ていた。


(今日はいよいよ高校の入学式……)


 和樹は机の上に置いてある手紙に視線を移した。手紙の送り主は、上村ウエムラ 美菜ミナと書かれている。


(あいつと会うのは小学校の卒業式ぶりか……)


 和樹は机に置かれた手紙を開き、ある箇所を見て一瞬ニヤけると、かばんを取り、部屋を飛び出した。


 家を出た和樹は軽い足取りでバス停への道を歩く。


(やべー、もうスキップしそうだよ。けど押さえろオレ。登校初日から奇行に走るわけにはいかない)


 それでも和樹の足取りは、不自然なほどピョンピョンと跳ねてた。


 和樹は歩きながら、美菜についてのことを思い出していた。

 小学校卒業後、和樹と美菜はそれぞれ別の中学校に進学した。和樹は普通の公立中学、美菜は私立の進学校だった。それ以来、和樹と美菜はそれまでの仲良しから、急に縁遠くなってしまった。

 その後、和樹は風の噂で、美菜が中学生になってから、とてもかわいくなったらしいことを聞いた。もともと小学生の時からクラスのアイドル的な存在だったが、それからさらにかわいくなったとのことだった。

 そんな噂を聞いた和樹は、美菜が受けると聞いた難関校に、自分も行きたい一心で猛勉強、なんとか受かることができた。

 和樹は美菜と同じ高校に入ることができたのだ。

 けれど和樹は不安を持っていた、同じ学校になったものの、三年間という厚い壁。一緒の高校に行ったところで、美菜にはもう相手にされないじゃないかと。

 しかし……



 和樹は通学路の途中の橋の上で立ち止まった。小川にかかった小さな橋だ。

 ここは小学校時代、美菜とよく待ち合わせに使っていた場所だ。ごつい手すりに寄り掛かりながら和樹は息を整える。


(落ち着け……! 落ち着くんだオレ)


 こんなうきうきしたことは人生で初めてなんじゃないかと思った。

 和樹は待ちながら、先ほど自分の部屋を出る前に見た、美菜の手紙の一節を思い出す。


『また一緒の学校になったね。すごくうれしいよ! また一緒に登校しようね。小学校の時にいつも待ち合わせしてた場所で落ち合おうよ』


 和樹はまた自然とニヤけてしまった。通行人が不自然そうに見ていた。

 一ヶ月前、その手紙を初めて見た時、和樹は興奮してその場で飛びあがった。美菜が自分のことを覚えていてくれた。さらに美菜とまた一緒に登校できる。和樹はその瞬間、信じられない奇跡が起こったと思った。




(来ないな……)


 和樹が待ち始めてから五分が経過していた。


(ついつい早く出ちゃったからな……だいたい待ち合わせ時間なんて決めてなかったし)


 和樹はぼんやり空を見る。青い景色が広がっていた。


(もしかして、今までのことはオレが見ていた夢か何かだったりして……それだけ都合が良すぎることだもんな)


「カズちゃん!」


 突然、きれいな声が、遠くから響いてきた。

 和樹は素早く声の方向を向いた。女の子が一人、和樹に向かって駆け寄ってくる。

思わず魅入ってしまった。

 柔らかい髪は風に揺られてふわりと舞い、ぱっちりとしたきれいな目には黒い瞳が宝石のように輝いている。華奢な体には真珠のような白い肌が美しく輝いていた。心全体が包み込まれるようなはじける笑顔を浮かべながら、制服に身を包んだ高校生の美菜が一直線に駆け寄ってきた。

 和樹はその瞬間、飛びあがるのを必死で抑えた。


(キタ――――――!!! ヤベー!! メチャメチャかわいい! スゲーかわいくなってる! 信じられねーよ、こんな美少女見たことねーよ! それともこれは地上に舞い降りた天使かなにかですか!? これは奇跡か? 夢か? 幻か? いいえ! 現実です。現実に起こった奇跡です! ありがとう神様!!!)


 美菜は明るい笑顔で近づいてくる。そんな美菜を見つめながら、和樹はある不自然なものに気づいた。


(アレ……?)


 美菜の背中に巨大な翼がくっついている。ハリボテのような作り物の翼だ。


(え――――!!? な、なんですか、コレ!?)


 和樹の目の前に立った美菜はニコッと笑った。


「久しぶり、カズちゃん」


「あ……ああ、おヒサシブリです」


 和樹は少しのあいだ固まっていたが、なんとか腕を動かし、美菜に付いている巨大な翼を指さした。


「そのミナ……おまえ、これはなんですか?」


「え? これって、見た通りだよ。ツバサ」


(だから、その翼が何でついてんだよって話だよ!!)


 和樹は美菜と一緒にバス停までの道を歩く。


(痛い、痛い痛い痛い……視線が痛いよ。周りの人がすげー見てるよ、なんか変な翼をつけた子と、それと一緒に歩くオレを……。みんな見てみなよ、この美少女を……。なんでみんな翼しか見ないんでしょうかね……。っていうかミナさん、この翼邪魔ですよ。オレ隣歩けませんよ。まあ歩きたくないけど。ってか向かい側から歩いてくる人にとって超邪魔なんですけどソレ。……あっ、後ろにたたまれた。あー、あそこの糸を引けばたたまれるんだー。って!! どうでもいいわ!!!)


「嬉しいなー、カズちゃんとまた一緒に登校できるなんて」


 美菜はニコリと笑った。


(オレだって最高に嬉しいよ! 背中に翼がなければね)


「そ……その翼……なんで付けてんの?」


 和樹はおそるおそる聞いた。


「カズちゃんは、わたしが小学校のときに言った夢、覚えてる?」


 和樹はドキッとした。


「え、え~と」


 和樹は戸惑いながら口を開く。


「オ…………オレと結婚すること…………?」


「もう一つの方」


(…………え?)


 和樹は必死で記憶をなぞる。


「え――――と………………」


 和樹はハッとした。


「もしかして……空を……飛ぶこと?」


「うん!」


 美菜ははじける笑顔を見せた。


「空を飛ぶには翼でしょ?」


(え――――――!!??)


「中学時代は付けてなかったんだけどね。でももう高校生だし」


(高校生なら何なんだよ)


「自分の夢の実現に向けて行動するには頃合いかなって思って…………これってもしかして高校デビューってやつ?」


(そんな高校デビュー聞いたことねーよ!!)



 その後に乗ったバスの中で、巨大な翼が猛威を振るったことは言うまでもない。




 入学式、クラス分け、そして席決め……始まりを告げる様々な行事がとり行われるなか、和樹の頭は完全にあさっての方向を向いていた。

 すべての行事を終えた和樹は自分の席に沈み込んでいた。


(終わった……全てが終わった……てか……忘れてた、あいつ小学校時代から多少天然だったけ。でももう天然なんてレベルじゃねーよ。理解不能です。マジ何考えてんのか分かりません。つーか毎日アレと登校すんの? オレもハリボテ天使の仲間? 別々の時間に登校するか……でもあんな翼さえなければめちゃめちゃかわいいし……)


「カズちゃーん!」


 きれいな声が和樹に向かって飛んできた。


(美少女が……! オレに向かって美少女が声を掛けて来た! 最高に幸せですよ。背中に翼がなければね)


 廊下を二人で並んで歩く。((実際は並べないので和樹が少し前方を歩く))


「ごめんね、遅くなって。翼について先生を説得するのに時間がかかって」


(先生とガチでやり合ってた――――!!)


「なんとか認めてもらったよ」


(そして勝った――――!! 勝つなよ!!)


「で、でもミナ。この翼を常に付けてる意味なんかないんじゃないか?」


「それはさっき先生にも言ったことなんだけどね。これ、取り付けるのに一時間もかかるんだ。そんなのいちいち取ったり付けたりできないよ。それに夢の実現のため、常に鳥の気持ちを維持したいしね」


(脳内まで鳥のように飛びたっちゃてるよ)


「カズちゃんはもう部活決めた?」


「オレか……。まだ決めてねーけど、野球部か……サッカー部辺りに……」


「わたしと同じ部活に入らない?」


「お、おまえと同じ部活……!」


(ウカツにもドキッとした。会話するときは顔しか見ないし)


「うん、『空飛ぶ人間部』。今は無いから、新しく作るの。今のところ部員わたしだけだけど」


(めまいが……)


「カズちゃんが入ってくれれば、わたしも心強いなーって思って」


(いやいやいや、新しく部活作るとかどれだけ本気なんだよ。こんな部に入った暁には、オレは見事にハリボテ天使の仲間入りですよ。そもそもこんな翼じゃゼッテー飛べねーだろ。いや、待てよ……翼さえなければこんな美少女と一緒にいるチャンスなんて人生でもうないかもしれない……翼さえなければ……)


「…………分かった。オレも協力するよ」


 その言葉を聞いた途端、美菜は満面の笑みを見せた。


「やった――――!! カズちゃんならそう言ってくれると思った。ありがとカズちゃん!!」


 この瞬間、和樹は決意した。美菜のこの非現実的な夢をなんとかあきらめさせて、美菜をまともな女の子に戻そうと……。


(一緒の部にさえいれば、クラスが別々でも一緒にいる機会は増える。あきらめさせるチャンスは山のようにあるはずだ!)


 この日から和樹の戦いが始まった。



 入学式から三日が経った。

 この日は『空飛ぶ人間部』の初めての活動だった。

 ソフトボール部が元気良くキャッチボールする隣、グラウンドの端っこに和樹と美菜は立っていた。

 美菜がコホンと咳払いする。


「えー、我が『空飛ぶ人間部』の初めての活動日ということですが、その活動を始める前に非常に残念なお知らせがあります」


 美菜の演説を、和樹は力無く聞いている。


「信じられないことに、学校はこの『空飛ぶ人間部』を正式な部活として認めてくれませんでした」


(まぁ、当然だろ)


「我々の全力の勧誘もむなしく……部員も集まらず」


(ごめん、オレさぼってた)


「全力の説得に、常識に凝り固まった頭の固い教員方は応じず」


(ここの教員はまともで良かった)


「わたしも泣く泣く、自由活動という形で最初の活動を取り行うことになりました」


(ここであきらめてくれれば……)


「しかし皆さん!」


(オレだけだよ)


「わたしはあきらめません!」


(あきらめてくれ)


「必ずこの学校にこの部活を認めさせます!! そして今日の活動をこの部活の長い歴史の名誉ある始まりの日にしようではありませんか!!」


 和樹は指の端っこだけで拍手した。


「……で、さあ、ミナ。気合の入ったコメントのあと悪いんだけど、どうやって空飛ぶわけ? まさかその……」


「モチロンこの翼ですよ!」


「その……どうやって……」


 美菜は自信に満ちた笑みを浮かべた。


「よくぞ聞いてくれました。活目せよ! この翼の脅威の性能に!!」


 美菜は勢いよく、翼に付いている糸を引っ張った。


 パタパタパタ……


 ハリボテのような翼はウチワのように動いた。


「よし! いざ空の世界へ!!」


 美菜は思いっきり駆け出した。


(助けてくれー!! もうオレの手に負えない!)


 美菜は勢いよくジャンプした。

 そして、その勢いのまま地面をうつぶせに滑った。

 美菜の周りで吹き荒れる砂ぼこりを見ながら、和樹は泣きそうになった。


「その……美菜さん。一つ聞いてもよろしいですか?」


 制服をはたきながら立ち上がる美菜。


「なに……?」


「美菜さんの夢は空を飛ぶことでしたよね?」


「そうだけど」


「飛行機じゃダメなんですか?」


「アレは飛ぶのとは違うよ! 飛ぶモノに乗ってるだけじゃん」


「乗るって……」


「分かりにくい? 例えばさ、時速二〇〇キロの新幹線に乗るのと、時速二〇〇キロで走るのとじゃ全然違うでしょ。もしわたしが時速二〇〇キロで走れたらすごく気持ちいいと思う。カズちゃんはどう思う?」


「速すぎて怖いだろうね」


「それに飛行機じゃ、全然自由に飛べないし」


「え~と、じゃあ、わざわざ翼で飛ばなくても、たとえば小型の気球を背中に付けてみたり、あと、ほら! パラグライダーがあるじゃん!」


「気球は浮く。パラグライダーは滑空。わたしはあくまで飛びたいの。鳥のように飛ぶためには翼しかないでしょ?」


「トリのようにテ……」


「でも残念、さっきはうまくいかなかったな」


(そりゃそうだろうよ、あんなハリボテで空を飛べたら、鳥は大気圏を突破できるよ)


「その……ミナ。やっぱり無理じゃないか?」


「え? なにが?」


「オレ達には、色々と足りないものがあると思うんだ」


(もっと現実を見てくれ)


「そっか、そうだよね。わたしも足りないと思ってたんだ。気合が」


(精神論じゃねーよ!!)


「とりあえず、さっき飛べなかった最大の原因は……勢い」


(翼だよ! 疑いようもなくそのチャチな翼だよ!!)


「ってわけで、カズちゃんにも手伝ってもらおうかな」


「……何を」


「わたしを放り投げて」





(はい?)


 美菜は和樹の肩までよじ登った。


「お……重い……」


「しっかりお腹をつかんでね」


(あ……ミナの体柔らかい……。って、し、しっかりしろオレ)


「まずカズちゃんの走る勢い、次にカズちゃんがわたしを投げる勢い、さらにわたしがカズちゃんから飛びあがる勢い、その三段加速式に加え、高所からの離陸。完璧な作戦だね」


(どこも完璧じゃねーよ。しかも、それ以前に翼だろ!)


「いくよ、カズちゃん!」


(チクショー!! もうヤケだ!)


 和樹は駆けだし、勢いそのままに美菜の体を放り投げた。美菜の体は空中で弧を描きながら、地面に激突し、そのまま地面をしばし滑った。

 地面にうつぶせに倒れ込む美菜。


「そ……そのミナ……やっぱり……」


 美菜がガバッと起き上がった。


「あきらめるのはまだ早いよ、たった一回の失敗じゃあ。……もう一度行くよカズちゃん!」


(また投げるの!?)



 結局、和樹は暗くなるまで美菜を投げ続けた。


 暗くなったグラウンドで、土まみれの制服姿の美菜は重々しく口を開いた。


「やっぱりこれじゃダメか」


(もっと早く気付こうよ。その翼じゃ紙飛行機も飛ばないよ)


「カズちゃんの筋力を鍛えないと」


(そっちへ行ったか)


「明日からは筋トレだね!!」


(タスケテください)



 暗くなった帰り道を和樹は美菜と二人で歩いた。


(こ……このままじゃダメだ!! このままではオレも変人の道へと一直線だ。何としてもこの行為をやめさせないと……とはいえ『翼じゃ人は飛べねーよ』なんて言ったら、あんなに頑張ってる美菜を傷つけてしまう。やんわり気付かせてやるようにしないと……)


「……ミナ、翼を持ってる生き物を五つ上げてみてくれないか?」


「え、えーと、カラス、ハト、スズメ、ハクチョウ、インコ」


(分かってるじゃないか! 哺乳類は翼じゃ飛べないんだよ! 翼で飛ぶのは鳥類だけだ!)


「じゃあ、カラス、ハト、スズメ、ハクチョウ、インコ、この共通点は?」


「翼があること」


(ダメだ――――!! 遠まわしで言って通じる相手じゃない!)


「その……ミナ、人間が翼で空飛ぶって難しくないか?」


「難しいかなー?」


「ああ、99,9%無理だと思うぞ」


「それは大変、一〇〇〇回も挑戦しないといけないのか」


(ダメだ……手強い、最強の思考回路だ)


「なぁ……ミナ。一〇〇〇回って大変だぜ?」


「わたしは簡単にはあきらめないよ。飛行機を始めて飛ばしたライト兄弟だって何回も失敗したって言うしね! わたしは二十一世紀のライト兄弟なのですよ!」


(もし本当にそうだったらどんなにうれしいか。だって飛行機作るだけだろ。背中に翼は付けないだろ)


「……ミ、ミナ。オレの素直な感想を言うけど、翼は鳥を飛ばすものであって、人を飛ばすものじゃないと思うんだ。だから、翼なしで飛べる方法を探さないか?」


「分かった、そっちの方は任せるね」





(ボクは初日で心が折れそうです)



 和樹が入学して数週間が経った。

 すでに和樹は学校中の生徒から白い目で見られていた、毎日のように翼を付けた少女を投げ続けている生徒として。


 いつものように翼を付けた美菜と登校する。


(最悪だ……最悪過ぎる。結局この状況を打破することもできず……変人への道を一直線に突き進んでいる)


 美菜はニコニコと笑っている。


「よーし! 今日もがんばるぞー!」


 美菜は元気いっぱいな様子だった。


「カズちゃんがいてくれて良かった。こうして一緒に頑張れるし。ねえカズちゃん覚えてる?」


「なにを?」


 美菜は微笑みかけた。


「小さい頃、カズちゃんはいつも、引っ込み思案なわたしを引っ張っていってくれたんだよ。おかげでわたしは自分に自信が持てるようになったんだ」


(引っ込み思案のままの方が安全だったかもしれない……)


「でも、今のカズちゃんは昔ほど引っ張らなくなったよね」


(オレが積極的に空を飛ぼうとすると?)


「でも分かってる! カズちゃんは行動には出さないけど、心の中ではわたしを応援してくれてる。その気持ちがわたしを引っ張っていってくれてるんだ」


(オレの心の中を勝手に改造しないでくれ)


 こうして和樹のいつもの一日が始まった。


 放課後、和樹はいつものように美菜のクラスへと足を運ぶ。


(こうして自分からミナに会いに行くオレって…………まあ、前サボろうとしたらすごい勢いで追いかけてきたしなあ)


 教室に着くと美菜は一人の女友達と話していた。短めの髪の活発そうな女の子だ。


(普通に友達作ってる。まあいくら翼付けてる変人って言っても、あいつ、嫌みのない性格だからな。友達できてても不思議じゃないか)


「あっ、カズちゃん! ごめん、ちょっと話し込んでた」


「あーっ、噂の向井和樹くん」


 女友達が興味津々に和樹を見る。


「なんの噂?」


「ミナをしょっちゅうぶん投げてるって噂」


 和樹は死にそうになった。


「ごめん、カズちゃん。先にグランドに出ててくれる? ちょっと翼の整備したいから」


「あー、了解」


 和樹はそのままグラウンドに向かって歩き出すと、後ろから女友達が追いかけてきた。


「おっす」


「ああ」


「あたし日比野ヒビノ 沙織サオリ。あたしも部活なんだ。ソフトボール部」


(よりにもよってお隣さんですかい)


「しょっちゅうきみたちの活動を観察してるよ」


(観察ですか。珍しいですもんね)


「きみって、ミナの彼氏?」


(とりあえず翼を取ったあとに聞いて下さい)

「……いや、多分きっととりあえず違うという事にしといて下さい」


「なんですか、そのあやふやな答え方は」


「……なあ、日比野」


「なに?」


「飛ぶのに必要なのって何だと思う?」


「ジャンプ」





(いいオトモダチですね)




「見て、カズちゃん。わたしの翼!」


 グラウンドに立った美菜の翼はハリボテからリアルな翼へと変わっていた。


「ふっふっふっ、部活の時間に驚かそうと思って、朝は隠してたけど。見たまえ! この洗練されたデザイン! 前回の『天使の翼』から進化した『天使の翼グレートデラックスニュートンⅡ』だよ!!」


(『天使の翼Ⅱ』でよくないか? だいたいニュートンって名前からして落ちそうだし)


「前作は翼のはばたきが秒速一回だったけど、今回は秒速一〇回の高速はばたきが可能なんだよ!」


(それはもう鳥じゃなくてハチだろ)



 結局今日も和樹はグラウンドを滑る美菜の姿を拝むことになった。

 いつものと違ったところは、今まで気付かなかった沙織の視線を感じるようになったことと、高速で動く翼が地面に引っ掛かり、美菜の体が水揚げされた魚のようにピチピチ跳ねたことぐらいだった。



(もう限界だ!)


 帰り道、和樹はそう思った。


(状況を変えられないうえに、オレさえ完全に変人扱いだ。もうミナと縁を切るしか……)


「明日も頑張ろうね、カズちゃん。空を自由に飛ぶって夢が叶えば、わたしの二つの夢はもう叶ったも同然だよ」


 美菜はニッコリ笑いかけた。


「カズちゃんとはこうしていつも一緒にいるしね!」


(チクショ―!! こんなかわいい子にこんなこと言われて、縁なんか切れねーよ! ああ……こうして完全に状況に流されてる)

「なあミナ……もし『オレと結婚する』って夢と、『自由に空を飛ぶ』って夢に順位を付けるとしたら、どうなる?」


「もちろん『カズちゃんと結婚する』が一番だよ。次は『自由に空を飛ぶ』」


(こんなキュンとする言葉はないよ。背中に翼がなければね)


「じゃあ、もしオレが空を飛ぶことをあきらめないと死ぬって言ったらどうする?」


「空を飛ぶことが一番になっちゃうね」





(……アレ? オレの質問がおかしかったのかな)


「なあミナ。おまえがその翼を外す時ってどんなときなのかな」


「浮遊する魔法を修得した時かな」


(永遠に来ないということか)


「あれ……?」


 美菜が小さく声を漏らすと、突然フラフラとよろけて道路に手を付いた。


「お、おい、大丈夫か?」


「う、うん……大丈夫……ここ一週間ぐらい睡眠時間二、三時間ぐらいで……この新しい翼作るために頑張り過ぎちゃったみたい」


(なんだそのムダな頑張りは。でも仮にも一秒間に十回もはばたく翼だもんな、作るのだって楽じゃないか……)


 和樹は美菜の指を見た、一本一本の所々が擦り切れていた。


「あ、あんま無茶すんなよ」


「大丈夫、だって自分の夢だもん。明日こそは……」


 美菜はそう言って笑顔を見せて立ち上がった。


(こいつはホントに一途だよな……けど結局は変人扱いしかされてないんだよな。こんな変な事さえしてなきゃ、こいつは顔もいいし、性格もいいし、勉強もできるし、クラスの人気者になれたかもしれないのにな…………いくら頑張っても翼で飛ぶなんてとうてい無理だろうし、普通に生きた方がずっといいのにな……)




 翌日の放課後、和樹は今までにないほどの行動力を発揮した。

 学校にあるパソコンでネットを開き、図書館の本を読みあさり、必死になってあるものを探していた。


(もう十分わかった。人間は翼じゃ絶対に飛べない。その証拠となる情報をなんとか探り出してやる!! 科学的根拠でもいい。テレビの企画でもいい。なんでもいいからあいつを納得できる説得材料を!!)


 そんなとき、和樹は図書館で一つの本を見つけた。『鳥の翼』と書かれた本だった。その本の内容を見た途端、


(これだ!!)


 と和樹は思った。

 和樹はそのまま本を持って美菜のいるグラウンドへと走った。


「カズちゃん遅いよ! 遅刻だよ!」


 美菜はプンプン怒ってた。


「悪い、それよりミナ。重要なことがわかったんだ。これを見てくれ」


 和樹は本を広げる。


「これは鳥の体重と翼の大きさを比較した図なんだけど」


「ん……これが何?」


「よく見てくれ、たとえばなスズメの体重は50g、対して翼は30cm ワシの体重は1kg、対して翼は1m50、体重と翼の大きさの関係はほぼきれいに比例するんだ。この法則に当てはめると、ミナの体重を45キロとすると」


「失礼な45キロもないよ!!」


「じゃあ仮に、仮にも、多めに見積もって45キロとすると、翼の大きさは片翼40m必要って結果になるんだ」


「40m……」


 和樹は静かに美菜を見つめた。


「これが何を意味してるか……分かるか?」


「……ダイエットしろと?」





(やっぱりダメでした……)


「……でも、確かに翼だと難易度が高いっていう気はしてるんだよね」


(な、なに!!? まさか……)


「翼以外の手も一応考えてあるんだ」


(まさかのミラクル!?)


「でもそれにはあるものが必要で……でもわたしの力じゃ手にいれにくいんだ。でもカズちゃんなら……」


「オ、オレにできることなら何でも協力するぞ! 何だよ必要なものって!」


「プルトニウム」


「悪い、他を当たってくれ」




 そして今日も和樹は美菜をぶん投げた。




 帰り道、美菜は和樹に笑いかけた。


「ねえ、カズちゃん。もうすぐカズちゃんの誕生日だよね。何か欲しいものってある?」


 和樹は暗い顔で美菜を見た。


「欲しいもの……か」


「わたしが用意できる範囲のものだったら出来るだけがんばるよ!」


「別に物じゃなくていいんだ……」


 和樹は美菜を見つめた。


「その翼を取ってくれれば」


「分かった。じゃあ新しい翼を作らなきゃ」




 こうしてまた一日が終わった。



 それから数週間後……


 和樹と美菜はいつものようにグラウンドの端に立っていた。


「えー、早いもので我々『空飛ぶ人間部』も一〇〇回目の活動となりました。悲しいことにいまだに自由に飛ぶことは出来ていません。せいぜい最高で20mの飛行までです」


(台風の日にな)


「けれど! 今日の活動で我々は人類の歴史に残る偉業を成し遂げると確信しています。この『天使の翼グレートデラックスニュートンⅢ』によって!!!」


 美菜の背中にはさらにリアルさを増した巨大な翼がついていた。


「見たまえ、この洗礼されたデザイン! そして空気抵抗を生む絶妙な曲線! 十分の一ミリまで計算された本物の翼を意識した超繊維構造! ここまできたかというほどの人口翼の完成です!!」


(テレビの通販みたいだな)



「ミナさん、一つ提案してもいいですか?」


「なにかね、カズキくん」


「この翼の完成度を見ても、オレたちの活動は行きつくところまで行ったと思うんです。今回の自信も踏まえて、これを最後のチャンスにしてみてはどうでしょうか?」


「………………」


 美菜は少しのあいだ黙った。


「カズちゃんはそれでいいの?」


「ミナはよくがんばったと思うよ。そろそろ休んでもいいんじゃないかな?」


「…………分かった」


 美菜はうつむく。


「約束する……これが最後の挑戦にするって。その代わり、カズちゃんも約束して……」


「なにをだい?」


「わたしが夢をあきらめたとき、あなたが夢を引き継ぐって」


「ごめん、やっぱ無しで」





(さーて……いつもどおり活動を始めるか)


「よし、と。今回は一〇〇回目ということで気合の入り方も少し違います」


 美菜の前方には跳び箱の踏み切り台が設置されていた。


「その踏み切り台、どうしたんだよ。まさか無断で……」


「当然先生からの許可を得たよ」


(よく許可してくれたな。まあ、これだけがんばってれば教師も少しは応援してくれるってことか……)


「いい風吹いてる……最高のコンディションだね」


 美菜はそのまま目を閉じて直立したまま制止した。


「美菜……何してんだ?」


「強い風を待ってるの……」


 美菜はそのまましばらくのあいだ銅像のように固まっていた。

 少し離れたところで部活中の沙織が手を振っていたが、美菜は気付かない。代わりに和樹が手を振って答える。

 静止している美菜を、和樹はリラックスモードで座りながら見守る。


 風によって校舎から鈍い音が鳴り響いた、その直後、美菜は目を開き、勢いよく走りだした。

 美菜の体は一気に加速して、勢いそのままに踏み切り台を蹴った。


「てあー!」


 強風が美菜の体にぶつかった。

 和樹は思わず立ち上がる。

 美菜の体は風と共に流れていた。


(飛んだ!! ……というよりむしろ風に飛ばされてる)


 和樹はあきれた様子で見ていたが、すぐにハッとなった。

 飛ばされた美菜の体はそのまま隣のソフトボール部の方へと流されていった。

 美菜の飛ばされた方向には沙織が立っていた。


「危ない!!」


 和樹が叫んだ時にはもう遅かった、美菜の体は沙織と激突し、二人とも地面に勢いよく倒れこんだ。


「お、おい、大丈夫か!」


 和樹はすぐに駆け寄った。美菜の体には傷はなかった。もう慣れたものでうまく受け身をとっていた。しかし、沙織の方は……。


「いたッ……」


「沙織!」


 美菜が大きな叫んだ。

 沙織の膝がすりむけてえぐれていた。血で真っ赤に染まっている。

 それを見た和樹もその状況に顔がこわばった。


 足を押さえながら痛みで顔を歪める沙織。その姿を、美菜は呆然とした様子で見ていた。



 すぐに和樹たちとソフト部の部員数人で沙織を保健室へ連れていった。

 沙織の怪我は大体全治二週間ほどのものだった。


「悪かったな、日比野」


 保健室を出てすぐに、和樹は沙織に謝った。


「大丈夫大丈夫、大したことないって」


 沙織は笑いながら言った。


「ごめんね……サオリ」


 美菜も小さな声で辛そうに謝った。


「あんまり気にしなくっていいよ。ただの事故だし」



 沙織は足を引きずりながら二人の前から立ち去っていった。


 美菜は少しの間、保健室の前で立ち止まっていた。


「ミナ……行こう」


 和樹がそう言い出すまで、美菜は動かなかった。



 この日、二人はまだ明るいうちに学校を後にした。


 帰り道、美菜にいつもの元気はなかった。


「日比野には悪いことしちまったな」


「……うん」


「今度何か埋め合わせしないとな」


「……うん」


「ま……まあ、あんまり気にすんなよ。風の強い日ってのは、よく事故が起こるもんだし」


「……うん」


 美菜はずっとうつむいている。


(こりゃあ相当まいってるな……)


 その時だった。

 美菜は突然足を止めた。和樹も驚いて足を止める。


「ミナ……?」


 美菜は答えなかった。

 黙ったまま美菜はずっとうつむいていた。


「どうした、大丈夫か?」


 和樹が呼びかける中、美菜は静かに口を開いた。


「わたし……飛ぶの、もうあきらめようかな」


 突然の美菜の言葉に和樹は驚いた。


「……ホントはね、分かってるんだ。人が自由に空を飛ぶなんて、難しいって……」


 美菜の声はわずかに震えていた。


「だけど、それでも、それがわたしの小さい頃からの夢だったから」


「ミナ……」


「だけど……こんなバカバカしいことで……」


 美菜の目から涙がこぼれた。


「友達に怪我させて…………」


 ゆっくりと腕で涙をぬぐった。


「カズちゃんも迷惑でしょ? こんなことに付き合わされて……」


 和樹は思わず黙った。

 美菜の目からまた涙がこぼれる。


 強い風の音だけがしばらく辺りに響いた。




(…………もし、オレがこの場で、今のミナの言葉を後押しするような一言をいえば、それで多分、ミナはもう飛ぶことをやめる。『もうあきらめよう、やめた方がいい』って一言いえば、ミナはきっとあきらめる)


 美菜は黙ってその場で泣いていた。


(一言いえばいい。ずっと待ってたチャンスじゃないか……)


 美菜の目から涙がこぼれ落ちた。


(一言いえば、オレがずっと望んでいた結果になる。…………たった一言で済むんだ)


 和樹は静かに口を開いた。


「ミナ……」


 和樹は美菜の腕をつかんだ。


「行くぞ」


「え……?」


 和樹は美菜の腕を引いて駆け出した。


「カ……カズちゃん!?」


 戸惑う美菜を無視して、和樹は腕を引いてひたすら道路を走った。通学路を外れ、山道に入る。

 美菜はもう泣くどころではなかった、和樹の行動に混乱しながら、なんとかついていく。

 二人は息を切らしながら必死で走った。



 二人は肩で息をしながら、木々の間にある崖に面した見晴らし台に立っていた。


「カ、カズちゃん……走らせすぎ……」


「ワリィ……」


 崖のすぐ下には森が広がる。その先には町が見え、さらに先には青い海が広がっていた。

 しかし二人はその美しい景色には目もくれず、上を向いていた。

 青い空が輝いている。


「雲が速く流れてる……」


 美菜は青空に魅入っていた。


「初めておまえの夢を聞いたのが、この場所だったな」


「……うん」


 二人は崖の前に立ち、開けた視界のなかで、どこまでも広がる空を見上げていた。


「おまえと再会して、おまえがまだその夢を持ってるって聞いた時、オレ正直すげー混乱したよ」


 和樹は空を見つめながら言った。


「実を言うとな、オレ、人が自由に空を飛ぶなんて、バカバカしいって思ってる。本当はとっととあきらめちまえばいいって思ってた。そうすれば俺は変人扱いされなかったし、おまえだって、変人扱いなんかされなかった」


 風の音と和樹の声だけが響いていた。


「けど、それでも、おまえはいつも……いつも、全力だった。一生懸命だった。そんなおまえは……なんていうか……その…………」


 和樹は空から美菜に視線を移した。


「すげー楽しそうで……ものすげー輝いてた」


 それを聞いて美菜は和樹の方を向いた。


「そんなおまえ見てたらさ、なんか、そんなバカバカしいことでも、できんじゃねーかな、なんて思えちまうんだ。だから、あきらめんなよ、ミナ」


「カズちゃん……」


 美菜は和樹をじっと見つめた。

 和樹も美菜を見つめた。


「何があっても、オレは、おまえの隣にいるから」


 美菜の目から涙がこぼれた。


「…………うん」


 ポロポロと涙を流す美菜。


「……うん……うん」


 美菜は何度も何度もうなずいた。


 しばらくのあいだ、美菜はずっと、うなずいていた。



 幼いころ、夢を語ったこの場所で、二人は静かに向かい合っていた。






 少し落ち着いた美菜が笑いかけてきたのを見て、和樹も安心して笑みを浮かべた、その時だった。強い風が二人に向かって飛んできた。


「あ……!!」


 和樹の体はバランスを崩し、足元の落ち葉が滑った。体はそのまま、崖へと流れ、眼下の森へ向かってあっという間に投げ出された。


(あ…………ヤバい。死んだ)


 和樹は思わず目をつぶった。


(告白して…………いきなりかよ)



 和樹が静かに自らの死を悟った時だった。

 暖かさを感じた。どこか安心する、ぬくもりのような暖かさが、ゆっくりと自分を包み込むのを感じた。


(ここは……天国か? ……いや)


 和樹は目を開けた。すぐに、美菜の姿が目に飛び込んだ。そして気づいた。自分の体が浮いていることに。

 美菜の体は和樹を抱きかかえたまま、鳥のように飛んでいた。背中の白い翼は白鳥のように羽ばたきながら、風に乗っていた。


「オレたち……飛んでる?」


「うん……飛んでるよ! わたしたち、鳥みたいに飛んでる!!」


 翼の動きと共に、二人の体は浮きあがり、先ほどまでいた見晴らし台の上空まで上がっていった。風に乗り、見晴らし台を見下ろしながらゆっくりと旋回する。

 翼の羽ばたきと共に、二人の体は、鳥のように滑らかに飛んでいた。

 突然、翼の片方がバキンと折れた。


「え!?」


 二人は見晴らし台に勢いよく落下した。幸いにも落ち葉がクッションとなり、下にいた和樹は無事だった。


「いててててて」


「大丈夫!? カズちゃん」


「な……なんとか」


 二人は体を起こした。

 まるで夢から覚めたように、二人はしばらくボーっとしていた。

 そんな中、和樹は思わず笑い出す。それを見て、美菜も笑い出した。

 二人は声を上げて笑った。

 大きな声で思いっきり笑った。




(これはただの偶然だったのかもしれない。吹き上がった風でビニール袋が宙を舞うみたいに、たまたま強風に持ち上げられただけだったかもしれない。けどその偶然は、あいつが作り上げた翼がなければ起きなかった。あいつが起こした偶然なんだ)








 数週間後のグラウンド。


「見たまえ! これが『天使の翼グレートデラックスニュートンⅣ』である!」


 美菜は元気に新調の翼を見せる。

 和樹は指先で小さく拍手した。


「前回の翼は空さえ飛んだものの、まだ不完全、自由自在に飛ぶことも出来なかったし、その上折れたし。完成の道のりはまだまだ遠いいのです!! けれど諸君! わたしは確信しているのです。人が自由に飛ぶ日はもう間近に迫っていると!!」


(間近なのか、遠いのかはっきりしろよ)

「……で、今日はどのような作戦で?」


「よくぞ聞いてくれました、見たまえ! これを!!」


 巨大な平たい台の付いた自転車が置いてある。


「わたしは思うのです。飛ぶためにはやはり助走が大切だと、わたしがこの台にうつぶせに乗ります。カズちゃんは全力でこいでください」


「へーい」


「大丈夫!! 必ず成功する。わたしはそう確信しています!!」


 美菜は満面の笑みを見せた。


「二人の力が合わされば、必ず」






 美菜を乗せた自転車をこぎながら、和樹は物思いにふけっていた。


(結局、オレがあいつの第一の協力者になってしまった。当初の目的とはまさに真逆だ…………)


 和樹はため息をついた。


(でも、ま……いっか)







この作品を読んでいただきありがとうございました。


さて……初めてこういうのを書いたんですが、今までの作品の中ではかなり吹っ飛んだ部類になると思います。

強烈にスベったかもしれませんが、楽しんでいただけたのなら幸いということになります。


では、機会があればまた別の作品で。

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