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大赦
――湍水の荒から十余年。
四方へ奔る街道を青年が一人、西へ向かっていた。左足を引きずりながらも、慣れた様子で道を歩く。胸には一枚の書状を携え、その顔には心が躍っているのを隠しきれずに笑みが浮かんでいる。その青年に、二人の旅人が並ぶ。男とそれに従う少年。
「お一人で旅を?」
男の方に尋ねられて、青年は頷いた。
「ええ。でも、これは僕にしかできない旅です。これで僕の大事な人は救われる」
透けて見えるのは四獣、天の印とただ二つの文字。大赦、と。
「どちらへ向かわれます」
「河伯の渡へ」
青年が答えると、男は成程、と言った顔で頷いた。
「ご一緒しよう」
「でも、僕の脚はこの通りですから。お先へどうぞ」
「いえ、私にはその書の行方を見守る義務がある」
その答えに驚きながらも、旅人の青い巻き布を見て、青年は頷いて返した。
見えてきた湍水は、変わらず荒く白く、人を寄せぬように逆巻いている。旅人と分かれ、渡の近くまで来た青年は水の向こうに向かって変わらぬ笑みを浮かべた。
「――ただいま。おじちゃん」
青年の声に、波間の青磁色が応えるように輝いた。




