湍水の荒
四神獣記の外伝です。凶荒に見舞われた白の国、湍水の渡し場での話。
中つ国には二本の大河がある。共に天の膝元から流れるそれは、一方を紆水といい、一方を湍水といった。北東へ緩やかに蛇行しながら流れる紆水はその地に豊穣をもたらしてきた生の流れだ。紆水流域で取れる作物は広く国にわたり、人々はその流れに日々感謝を述べて生活してきた。
対して南西へと流れる湍水は、その地の生を扼する荒れ河だ。時折、大きくその水量を増やしては、流域の村や田畑を押し流していく。下流までずっと滝のように流れるその河は、水底に大きな岩を隠しているため、船を渡そうにもその難所を渡せる人間がいない。流域の里は物や人の足ばかりが離れて、ここ数年ますます荒れる湍水がそこを飲み込もうとしていた。
原因は明白。西の王と神獣が揃って死んだからだ。
四百代目を数えようかという西の、白の国の王が崩御し、次の王を定めるはずの神獣がそれを追った。天地の理を整える、天の力を司る神獣と、それをもとに治を行う王を西は一度に失った。王だけならまだしも、神獣を失ったのが痛かった。
おかげで地の気が荒れ、蝗害や山の崩落が立て続き、国中で数え切れないほどの死者が出た。そして、他に漏れず荒れたのが湍水だ。底が透けるほど水位が大きく下がったかと思えば、軽い雨でも簡単に鉄砲水が起こる。雨が続けば川幅は倍以上にもなり、そうなると人々は夜眠ることすらできなかった。
いよいよもって追いつめられる流域の里に一匹の水妖が住んでいた。人はその獣を河伯と呼び、あるものは侮蔑し、またあるものは畏怖した。この話は、その妖獣と湍水の荒の話だ。




