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BLOODY CHAIN Ⅰ  作者:
第二章 死者の残影
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18 恋の魔法

 リリアは走っていた。

 自分が今城のどこを走っているかは分からない。

 それでも、全力で走り続ける。

 目的がある訳ではない。ただ、じっとしていられなかった。

 ルミネスの言葉が引き金となって、リリアの心の中は今や、轟々と音を立てて吹き荒れている。

(お父様は、私のお父様だわ)

 ルミネスの言っていたことは否定できない。

 確かに自分は、ここ最近父とサントが親しくしていると聞く度に、面白くないと感じた。

 ヤキモチを焼いていたと言われればそうなのかもしれない。

 けれど、本当は自分の父が自分の知らない遠いところへ行ってしまわれるようで、ただ、怖かったのだ。

 ――お父様をられてしまう

(いやだいやだいやだ)

 幼稚な癇癪(かんしゃく)を起こした自覚はあったが、それを反省する気にはさらさらなれなかった。

 もやもやと胸の内に(わだかま)る、漠然とした不安。

 そして、リリアは何故か思い出していた。

 北塔最上階の図書館の露台から、遥か遠くを見つめていた父の後ろ姿と、その背をただ見つめる、母の眼差しを。

 背後を見守る母に気付かず、決して振り返ることのなかった父が、いったい何を見ているのか、不思議に思うと同時に幼心(おさなごころ)に不安だった。

 そして、(まぶた)の裏に焼きついている、もう一つの光景。

 露台の手すりに手を並べながら、遥か山の頂を見据えていた黒衣の人物と、彼を見つめる、父の横顔。


 どくん。


 心臓がいやな音を立てる。

 父の背をいつまでも見つめていた母。

 決して振り返らず、独り、遠くを見つめる父。

 そして、いつの間にか父の隣に佇んでいた黒衣の人影と、彼を見つめる父の横顔。

 それらの映像がリリアの頭の中でぐるぐると渦を巻き、記憶の淵から暗闇の中に葬られる母の姿が浮かび上がった。

『やめて! そんなところにお母様を閉じ込めないで! お母様がかわいそう!!』

 硬く狭い石棺(せっかん)に納められようとしている母を見て、リリアは半狂乱になってそう叫んだ。

 大好きだった母が自分と引き離されようとしているということを、急激に実感した。

 冷たく分厚い(ふた)に閉ざされて、二度と母は自分のいる世界に戻ってこれなくなると……。

 目を閉じる母の顔は本当にただ眠っているだけのようで、それが二度と開かれることのないものだと分かっていても、もし母が目覚めて自分だけ暗くて狭い冷たい石の中に閉じ込められていると知ったらどんなに恐ろしいだろう、どんなに自分と父に会いたいと思うだろうと、そう想像するだけで、胸が重たく潰れるようで、苦しくて悲しくて我慢ができなかった。

 そんな自分を後ろから抱き竦めてくる太い腕の感触を、リリアは覚えている。

 泣きじゃくる自分に父の声が言った。

『リリア、お母様を眠らせてあげよう。ステラは私達より先にお迎えが来たんだよ。だから行ってしまった。私達はステラのためにも、生きなくてはならない。お前がそんなでは、お母様は心配でゆっくり休めないだろう? お母様はいつだってお前のそばにいるよ。体から解き放たれて自由になった心は、ずっとお前と一緒だ』

 耳元にささやかれる声は、優しく(さと)す風で……、

『それに、お前にはお父様がいるだろう? (さび)しい思いなんてさせないよ。絶対独りきりになんてさせないから、今は私の胸で泣きなさい』

 そして、大きく広いその胸の中に、リリアは不安も恐怖も、全てを(ゆだ)ねて泣いたのだ。


(お母様は、連れて行かれてしまったわ。黒い、死神に……)

 そして今、いつだって自分のために大きな胸を貸してくれた父までもが連れて行かれてしまうような気がしていた。

 あの黒衣を(まと)った、まるで死神のような、あの人物に……。

 母は、振り返らない父の背に声をかけることなく、その後ろ姿を見つめるばかりのまま死んだ。

 それ以来、父は独り遠くを見つめることをしなくなった。

 だが、あの黒衣の人物が現れてから、父は再びあの図書館の露台へと足を運び、そして、母でさえ近寄ることができなかったその隣に、黒い死神のような、あの人が立っていた。


 ――私から母を奪っておいて、父までも奪い取ろうとするのか


 そんな、どうしようもない感情がリリアの中で渦を巻いていた。

 心の中は、ひどい荒れ模様で、憤りにも近い感情が(うな)りを上げて荒れ狂っている。

 横なぎに叩き付けられる土砂降りの雨粒は喪失の恐怖の冷たさをもって、リリアの心をぐちゃぐちゃにしていた。

 冷静な理性は怒涛のごとく押し流される。

 そんな心象に突き動かされて、リリアはがむしゃらに走っていた。

 ろくに前を見ることもせずに。

 だから、突然目の前が暗くなったことにも、当然彼女は気付かなかった。ドンッ!! と正面衝突したのが、硬い壁でなかったのが彼女の救いだ。


「きゃあ!!?」


 何が起こったのかも分からず、ただその衝撃に悲鳴を上げた。

「――リリア様っ!?」

 何か堅いものに弾き飛ばされ、あわや尻餅をつくかという時、とっさに大きな手がリリアの手首をつかんだ。

 と、同時に今度は強い力で前方に引っ張られる。

 気がついた時には分厚い肩が目の前にあり、リリアには何が起こったのかが分からなかった。

 耳の近くでフーとほっとしたような吐息が落とされた。

 がっしりとその腰に腕を回され体の自由を奪われた状態で、視線だけをずらせば、自分の頬に柔らかい髪が触れているのが分かる。

 それは太陽の祝福を受けた、輝くような黄金(こがね)色を宿していた。


 ――ドックン


 リリアの胸が大きく跳ねた。

(ま、まさか……)

 この時彼女の心の中は、あまりの衝撃に全てが静止していた。

 (たけ)る暴風雨も唸る竜巻もその猛威を振るうことなくきれいにその活動を停止している。

「大丈夫ですか? リリア様」

 この、相手を気遣う優しい響きには覚えがある。

 リリアにはその表情までが鮮明に思い描けた。

 きっと、少し困った顔をしながら心配そうに自分を見下ろしているにちがいない。

 果たして、密着した体をゆっくりと離され互いの顔を見合わせた時、頭の中に描いたものと寸分違わぬ、彼の、眉尻を下げた顔があった。

「……ジュリア…さま……」

「……どうなされたんですか?」

 リリアのその顔を見たジュリアはつい眉をひそめた。

 いつもはくるくるとカールして整えられた柔らかい髪が、ぼさぼさに乱れ、汗がにじんであちらこちらでくたびれている。細い腕は小刻みに震えていたし、その瞳は不安げに揺れていた。

 何より、いつだって明るかった表情が、今は沈みきっている。

 一方、ジュリアの澄んだ青色の中に、己の暗い顔を見つけたリリアはとっさにその胸に自分の額を押し付けた。

 こんな姿は見られたくないと思った。

 鏡に映すまでもなく、今の自分がひどい有様なのは分かっている。

 大災害が去った後の街のように、何もかもがめちゃくちゃだ。

 鳴りをひそめた雨風は、リリアに安息よりも疲労感を与えた。

 荒れ果てた心の修復には時間がかかる。今はただ、こうしてこの胸の中にもたれていたかった。

 しがみついてきた王女に、ジュリアは困惑したが、自分の服をつかむ小さな手が震えているのに気がつき、そっと、その背をなでた。

「リリア様?」

 ゆっくり優しく、手の平を往復させながら、その耳元にささやく。

 背中に感じる温かいその感触に、リリアは次第に気持ちが落ち着いていくのを感じた。

(……父様、みたい)

 父はよく、泣いていた自分をその胸の中に迎え入れてはあやすように背中をさすってくれたのだ。

 そっと、くっつけていた額を離して相手の顔色を(うかが)うと、ジュリアは幼子を安心させるかのように優しく微笑む。

 じわり、と熱いモノがこみ上げてくるのを、リリアは感じた。

(やだ……、泣いちゃう)

 慌てて、再びその顔を戻すと、クスリと頭上で彼の笑い声が聞こえた。

(呆れられちゃったかも……)

 小さな子供みたいな自分の振る舞いにジュリアは辟易(へきえき)しているかもしれないと思うと、もう顔が上げられそうになかった。

 冷静に考えてみれば今自分は結構大胆なことをしているのではないか? という思考が、ようやくリリアにも戻ってきて、途端に羞恥で顔が染まる。

 だが、それでも、この手を離したいとは思わなかった。

 それどころか益々強く彼の制服を握り締める。

 そして、そんな彼女を見下ろすと、ジュリアはその背をポンポンと二回優しく叩いてから、無言でリリアの膝の裏を(すく)い上げた。

 突然の浮遊感にリリアは驚きの声を上げる。

「――ジュ、ジュリア様?」

 己を横抱きに抱き上げた青年の顔を恐る恐ると見上げると、

「ここでは少々(さわ)りがありましょう。姫様は足を痛めてしまったようですし、臣めが静かに休めるところまで運びますので」

 片目を閉じてして言われたその台詞に、ボンと頭から湯気が出そうな勢いでリリアは顔を真っ赤にした。

「わ、私、大丈夫よ。一人で歩けますっ」

 あんまり自分がくっついたまま立とうとしなかったものだから、誤解されたのかもしれないと、慌てて言ったリリアだったが、

「分かってます」

 そう柔らかに返されて、え、とジュリアの顔を見返した。

 すると彼は、リリアを抱えたまま人差し指を鼻の前に持っていって目配せをする。

「そういうことにしておいてくださいね。そうでないと、示しがつきませんから」

 小声で言われたその台詞に、彼の意図を覚ったリリアは虚を()かれた。

 確かに、王女であるリリアを馴れ馴れしく横抱きにして運ぶなど、足に怪我を負ったという言い訳でもなければ、そうそうできることではないだろう。当のジュリアが一番そういう所にうるさそうな人間だ。だから、リリアは驚いた。

 本当に足に怪我でもしない限り、彼はこのようなことはしない人間だと思っていたからだ。彼の親友である男ならともかく……。

(きっと、あたしの様子がいつもと違うから……)

 足ではなくその心が傷ついているのを察したのだろう。

(ジュリア様は優しい人だもの……)

 また涙が零れそうになって、リリアはそっとその顔をジュリアの胸に埋めた。


 心臓の音が聞こえる。

 とくんとくんと、一定のリズムを奏でるその音に、リリアは不思議なくらい安らぎを感じていた。

 目を閉じてその音に耳を澄ましていると、ジュリアが自分を気遣ってゆっくり歩みを進めてくれているのが分かる。

 淀みなく単調に進む足音と、衣擦れの音、彼の吐息、心臓の音。

 頬をくっつけた部分からダイレクトに伝わってくるそれらの温度が、愛しくてたまらない。

「もう少し我慢してくださいね」

 心音と共にその声を聞きとり、リリアが顔を上げた時、そこは宮城の外苑(がいえん)の一つに当たる花蝶苑かちょうえんだった。

 暖かい陽射しと、豪華な大輪を咲かせるメイルスカーレット。

 そしてその周りを浮遊する取り取りの胡蝶(こちょう)達。

 ジュリアは木陰のベンチまで足を進めると、そっとそこにリリアを下ろした。

 失礼します、と腰を下ろしたリリアの前で膝を着くと、その細い足首に手を伸ばす。

「じゅ、ジュリア様?」

「痛むところはありませんか?」

「だ、大丈夫です」

「よかった」

 ほっとしたように言うと、その手を離し、顔を見上げてにこりと笑った。

 それを上から直視してしまったリリアは、ああ、反則だわと思った。

 そこが薄暗い木陰だったのが幸いした。そうでなかったら、そこかしこに咲き乱れている百花の王達よりも赤く染まっている自分の顔がはっきりと見えてしまったに違いない。

「そんなところで(ひざまず)いていないで、ここに座ったらどうです?」

 下からじっと見上げられたままでは心臓に悪い。それに、こうでも言わないと彼はずっとそこで膝を折り続けるのだろう。

「しかし……」

「王女の私が構わないと言っているのよ?」

 分かりやすく肩を怒らせて自信ありげに笑ってみせたリリアに、ジュリアは目元を(なご)ませた。リリアのそれは彼の主がする仕草によく似ていた。

「……それでは、お言葉に甘えましょう」

 失礼します、とそう言うと、ジュリアはリリアの横に腰を下ろした。

 緑陰(りょくいん)を通る涼しい風が、二人を冷やかしていく。

「気持ちいい……」

「ええ」

 さわさわと葉が揺れた。

 しばらくはただ静かにその木の葉の揺れる音に耳を澄ましていた二人だったが、

「侍女とケンカでもしましたか?」

 何気なく尋ねられたそれにリリアはビクリとした。

「……何で」

「試しに言ってみただけだったんですが、当たらずとも遠からず…みたいですね」

 ジュリアの言葉にリリアは目をしばたたかせた。

「……ジュリア様はすごいのね。心が読めるみたい」

「貴女のお父様には敵わないと思いますが……」

「お父様は人をよく見るもの。昔は私も魔法使いかなんかじゃないかと思ったけれど。お母様は、『お父様は人を愛しているからよ』って言っていらしたわ…。――幼い頃はその意味がよく分からなかったけど、今なら少し分かる気がするの。きっと、お父様は愛しているから、その人の心に触れてそれを感じることができるのね。心の機微を見落とさないの。愛していなかったら、その人の心に触れてみたいとは思わないもの」

 その横顔を見たジュリアに、リリアは笑ってみせた。

「ジュリア様はお父様に似ているわ」

 ジュリアは瞠目して、慌てて手と首を同時に振る。

「とんでもありません。私などが、陛下に似ているなど……」

「似ているわ。優しいところが、そっくりだもの」

 ジュリアの慌てた様がよほどおかしかったのか、くすくすと忍び笑いを漏らすリリアに、ジュリアは困ったように控えめに笑うと、よかったと一言呟いた。

「何?」

「いつものリリア様に戻られたようで……」

 微笑して言われたそれに、リリアははっとした。

 確かに、いつの間にか胸の中のもやもやが消えている。

 荒れ果てていた空が青く澄み切って、晴れ渡った心に鮮やかな虹の橋まで架かっているような気分だった。

 さっきまでは真っ暗闇の中で冷たく荒んでいたのに、今はこうして彼と話しているのが、嬉しいと感じている。

(すごいわ……さっきまであんなにいやな気分でいっぱいだったのに……)

 そんなリリアにジュリアは言う。

「ですが、リリア様、あのように前も見ずに廊下を疾走するのは危険ですからもうしないで下さいね。幸い、今回はどこも痛めていないようですが…。――貴女の体は貴女だけのものではないのですから」

「え?」

 その時、遠くから二人を呼ぶ声がした。

「おーい、姫様ー、ジュリアー」

 二人の元へのっしのっしと歩いてきたのは、大剣担いだバルトーク=ザナス将軍だ。

「探したぞ、ジュリア。いつまでたっても来ないから、珍しいなとは思っていたが。やっぱり姫様に捕まっとったか」

「申し訳ありませんでした、ザナス大将殿」

 ジュリアは即座に立って頭を下げた。

 言い訳もせずにまず謝罪する律儀な彼に、バルトークは苦笑しながら構わん構わんと、鷹揚(おうよう)に手を振って返す。時間に正確な彼が、時間通りに現れない理由は大抵決まっているのだ。

「バルじいったら、〝やっぱり〟て何よ」

 リリアは若干不満そうに口を尖らせた。

「二人きりのところ、邪魔をして申し訳ありませんでした。ですが、私は姫様の〝じい〟ですから」

 にこにこといつもより三割り増しに機嫌のいいザナス将軍を見て、ジュリアも苦笑した。

 どちらかというと強面(こわもて)の彼がこんな風に笑うと、途端に愛嬌がにじみ出てくる。

 天下のザナス将軍がこんな上機嫌な顔を見せるのは、彼の愛妻か、マダリアの花とされるこの王女に対してだけだった。

 三十六の働き盛りの壮年男子が、〝バルじい〟呼ばわりされてなお嫌がるどころか嬉しそうにしているのは、やはり、じじ馬鹿と言えるのかもしれない。

 それというのも、その昔バルトークが幼い王女の遊び相手だったことに由来する。

 当時、彼は国王の親衛隊員として始終君側に侍していたために、何かと幼い王女に接する機会が多かった。そして歩く物見(ものみ)(やぐら)と言われていた大男のバルトークは小さな王女の〝お気に入り〟だったのだ。

 高々一メートルの景色しか知らなかった子供には、二メートル二十センチの彼に肩車され、世界が全く違って見えることが楽しくて仕方なかった。更に、丸太のような首にぶら下がったり、山頂のような頭の上に乗っかったり、大木のような脚に抱きついてよじ登ったりと、まるで人間アスレチックなバルトークにリリアは大はしゃぎだった。

 バルトークは当時まだ二十代の若者だったが、その頃彼は顔中にスチールウールのようにもじゃもじゃした髭を生やしていたために実年齢よりずっと老けて見えた。

 そして六歳の子供にとっては老爺=髭だった。

 しかも、彼の訛り言葉は、老人訛りと大差がない。

 そんな訳で、幼い王女の目には、バルトークは〝おじいちゃん〟と認識されていたのだ。

 バルトークはその容姿から子供に好かれることなど皆無に等しかったので、髭を引っ張られようが頭上から髪を引っ張られようが、〝おじいちゃん〟呼ばわりされようが、喜んでそれに従った。

『さすが陛下の御子じゃ。物怖じするということを知らん』

 当時、彼はリリアのことをそう評している。

 今でさえバルトークが近づいてくるだけで萎縮(いしゅく)してしまう成人騎士は多いのだから、リリアの胆力はやはり並じゃなかったと言っていいだろう。

 小さい女の子に容貌(ようぼう)魁偉(かいい)としたバルトークが髭を引っ張られて「イタイイタイ」と小さい悲鳴を上げている様は滑稽であると同時に微笑ましくもあり、よく「美少女と野獣だ」と周囲からからかわれていたが、それ以来、外見で誤解されがちだったバルトークは、「よく見れば愛嬌のある顔だ」とそれ迄遠巻きにされていた者達からも自然と親しまれるようになった。バルトークはそれをリリアのおかげだと思っている。

 だから、たとえ〝バルじい〟呼ばわりされようが、嬉しいと感じることはあっても、不満になど思わないのだ。

 成長したリリアも、まだ三十代の彼を〝バルじい〟と呼ぶのは間違っていると認識しているのだが、幼い頃から親しんだ呼び名であり、当のバルトークがその呼称に何ら不満を抱いておらずむしろ喜んでいる節もあったので、そのままになっていた。さすがに公の場所では控えるが、彼女の中ではもっぱら天下のザナス将軍は〝バルじい〟なのである。

「そういえば、姫様。若い侍女がさっき、必死になって貴女を探していましたよ」

「え?」

 その時、またもやリリアの疑問の声を遮る声が入った。

外苑【がいえん】…外側に付設する広い庭園。

容貌魁偉【ようぼうかいい】…顔や体が人並みはずれて大きく、立派なようす。

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