02 王城での日常・前編
「それで、ドリスは今頃トイレ掃除か?」
「ええ」
いつかと同じ空中庭園、王の前にジュリアは跪いていた。
頭の上からくつくつと笑う王の声が降ってくる。
「お前にしては随分譲歩したな。しかし、あやつがおとなしく従ったままでいるとも思えんが」
「その時は、今一度王騎士の何たるかを彼の脳髄に刻み込む必要があるかと」
「……なるほど。最初からそちらが狙いか。従わぬのならそれはそれでよい、と?」
『――そのだらしない頭を髪の毛一本残らず剃り上げて、軍紀違反者更生収容所の禁欲生活の中で、一からその腐った根性を叩きなおしてやる』
「……」
ジュリアは黙してそれに答えたが、内心では舌を巻いている。
「あまりいじめすぎるなよ。辞められても困るのでな」
「この程度で辞めるような可愛げなどあの者にはありません」
「それもそうか」
王は苦笑した。普段温厚な彼はドリスのこととなると別人のように冷淡だ。
「だが、それほどあやつに騎士業に執着があるとも思えんぞ」
「……忌々しいことではありますが、職務に未練はなくとも、陛下には未練があられるかと」
「なかなかの殺し文句だ」
「それほど貴方は偉大だということです」
言う者が言えば嫌味にもなり兼ねない言葉だったが、ジュリアは口元を緩ませてそう言った。
意識したというようりは、自然と唇が綻んだ、そんな笑みだ。
それを見てユリウスは苦笑する。
さらりと、しかも心から本気でそう言い切っている様子に、感動よりも呆れを覚えたからだ。
異性相手にそれを発揮すれば落ちない女などいないだろうに。天然の女殺しだな、と、ジュリアが聞いたら狼狽するに違いない感想を抱き、そっと溜息をつく。
自身に向かう信頼というよりは信奉に近い感情に、ユリウスは閉口させられる時がしばしばあった。 だが、そういう者達が数多く自分の下にいるからこそ、自分が王として立っていられるのだということを彼は知っている。自分を信じてついてきてくれる者がいるとは、君主冥利に尽きると言うべきなのだろう。
「――まったく、贅沢な悩みだな」
「は?」
「いや。それで捕えた者達の調べはついているのか」
「……一応は。私もこれから向かおうと思っています」
「何だ、お前が直接出向くのか」
「はい。……ドリスも少々気になっているようですし。――きな臭いと」
ユリウスの目が鋭く光った。
「何かある、と?」
「まだ分かりませんが……」
幾分緊張しながらジュリアは答えた。
「賭け試合からくる不正な取り引きがあったのは確かです。婦女誘拐に恐喝未遂――」
「女性を人質にして脅したのだったよな」
「宝石商のシャハトという男が金源だったらしいんですが、どうやら他にも関与している人間がいるらしいのです」
「そのシャハトという男は?」
「……昨夜、挙動不審な男を警邏隊が取り押さえました。真夜中に、王都から慌しく出て行こうとする馬車があったらしいんです。不審に思って引き止めたところ『俺は何もやっていない。あいつが全部悪いんだ』と勝手に喚き出して逃亡を図ったらしく。どうやら、今回の事件に関与している可能性があると、現在は警庁に移送されて拘束してあります。何もなければよろしいのですが……今年はいつもと少し勝手が違いますし、お耳に入れておいた方がよろしいかと」
「あいつ?」
「ええ、〝ファナン〟という男らしいのですが……」
考え込むように沈黙した主に、ジュリアは声をかけるかどうか躊躇する。
――今年はいつもと少し勝手が違う……
(――陛下は、彼のことをすっかり信用してしまったのだろうか……)
ジュリアが頭に思い浮かべたのは、言うまでもなく黒衣の異人だった。
今回の件には彼にも間接的な関わりがある。
被害者と加害者に等しい相関だったが、ジュリアとしては、彼も警戒すべき対象であることには変わりはない。根拠もなしに怪しい人物というだけでこの件に結び付けて考えることは頑迷であろうことは分かってはいるが、この事件とあの人物が密接的な意味で繋がっていないとどうして断言できるだろう。
素性が知れないということは、要らぬ嫌疑や憶測をいたずらに増幅させるということだ。関係があるとは言い切れないが、無関係だともまた言い切れない。
確率的に言えば低いのだろう。何せ彼は被害者側の人間だったのだから。それでも、あの黒衣の人物には、只者ではない、と疑ってかからざるを得ないだけの何かがある。
そして、そんな不審人物が城内、主の近くにいるということにジュリアは不安を感じずにはおれないのだ。
「――心配か?」
はっとして伏せていた面をジュリアが上げると、苦笑しながら己を見下ろす主の視線とぶつかった。
「案ずるなというのは無理かもしれないが、私はあの者が不当な思惑を持って動いているとは思えん」
『あの者』とは、間違いなくジュリアが思い浮かべていた人物と同じ人間であろう。
自分の躊躇を正確に把握して言葉を返してくる主の聡明さに敬服せざるを得ない。頭の中で考えていることをこうも簡単に看破してしまうのだから、目の前の主には頭が上がらなかった。
そんなことを胸中で零しながら、ジュリアはまた問わずにはおれなかった。
「それはどういう…?」
「……かなり私的なことだろうと思っている。少なくとも、この国をどうこうとか大それたことを考えているわけではあるまい。私に危害を加えるつもりもないようであるし。それは昨日の試合で立証済みだろう?」
ジュリアは唸った。
そうなのだ。だが、だからこそ不可解だった。それではいったい何が目的で王に近づいたのか。自分の命まで懸けてとなれば、尋常のこととは思えない。勘繰らずにはいられないのだ。
「……陛下は、あの者が何者なのかご存知なのですか」
「……いや」
「では!」
無闇に信用なさることはどうかお控え下さい、と差し出口承知で忠言しようとしたら、
「それでも、分かるのだ」
「?」
王の纏う雰囲気が変わったのに気がついて、ジュリアは怪訝そうに眉をひそめた。
「……私には、分かる。あの者は……」
「……陛下?」
独り言のように呟く主の目が目の前にある何物も捉えてないことを覚り、ジュリアは声を張り上げた。
「国王陛下!」
ハッとして、ユリウスは我に返った。
「……すまん。……何の話をしていたのだったか」
「……」
いつもの主らしからぬそれに、ジュリアは少なからず不安を覚えた。それが、あからさまに顔に出ていたのだろう。ユリウスは苦笑した。
「そう、心配そうな顔をするな。私とて物思いに沈むことはある」
だが、報告中に主が今のようにトリップ状態を見せるなど、ジュリアの知る限り、今まで皆無だった。
いや――
そこでジュリアは思い出す。
あの夜。
あの夜も、主は今のように現実ではないどこかへ行っていたのではなかったか。
ドリスの言葉を信じるならば、サントという黒衣の人物が陛下を訪ねに来たというあの日の夜も、王は一瞬今のように我を失っていて、自分が呼びかける声になかなか気付かなかったのだ。
その事実が今になって余計に彼の不安を掻き立てた。
何かがある。
あの黒衣の装いの人物と、国王との間には。
ジュリアは思案げな主の横顔をじっと見守った。
「何をやっているのですか、副隊長」
本日五十六人目の犠牲者もとい利用者の呼びかけに、ドリスはブラシ片手に愛想よく振り返った。
「ただいま「今週はトイレ掃除勤労感謝週間!」と銘打って、トイレ掃除に提供する労働力に対するカンパを徴収しているところでして。――トイレ掃除、実はこれが結構な重労働だ。加え、精神的痛苦も並みではない。これを機に考えてみてほしいんだ。僕達が生まれてからというものいったい何回、いや何万回、このトイレットルームというかけがえのない存在にお世話になっているのか、これからお世話になっていくのか。そして、その影にはいつだって気持ちよく利用してもらいたいという掃除をする側のなんとも献身的な自己犠牲があるのかということを。――その謝礼という意味も込めて、普段からこんなにも活躍している御手洗いに対する賛辞の念もこめれば、利用に際しての代金は当然一万ダルは下らな……」
と、立て板に水を流す勢いでいかにも流暢に、しかし冷静に考えてみればあまりに暴利的で横暴な言い分を捲くし立てたのだが、そこに二人の影があることに気付き、そしてそのうちの一人が黒尽くめの人物であったので、とりあえず強欲商人顔負けの商売根性を棚に上げてドリスは訊いた。
「――よぉ、サント、お前も小便?」
「……」
「……それより、説明してください。あなたは何をしているんですか?」
サントの隣に立つダヤンはこれ以上ないほど声を低くして問うた。
彼の視線の先、トイレの前に長蛇の列ができている。
何でこんなに並んでいるのだろう。込んでいるのなら他を探せばいいものを。それとも集団食中毒にかかったとでもいうのか?
そんな疑問を抱きながらも、十中八九、原因は目の前の飄飄とした上司に違いないとダヤンは彼を半眼で睨む。
彼としては、謀られた恨みは消えていない。
昨日今日で忘れてしまえるものではなかった。というより、一生忘れることなどないだろう。それほど昨日のジュリアは〝恐怖そのもの〟だった。
命まで奪われかけたというのに、普段とさして変わらずに接していたその後の二人を見て、この人たちの絆は生半可なものじゃないんだろうなと、半ば感心して思いはしたが、二度とあんな場面には出くわしたくはない。
誰の目にもあの時のジュリアは本気に見えたからだ。それでも昨日の今日で懲りずに、ジュリアの意向にはそぐわないであろう目の前の状況を作り出して見せるこの男は、やっぱり並ではなかった。命が惜しくないのだろうか、と思わずにはいられない。
「お前こそ何やってんの? あ、もしかして、サントの案内? 俺に用があったとか?」
だが、ダヤンの質問など軽く流してドリスは続けた。
ピクリと、こめかみに筋が立つのが自分でも分かった。ドリスの部下になってからというもの、もともと自分はそんなに短気なほうではないと認識していたが、己の自制心を試される機会が明らかに増えている。この頃になると彼は、もう一人の自分の上司に対して多大な同情を寄せずにはいられなかった。
ここで、サジャンやダンカンなどなら、諦め半分の処世術でドリスに調子を合わせようとするのだろう。だが、くどいようだがダヤンは不器用な青年だった。それに〝真面目〟〝正直〟〝忍耐強い〟という、本来人間の美点に挙げられるべきものが三点セットでついてくる。極め付けになんだかんだ言ってお人好しな性分でもあったから、五点でもれなく融通の利かない青年の出来上がりだ。
「真面目+正直+忍耐強い+お人好し+不器用=融通が利かない=損をしてばかりの男」
という方程式が自然と導き出される悲惨ぶりだった。
「先に質問したのはこちらでしょう」
それでも、こめかみをピクピク痙攣させながら耐えているダヤン青年は立派だといえるだろう。だが、それが彼の悲劇的な一因でもある。その忍耐力ゆえにドリスの標的になりやすいということを本人が自覚していないところが尚、悲惨だ。
「まあまあ、落ち着けって。お前、そのうち血管ぶち切れて失血死するぞ」
「誰の所為だと思ってるんですかっ!!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたダヤンは大声で怒鳴り返してしまった。
その勢いのまま、大体貴方という人は――と周囲を憚らず捲くし立て始める。
だが、当のドリスはどこ吹く風だ。煙草を一本取り出すとそれを口元に運びながらサントに話しかけた。
「それで、俺に会いに来てくれたんじゃないの?」
「……騎士の生活を説明しようと、兵舎を案内してもらっていたところです」
「……ふーん」
「人の話を聞いて下さい!!」
完璧に無視されたダヤンは二人の会話に怒鳴り声で割り込む。
「もう、結構です! 隊長に報告させていただきますから! サント様、行きましょう」
そう言ってダヤンがサントを連れて行こうとすると、ドリスの腕がダヤンの首筋に巻きついた。
「まぁまぁ、生き急ぐでないよ、青年」
耳元で生暖かい吐息とともにささやかれ、ダヤンは息を呑みこんだ後、絶叫する。
「や、止めてくださいっ!!! 気色悪いっ……!!!」
「あらまぁ、お言葉だこと。魅惑のバリトンだぞ。女の子はこの声だけで体を震わせて股座を濡ら…――ぶっ」
「何言ってんですか、あんたは!!!!」
違う意味で体を震わせたダヤンはドリスの顎を下から持ち上げ自分の顔から離そうと躍起になった。
だが、ダヤンの首に回ったドリスの腕はダヤンを離そうとはしなかった。ダヤンにしか聞こえない掠れるような声が続く。
「だから、言ってるだろう? 生き急ぐなって」
――若死にしたいのか?
最後の一言がぞっとするような低い声で耳元に落ちる。
ダヤンはまたさっきとは違った意味で体を震わせ顔を蒼くした。
何が魅惑のバリトンだ。極悪な脅迫口調じゃないか。
「……じ、自分はそんな脅しには屈しませんからね」
「……ほんと、お前って長生きできないタイプだよ。うまく立ち回ることを少しは覚えろ。扱いづらい」
「……自分は貴方の都合のいいおもちゃじゃありません」
軽くなった声音に幾分ほっとして憮然とそう答えたら、
「そういうことは俺より強くなってから言うんだな。間違ってることを間違ってるって言うのにも、力は必要なんだよ。自分の信念を貫きたかったら強くなるこった。正義を語れるのなんざ、強者だけだ。特に弱肉強食の軍人社会ではな」
などと予想外に真面目なことを言われて、またもや虚を衝かれる。
「俺より悪い奴なんてこの世にゃごまんといるんだぜ? そういう奴に限って権力持ってたりすんだから。俺も昔は散々な目に合ったもんさ」
「……」
この人はほんと、真面目なのか不真面目なのかはっきりして欲しい、と思いながらも、少しは見直してやろうかと思った時だった。
「ああっと、ザナスのとっつぁん!!」
耳元で大声を出されて、ダヤンは顔をしかめた。
ドリスに向かって片手を上げて、二メートルを越すバルトーク=ザナス将軍がのっしのっしとやってくる。彼の一歩はやたら大きいので、ぐんと近づいてくる間合いに慣れない者は、大抵後退る。彼の部下の中にも未だに慣れない者もいたが、サントはたじろぐことはなかったようだ。
「よぉ、暇なら儂と一勝負しないか」
サントを認めて開口一番そう言ったバルトークに、ドリスが口を出した。
「おおっと、だめだめ。こいつは先約があるんだ。相手ならこっちにしてくれ」
(なっ!!?)
ようやく開放されたかと思ったらバルトークの前に押し出され、ダヤンは度肝を抜かれた。
「ちょっ、何勝手なこと、」
「こいつ、昨日の試合見てめちゃくちゃ感動したらしいんだよ。とっつぁんに鍛えて欲しいって」
「ん? そうか? 名は?」
「親衛隊所属ダヤン=コークランド大尉」
打てば響くような速さでドリスが答える。
「俺の部下。鍛えてやってくれないか。忍耐強さが売りだから。とっつぁんも気に入ると思うぜ」
「ほお…」
ザナスはドリスの言葉に面白そうにダヤンを眺めた。そのぎょろりとした大きな目玉に見入られたダヤンは、顔を引き攣らせる。
〈ちょ、ちょっと、副隊長、冗談でしょう?〉
〈……強くなりたいだろ? 俺みたいな横暴な上司をぶちのめすために〉
耳元でささやかれたそれを聞いてダヤンは絶句した。
(この男はっ……!!)
少しでも見直してやろうかと思った自分があまりにも可哀相だと、ダヤンは思った。
そんな彼にザナスはううむ、と唸ってその大きな手を差し出した。
「あ、あの……」
じっと見つめられ、どうしていいか分からず挙動不振に陥るダヤンの手を取り、ドリスは、ザナスの圧倒的に分厚く硬い手を握らせた。
とっつぁん流の挨拶だ、そう耳打ちされて、とりあえずダヤンは愛想笑いを返したが、
(いっ……!?)
ものすごい握力で巌のような手が握り返してきた。
「っ……」
生来我慢強いダヤンは、顔を真っ赤にして目に涙を溜めながらも奥歯を噛み締め耐えた。
それを確認して、ザナスは豪放磊落に笑った。
「気に入った。なかなか見所がある」
おもむろに手を離し、太く笑ってダヤンの背中をばしばし叩く。
「ぐ……っ!!」
その強さによろめきながらも踏ん張ったダヤンの耳に無責任な声が入ってくる。
「だろぉ? 俺も気に入ってんだ。しごいてやってくれ」
ぬけぬけとそう言い放った自分の直接の上司を涙に濡れて真っ赤な目で思いっきり睨んだ。自分の性質を把握してここまで計算していたに違いないのだ。
「んじゃ、ダヤン。サントは俺に任せて、お前はせいぜい腕を磨けよ」
ドリスはひらひらと手を振った。
ダヤンの肩には既にザナス将軍の手が重りのように乗っかっている。
最早回避は出来ないらしいと覚ったダヤンは、それでも往生際悪く最後の足掻きを見せてみた。
「困ります!! 自分は隊長にサント様のことを頼まれているんですから!!」
「それなら、お前より俺のほうが適任だろ? なんたって一ヶ月俺の相棒だったんだから。安心しろよ、目を離したりしないから」
「話がまとまったところで、ダヤンと言ったか、早速一勝負しようか」
全然まとまっていない!! とダヤンは心の中で絶叫する。
だが、バルトークに肩をしっかりつかまれているために逃げることも出来ない。引きずられるように連れ去られる。
そして最後にザナス将軍は思い出したように振り返ってこう言った。
「ドリス、あんまりジュリアを怒らせるなよ。自分の身が可愛かったらな」
その言葉に一瞬ドリスの顔が引き攣ったのを見て、全てを悟った気がしたダヤンは、彼の部下でありながらいい気味だと思ってしまったのだった。
「……よろしかったのか」
「あん?」
廊下の角へと二人の姿が消えてからサントは口を開いた。
「貴方の一存で引き離したりして」
「なに、あいつの方が良かった?」
「……彼には厳命があったのではありませんか」
――私を監視するという、と暗に視線で続けたら、ドリスは器用に片眉を上げた後、何だそんなことかと言いたげに肩を竦めた。
「大丈夫、大丈夫。俺のほうが偉いんだから。それにさっきも言ったとおり俺のほうが適役だろう?」
無言のサントの視線の先に、己がずっと持っていたブラシがあると気がついて、ドリスはげっそりした。
「……いいんだよ。何も一日で終わらせろなんて言われてないんだから。朝からやってんだ。いい加減便所くさいとこからおさらばしたい」
「……無理に案内してもらわなくても結構ですが」
「遠慮すんなよ、さっきから他人行儀だぜ?」
「貴方と私は他人以外の何物でもない」
「……じゃあ、顔見せてって言ってもだめなのな」
サントは無言でそれに答えた。
「……まぁ、いいか。こんな男くさい兵舎じゃなくて城の方を案内してやるよ」
頑迷【がんめい】…かたくなで正しい判断ができないこと。
立て板に水を流す【たていたにみずをながす】…弁舌がすらすらとしてよどみのないさま。
バリトン…テノールとバスとの中間の男声音域。
豪放磊落【ごうほうらいらく】…気持ちが大きく、小さいことにこだわらないようす。