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BLOODY CHAIN Ⅰ  作者:
第二章 死者の残影
22/87

00 プロローグ

第二章あらすじ


御前試合を終えて宮城に滞在することになったサント。

王に対面することを願ったその理由がついに明かされる。


一方、王都で一人の惨殺死体が見つかった。

波及していく事件と、それに翻弄される騎士達。

そんな中、王宮で催される舞踏会のために四大公が一、スクワード領主とその弟が王都にやってくる。

疑念が錯綜する中、舞踏会で何かが起こる。

謎が謎を呼ぶ第二章。

 声が聞こえる。

 優しくて、温かい。


 太陽のように輝く笑顔と、

 心を躍らせる明るい声


 ああ、よかった

 心の底からそう思った。


 幸せな唄

 幸せな絵


 何も怖がることなどない。

 あの人は目を逸らさずにまっすぐ自分を見てくれている。


 風に踊る、燃えるような緋色の髪

 好奇心で(きら)めく明るい碧玉(へきぎょく)双眸(そうぼう)

 日に焼けた小麦色の肌

 意志の強そうな凛々しい蛾眉(がび)

 優しくて、強い、その眼差し


 だけど、時折遠くを見据えたその横顔が、ふと霞んで見えることがあった。


 ――どうしたの?

 ――なにかあったの?


 そう尋ねると、いつも決まってこう言った。


『遠い夢を思い出していたの』


 誇らしげに、だけどほんの少しだけ哀しそうに笑って。

 左手の薬指にはまった円環を愛しげに見つめながら。


 守りたいと思った。

 彼女の笑顔を。

 自分のこの手で。

 いつかきっと自分が、彼女の不安を消し去ってみせると。

 剣を持ち、遥か彼方の都を見据え、いつか辿り着いてみせると。超えてみせると。

 強くなると――

 惜しみない愛情を注いでくれた、笑顔が誰よりも似合う大切なあの(ひと)を守るために。

 そう誓った。

 なのに……


『イヤアアアアアッッッ――!!!!』


 空を切り裂くような絶叫が大気中に(こだま)した。

 耳を塞いでも塞いでもこびりついたように消えることのない絶望の声。

 揺らめく瞳にはもはや輝きがなかった。

 ただ泣き叫ぶ。

 恐怖と嫌悪に。


 悲鳴の止まない暗闇の中で誰かが告げた。


 ――『呪われた子』






 弾かれたように身を起こした。

 硬い長椅子の上だった。

 あてがわれた寝室の上等な寝台の上には体を横にせず、寝付きにくいそこに横たわっていた自分を発見して、荒い息を落ち着かせる。

 軽い休息をとるつもりで目を閉ざしたのが災いしたらしい。

 浅い眠りは夢幻の世界に人を誘う。

 そして、自分にとってそれは常に悪夢という形で発揮されるものだった。

 いつも同じ繰り返し。

 暗く、重く、抜け出せない闇が広がる。

 震える手が無意識に首にかけてある紐をつかんだ。ぎこちない仕草で、衣服の下にしまわれていたそれを取り出す。

 月光に反射して零れた淡い光。

 黒くよれた組み紐に、わっかが一つ、通っている。

 そっと右の手の平に乗せると、カーテンの隙間から漏れ出る月明かりに照らされて、青い石の中に金色の紋様が浮かび上がった。

 それと同じ紋を、この地に来て目にした。

 それが証だった。

 この国と、幻の夢をつなげる――


 ぎゅっと掌を握り締め、吐き出すように呟く。

「…何が守るだ」

 笑わせる。


 自分で自分を嘲るように。

 噛み締めた唇から、一粒の血の玉が口の中に広がって、泣きたくなった。

 だがたとえ泣きたくても、泣いてはいけない。

 自分に涙する資格などないのだから。


 その夜、再び身を横にすることも据えられた寝台(ベッド)で休むこともせず、ひとつの指輪を握り締めたその姿勢のまま、身じろぎひとつせずに、ただ息を潜めるような呼吸だけを繰り返し、そのままひっそりと暗い夜を独り明かした。

蛾眉【がび】…蛾の触角のような三日月形の眉。美人の眉の形容。

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