初めて流れ星を見たんだ
夜は思ったよりも静かだった。
遠くで車が通る音と、どこかの家の換気扇の低い唸り声だけが、世界がまだ動いている証みたいに残っていた。
産まれて始めて、流れ星を見た。
テレビや写真で何度も見てきたはずなのに、実物は驚くほどあっけなかった。
空に傷がついたみたいに一瞬だけ光って、次の瞬間にはもう無かった。
願い事なんてしている暇は無かった。
「願い事を三回唱えないと」とか、「心の中で強く思え」とか、そういう知識だけが遅れて頭に浮かんで、肝心の言葉は何ひとつ出てこなかった。
ただ、見てしまった、という事実だけが胸に残った。
少しだけ悔しくて、でも不思議と後悔はしなかった。
その理由を考えて、しばらく空を見上げたまま立ち尽くした。
きっと、流れ星を見てすぐ言える願いって、本当に自分が望んでいるものなんだ。
迷わず、言葉を選ばず、条件も付けずに口をついて出る願い。
そういうものだけが、叶えられる資格を持っているんだと思った。
欲しいはずのものはたくさんあるのに、いざとなると何も言えない。
それはつまり、自分が何を望んでいるのか、ちゃんと分かっていないということだ。
流れ星は、それを確かめるための試験みたいなものなのかもしれない。
星が消えたあとの空は、何事も無かったかのように暗く、静かだった。
でも、さっきまでとは少しだけ違って見えた。
次にもし流れ星を見たら、今度はきっと言えるだろうか。
何のためらいもなく、胸の奥からそのまま出てくる言葉を。
そう考えながら、もう一度だけ空を見上げてから、家に帰った。
願いはまだ形になっていない。
けれど、確かにそこにある気がしていた。




