村の静寂、剣の影
カナは村に戻った。村の入り口で立ち止まり、周囲を見回した。いつもなら子供たちの笑い声が響くはずの道が、異様に静かだ。家々の窓から、かすかな灯りが漏れるが、人影はない。空気が、重く淀む。
「おう、カナ様、どうしたんじゃ?」 心の奥で、村人の声が響く――幻か、現実か。
一人の村人が、ゆっくりと近づいてきた。穏やかな笑顔の男で、いつものように手を振る。
「あなた...!この村の真の姿、話してもらうわよ!」
村人は首を傾げ、困惑した表情を浮かべる。
「真の姿……?なんの事じゃ?」
カナの目が、鋭くなる。剣の柄に手をかける。胸の棘が、激しく疼き、視界を赤く染める。まるで、心の奥から熱い蔓が這い上がり、指を剣に導くように。
「とぼけないで!あなた達が私を魔王退治に行かせたのよ!本当の目的は何なの!?」
『ダメだ。こんなストレートに聞いても答えるはずがない……かくなる上は……』 苛立ちが、剣を抜かせる衝動になる。棘の疼きが、爆発寸前の熱を帯びる。葉は、茎を太くし、風にそよぎながら伸びる。カナの息が、荒く乱れる。
カナは相手の目をじっと見つめ、声を低くした。村人の顔が、ぼんやりと歪んで見える。疼きが、耳元で囁く。『今...殺せ...』
「答えたくないなら...力づくでも聞き出すわよ!」
『そうだ……きっと力づくで聞き出すのが一番なはず……答えなかったら殺してしまえばいいんだ。魔王の手下はまだまだいるだろう』 黒い衝動が、心の隙間を埋め始める。蕾が、ゆっくりと膨らみ始める。棘の熱が、指先を震わせ、剣を抜かせる。
カナは剣を構え、カウントを始めた。村人の目が、わずかに見開く。胸の疼きが、カウントに同期するように、脈打つ。
「覚悟はいい?3秒あげるわ...1、2...」
「な、何を言ってるかワシには……」 村人の声が、怯えてる。カナの視界が、赤く滲む。
3秒が経過し、カナの剣が閃いた。金属の音が、村の静寂を切り裂く。棘の熱が、爆発する。
「ごめんなさい...でも選択肢はないの!」
血が、地面に飛び散る。村人は喉を押さえ、ゆっくりと倒れた。カナの視界が、赤く染まる。
「何故……」 倒れた村人の声が、かすかに響く。
カナは血を見つめ、震える手で剣を握り締めた。剣身に、赤い雫が伝う。胸の棘が、満足げに疼きを収める。
「私...何を...してしまったの...」
『でも……気持ちいい……♡』 心の奥で、甘い囁きが広がる。カナの胸が、熱く疼く。蕾は、震えながら開きかける。
カナは吐き気を催し、唇を噛んだ。血の臭いが、鼻を刺す。
「違う...これは違う...私は正義のために...!」
『この快感を味わうべきだ。この気持ち良さは全世界に伝えるべきだ』 闇の声が、耳元で甘く誘う。
カナは剣を落とし、膝をついた。地面の血溜まりが、彼女の膝を濡らす。
「やめて...私の心を...汚さないで...」
『そうだ汚すな。正義の気持ち良さを知ろうとしている私の心を邪魔するな』 声が、強さを増す。蕾は、ゆっくりと花弁を広げる。
カナは顔を両手で覆い、肩を震わせた。涙が、指の隙間からこぼれる。
「私は...正義の味方のはず...なのに...どうして...」
『村人を殺すのを邪魔しようとする邪な感情が入ってくるの……?』 疑念が、正義を蝕む。
カナの声が、震える。闇の気配が、彼女の周囲を包む。
「やめて...この闇の気持ち...私を支配しないで...!」
『私は負けない……絶対に負けない……闇の気持ちになんか負けない……必ずこの村人達を全員殺す』 決意が、剣を再び手に取らせる。花弁が、一枚ずつ開き始める。
カナは狂気の笑みを浮かべ、立ち上がった。目が、赤く輝き始める。
「そう...全て殺せば...私の中の闇も消えるわ...」