帰還の道、膨張する怒り
村への道は、霧に包まれた森を抜ける険しいものだった。カナは剣を腰に下げ、木々の間を急ぐ。葉ずれの音が、不気味に耳に残る。村人たちの笑顔が、頭に浮かぶたび、胸がざわつく。
「あの人達...私を騙して魔王退治を押し付けたのね。許せない!」
『いや、待てよ……もしかして魔王退治ではなく……アイツらは魔王の手下なのでは!?』 疑念が、急速に膨張する。カナの足取りが、重くなる。葉は、静かに絡みつく。心の奥で、何か熱い棘が刺さるような疼きが走った。自分の怒りか、それとも...外から忍び寄る何かか? 棘は、ゆっくりと根を張り、胸を締めつける。息が、わずかに乱れる。
突然、カナはハッとした表情で立ち止まった。森の木々が、彼女の影を長く伸ばす。
「ちょっと待って...!そうよ、あの村人達こそが魔王の手下だったのね!」
『それなら許せない!今すぐ殺さないと!』 心の闇が、剣の柄に手を伸ばさせる衝動を強める。棘の疼きが、熱く脈打つ。葉は、茎を太くし、風にそよぎながら伸びる。カナの視界の端が、ぼんやりと歪む。まるで、森の影が彼女の心に忍び込み、怒りを煽るように。
カナは駆け出した。木の根を飛び越え、息を切らして村へ向かう。風が、彼女の髪を乱暴に揺らす。棘の疼きが、足音に同期するように、胸を刺す。
「よし、急いで村に向かうわ!奴らの正体、暴いてやる!」
森の出口から、村の輪郭が現れる。煙突の煙が、静かに昇る。だが、カナの胸の棘は、ますます熱を帯びる。疼きが、囁きに変わる。『殺せ...今すぐ...』