玉座の空虚、幻の罠
魔王の玉座がある大広間に、カナは辿り着いた。重厚な石の扉を押し開け、埃っぽい空気が肺を満たす。広間は荘厳で、黒い大理石の床が冷たく光り、天井のシャンデリアは埃に覆われて鈍く輝く。カナは剣を構え、息を潜めて周囲を睨んだ。19歳の女勇者、黄金の髪をポニーテールにまとめ、白銀の鎧が彼女の細身の体を包む。村人たちの期待を背負い、魔王を討つためにここまで来たはずだった。
剣先を魔王の玉座に向け、カナは声を張り上げた。心臓が早鐘のように鳴り、期待と緊張が交錯する。
「魔王!ここでお前の悪事を終わらす!」
だが、玉座は空っぽだった。黒い玉座に、影一つない。カナの目が、困惑に揺れる。心の奥で、疑念が芽生える。それは闇の花。
カナは辺りを見回し、困惑した表情を浮かべた。広間の隅に、蜘蛛の巣が張り、風のない空気が重く淀む。
「ちょっと待って...ここは本当に魔王の城なの?誰もいないじゃない...」
『クソ……私は騙されたんだ……あの村人達め、私を騙したな』 怒りが、胸の奥でくすぶり始める。カナの握る剣の柄が、白くなるほど強く締まる。
広間の奥に、かすかな影が揺れた――気のせいか。カナは剣を構え、声を尖らせる。
「あっ!そこに誰かいるわ!正体を現しなさい!」
『アレ?気の所為か』 影は消え、広間は再び静寂に包まれる。カナの息が荒くなり、額に汗が浮かぶ。
足音を立てながら、カナは影のあった方向に近づいた。石の床が、靴底に冷たく響く。
「隠れてても無駄よ。勇者の剣から逃げられると思わないで!」
『やっぱり誰もいない……もしや……私を騙した村人達が私に何かしたな!?』 疑念が、毒のように心に染み込む。カナの視界が、わずかに揺らぐ。芽が、静かに土を破って顔を出す。
カナは頭を抱え、膝を折りかけた。広間の空気が、重くのしかかる。
「もう!幻聴?それとも罠?この城、何かおかしいわ...」
『そうよ。こんな城を教えるだなんて、やっぱりあの村人達はおかしい!問い詰めてやる!』 怒りが、熱く胸を焦がす。カナの目が、鋭く光る。芽が、ゆっくりと葉を広げ始める。
村人たちの顔が、脳裏に浮かぶ。笑顔の裏に、隠された何かを想像し、カナは剣を鞘に収めた。金属の音が、広間に響く。
「村人達が何か知ってるかも。まずはあの村に戻るべきね」
『きっと私は騙されたに違いない……ムカつくなぁ……』 苛立ちが、足を速める原動力になる。
カナは怒りを抑え、唇を噛んだ。広間の扉を押し開け、外の闇へ踏み出す。
「くっ...村人達のアジトは確か北の方角だったはず。今すぐ向かうわ!」
『そして……殺してやる!』 心の奥で、黒い衝動が、かすかに囁く。