本当の事は受け入れ難い
「俺のこと何だと思っているんだ!!!」
何って?
無能?
そう小馬鹿にしたように言う娘。
誰のお陰でここまで大きくなったと思っているんだ。
誰のお陰でここに住めて、飯も食えて、学校まで行かせてもらって、卒業して、俺の口利きで仕事に就いて、俺が目かけているヤツと結婚する段取りまでつけてやったのに。
「あなたじゃなくて、お母さんでしょ。」
そう言い返された。
「父親にむかって”あなた”とは何だ!!」
テーブルを叩いた。
娘は肩を竦めた。
「そうやって何でも叩いて大きな声出せば、相手が萎縮するって思っているんでしょ?やめてもらえる?」
「お前が大声出させるような事をいうからだ!」
「また、人のせいにするの?すぐ怒っちゃう自分が悪いんでしょ?そういうのわからない人だもんね。一個一個説明しないと理解できないんだもの。」
はぁ~と大きな溜息までつかれる。
「面倒だけど説明してあげるわ。忘れちゃっているみたいだけど。そもそもね。あなた、食費なんて払ってないでしょう?払っているのお母さん。小さい頃からそうよ。それから
学校は奨学金なの。学費を今、私が、働きながら返しているの。
あなたに学費払ってもらってないの。知らないでしょ?だって興味無かったもんね。」
そんなはずは無い。
俺は王都の騎士団に務めていて、末端だがそれなりの役職にもついている。
稼ぎもそれなりにある。
食費を払ってないなんて事はない。
「全く払ってないって事はないかもね。でも、すぐ飲み歩いちゃうでしょう?部下に腹一杯食わせてやらないといけない。なんて言って。私達は飢えていたわよ。だから、私は小さな時から市場で働いてたわ。クズ野菜とかもらって薄いスープ作って凌いだわよ。知らないでしょ?そういう生活が嫌だから勉強も頑張ってたのに、女に学は必要無い、こまっしゃくれた女はかわいくないなんて言ってたわよね。」
確かに俺はそう思っていた。
理詰めで話してくる女性事務官はどうにも性に合わなかったからだ。
娘にはそんな風になって欲しくなかった。
「その癖、私が学校に合格したら自慢まくってたって聞いて恥ずかしくって仕方なかったわ。
しかも、合格祝いだ。って言って飲み歩く口実に使われて。
お祝い金とかも飲み代に使ったんでしょ。
教材費がかかるからって上司とか、同僚がくれたお金で。
私、何にもお祝いされてないわね。
教科書も自力で買ったわよ。
『普通、お祝い返しあるわよね。私達はいいけど、上司には返した方が良いわよ。』
って、言われて母さん恥ずかったらしいらしいわよ。
だって、知らないわよね。
もらっていたなんて。
だから、私、お祝い返しを用意する為に無邪気を装って聞きに行ったわ。
失礼ですがどなたが、おいくら包んで頂きました?お祝い返ししたくとも、誰に頂いたかわからないので。恥ずかしながら、奨学金も飲み代に使い込んでしまうような父だものですから・・・。
って。
それまでの言動って大事よね。
皆、一気に同情してくれたわ。」
「そんな事!覚えてない!!!お前!誰にそんな事言ったんだ!!!!」
「あぁ、また大声。うるさいこと。下さった方全員よ。分かる範囲でね。」
そんな事、言って回ったのか。
俺の評価はどうなるんだ。
口から出ていたのだろうか、鼻で笑われた。
「あなたの評価なんて無いようなものでしょ。困ったらいつだって覚えていない・・だものね。これだから酔っ払いっていやよ。家の前で母さん突き飛ばしたのに覚えてないなんて本当有り得ない。」
俺が?突き飛ばした?外で?
信じられない。
「信じられないのはあんたの行動よ。家に隠してあった奨学金の一部・・・前納分を見つけ出して「こんな所に金隠してやがって。」
なんて言ってもってっちゃったものね。
何でお金がそこにあったかわかろうともしなかったものね。
お母さんが私の奨学金だからって追いすがって止めたのに突き飛ばしたのよ。それを皆見てたわよ。だから、皆さん大層同情して下さってね。お金を貸して下さったの。それから、上司の奥さんは旦那さんにお話して下さったみたいで、あなたの給金から借金を天引きして支払う手配までしてくださったのよ。それから家に帰ってこなくて済むようにって数年前から遠征ばっかり組んでくれた。お陰で平和だったわ~。」
知らない。知らない。
そんな事知らない。
「だと思ったら遠征先で新しい家族作っちゃったんでしょ?まだ二歳の子。男の子が出来たって大喜びしてそっちにお金つぎ込んじゃうからウチにお金払わなくなっちゃって。この家、騎士団所有の借家だから困ったわよ。引っ越したくってもできないし。ビックリしたわ~。こっちにはお金入れないのに、あっちにはふんだんにお金使って良いパパしてるんでしょ?やっぱり男の子が良いんだってね?教えてくれる親切な人がいるのよ。その癖、私の就職の時には口出ししてきて。あんたの口利きで就職したんじゃない。私は騎士団に個人的に借金があるから騎士団に入るしか無かったのよ。本当は王宮勤めがしたかったのよ!仕方なくそれでも精一杯働いていたのに!あんたに似たクズとの結婚を勝手に勧めてきて!残念でした!まだ借金返してないから結婚して家庭に入ることなんてできないんです!わかった?あんたの血が自分に流れていると思うと怖気が立つ。早く僻地の真実の家族のところにお戻りになったら?私が結婚話蹴ったってことにムカついてはるばるやってきたみたいだけど。そんな風に帰って来れるならいつでも帰ってきて状況見ること出来たわよね?それが出来ていないから無能なのよ。さぁ、出て行きなさい!もう少しであんたの上司が来るわ!上司が来て、あんたの帰れる場所すらも無くされる前に出て行きなさい!」
怒鳴るなと言った娘は金切り声を上げて俺を威嚇してきた。
言いたいことはいっぱいある。
だが、上司が来るのはマズい。
俺は仕方なく娘の言うとおりにしてやった。
やっぱり父親が折れてやらないといけないからな。
帰りの馬上で俺は思った。
やっぱり娘はダメだ。
すぐヒステリーを起こす。
少し間を開けてまた話をするとしよう。
そんな風にならないように、息子はおおらかに育てよう。
と。