9話 力を授け対価として女王のモノとなる
魔法の特訓を初めてから二週間が経過した日の朝――
ロワは部屋の外から聞こえる騒音に目を覚ました。誰かが部屋の外で言い争いをしているようだ。
「んーー……? …………アリアちゃん?」
眠気でまだ開かない目をこすり、部屋の中を見渡し気づく。アリアがいない。いつもはロワが起きる前はまだ隣のベッドで寝ていたが、隣にアリアの姿はない。――ちなみに、二人が同じ部屋で寝泊まりしているのは、金銭面とアリアから「こんな小さな子を一人で寝かせて……襲われでもしたらどうするの?」と言いくるめられたからである。なお、ロワはアリアが語った”襲う”の意味は理解していない。
「……うるさいなぁ……!」
部屋の外では相変わらず複数人が言い争っており、安眠を邪魔されたロワはしかめっ面で文句を言ってやろうと外に出た。
「だから、ロワお兄さんが何をしたのか、しっかり説明して! じゃなきゃ貴方達の言っていることはただの暴論よ?!」
「うるせぇ! いいからそこをどきやがれ!」
「あの女男がやった証拠はあるんだよ!」
「だから! その証拠も見せてって言ってるでしょ!?」
部屋の外、通路の真ん中でアリアと二人の男性が言い争っている光景がロワの視界に映った。
彼らがどのぐらい話し合っていたのかロワには分からないが、男性二人が苛立っていること、同様にアリアも苛立っている為、ある程度の時間が経過し、話が平行線になっていたことは容易に理解出来た。
ロワは安眠を邪魔されたことより目の前で起きてることが衝撃的すぎて目が覚めてしまい、慌てて彼らの間に入り込む。
「ちょっ、ちょっと君達、なにしてるんだよ!?」
「あ゛? なんだてめェ……邪魔するなよ」
「女男じゃん~おはよう~! 丁度よかった。ついてこい」
「こいつが……? ふーん。じゃ、大人しく俺達についてくればその娘は見逃してやるぜ」
「え? いやだけど……というか君達誰?」
気味の悪い笑みを浮かべ屈強な体の男と、無表情でロワの腕を掴み連れて行こうとする細身の男。まだ状況を理解できていないロワは見知らぬ男達の言葉を拒絶し、捕まれた腕を振りほどく。そしてアリアを守るように腕を伸ばす。
「誰でもいいだろ。罪人のテメェが知る必要なんてねェよ」
「罪人? 誰が?」
「お前だよ女男」
「女男って俺? ……な、なんで?」
「ロワ! そんなやつらの話なんて聞かなくていいわ! 貴方が罪人だって証拠を出さないのよ、だから話を聞く価値もないし、信じる必要もない!」
「待って待って待って?? 俺今起きたばっかりなんだけど、誰でもいいから一から説明して!?」
想像していなかった単語を出されてしまい、ロワは混乱してしまった。そして切実な思いを口にする――が、全員頭に血が上っているのかロワに対し「ついてこい」「聞く必要はない」とだけを言い説明しない。
(なんなんだよ~!? 俺が何したって言うんだ!? ここ最近やらかした覚えは何もないのに!)
いくら記憶を思い返そうにも、最近の出来事はアリアと共に街の外で新たな魔法スタイルへ変える特訓。それ以外で特別何かをした覚えはない。その間も三人はぎゃんぎゃんとロワを挟んで言い争いをする。
「うるさいぞ! 今何時だと思ってるんだ!」
「ねぇ少し静かにしてよ!」
(あーーーもう苦情来た!!!)
同じく宿泊している人達の怒鳴り声がロワの耳に入った。早く対処しなければとロワの心に焦りが浮かぶ。どうすればいい。どうすばれ周りの見えていない彼らを黙らせることが出来るのか。考え、考え――一つの案がロワの脳裏によぎる。
考えついてしまえばもう迷うことはない、嫌だと思ってしまうけれど他に方法はない。ロワは男性二人に向かって補助魔法を使った。
「は?」
「あ゛?」
「……え? まさかっ、ロワ――」
(アリアが言っていたことが本当なら――)
脳裏によぎったこの場を穏便に済ますことが出来る行為。
『多分、発動条件は貴方の魔力を取り込むことだと思う』
『魔力を取り込む……』
『補助魔法をかける、回復魔法をかける――それだけでも魔力を取り込む行為になるわ』
『……そうなんだ』
やってはいけないこと。使ってしまえばそれこそ彼らが口にする罪人となるかもしれない。だけども他に彼らを落ち着かせる方法が思いつかなかった。
困惑する男性二人に、一人だけ気づき制止しようとするアリアに、ロワは命令する。
「『静かにして』」
「はい。女王様」
「申し訳ありません。女王様」
「女王様の命ならば」
働き蜂にして黙らせてしまえばこれ以上騒がせることもなく穏便に済ませられる。
(……女王って、何なんだよ……俺は、男だ)