6話 勘違い
「——ロワイヤル!」
「……その声……ゼル!?」
城門の前まで行き、あと数歩で街の外に出るという所で背後から引き留める声が聞こえた。振り返れば元パーティー仲間であり、ロワが追放される原因となった男、ゼルがいた。
ゼルは走って来たのか息が荒くなっていた。そしてロワに向かって不安げな表情で問いかける。
「ど、どうしてパーティーを抜けたんだ? 君みたいな優秀な魔術師がパーティーを抜けるなんてありえない! 何があったんだ? しかも! どうして街中で魔法を使ったんだ!? 何があったのか、私に話してくれ!!」
「……うげ……やっぱりきもちわるい……」
ロワの言葉は全てを受け入れるぞと言うかのようにゼルは両手を広げた。――興奮した様子で。
明らかに下心がある様子のゼルに、アリアは苦虫を噛み潰したかのような表情をした。対するロワは「またいつもの発作かぁ」と慣れた様子で説明する。
「あー実はさ、リーダー……ジェイクにマナポーション使いすぎ! 金が飛んでいく!って言われてさ。えーと……節約の為に追放された?」
「な、な、なんだって!? ……どういうことだ奴はロワは精神に負荷がかかって脱退したと聞いたぞいやまて私の欲があいつらにバレていたのかなら私のロワイヤルがパーティから脱退したのも……!」
「? ゼル、何ボソボソ言ってるんだ? よく聞こえない」
「うわ……私のって……きっっっもちわる……あいつの魔力は食べたくない……」
ぶつくさと小声で文句を連ねるゼル。狼の聴覚によって言葉の内容を拾ってしまい不快感に顔を歪めるアリア。ゼルの言葉が聞こえず気の抜けた顔で首をかしげるロワ。
アリアは目の前の不審者から離れた方がいいと気の抜けた顔をしているロワを見て理解し、ロワの腰に抱き着きか弱い少女のような演技をする。
「ロワ、私、あのおじちゃん怖い」
「え? ゼルは怖くないぞ? 今はちょっと……いつもの発作が起きてるだけで普段は頼れる剣士なんだ。というか、アリアちゃんにも怖いのってあるんだ。、ビックリした」
「……私にも怖いと思うものはあるわよ……」
「そこの獣人! なにこそこそロワイヤルと話しているんだ!! しかも何を思って私の目の前で! ロワイヤルの腰に抱き着くんだ!」
「本当に気持ち悪い」
「……アリアちゃん、どこかで待ってる?」
ゼルと初対面であるはずのアリアは、たった数分ゼルの発言を聞いただけで『もう喋らないで。消えて。というかもう二度と私達の前に現れないでほしい』と思ってしまうぐらい強烈な嫌悪感を抱いてしまっていた。
ロワはどうしてアリアはこんなことを言うのだろう? と疑問に思いつつアリアに視線を向けた。そして苦虫を嚙み潰したような表情をしているアリアの顔を見てしまい、ロワは先程の発言を思い返し「アリアちゃんとゼルは合わないんだ」と察した。
アリアはロワの発言に抱き着く腕の力をこめ首を横に振る。
「いや」
「そっか~。ゼルごめん、アリアちゃんの具合が悪そうだから俺達もう行くね」
「待て! それは駄目だ!」
「え? どうして?」
「っ~~! 君は私のモノだろう!?」
「……はい?」
眉を下げ、ロワはこれ以上会話が出来ないことに申し訳ない気持ちを抱きつつゼルから離れようとした。その様子にゼルはロワを引き留めようと焦った様子で本音を発した。――ゼルの言葉にロワの思考は停止した。
「だからあんなにも私に甘い笑顔を向けてくれていたのだろう!? 失敗した私に君は隣に座って『失敗は誰にでもある! 次頑張ろうな!』と励ました……アレは君が私に惚れていたからだろう?!」
「何言ってるんだ? 励ましなんて皆にもしてた、君も知ってるだろ?」
「私は君のような美しいモノを手元に置きたくて、でもあいつらは邪魔をするからあんないたくもない場所にずっといたのに……朝君に会いに行こうとしたら君は脱退したとか言われて……だが実際は追放だったわけだ!!」
「ゼル? 大丈夫か? 一回落ち着いた方が……」
「あの時の私はこれでやっとあんな忌々しいパーティーに居続けずに済むと思って君を探しに来たのに……どうして君はそんな変な獣人と一緒にいるんだ!!? もしかして君が魔法を使ったのはそいつの為か!?」
「アリアちゃんは変なモノじゃないし、あいつらはあいつらなりに考えがあったんだろ。それと話を聞いてて分かったことだけど、昨日の俺の行為をもみ消したのは君だな? それだけは感謝する。あと、俺は君のモノになった覚えはない。やめてくれ」
興奮した様子に早口で語るゼルに、ロワは冷めた表情でゼルを睨みつけた。己を物として扱うならまだしも、アリアを、元パーティ―メンバーを侮辱した。ゼルに敵意を抱くには十分だった。――例え、魔法を使ったというロワの過ちを権力でもみ消してくれた事実があろうとも、ロワはもうゼルと関わる気はない。
ロワの言葉を聞いていたアリアはロワの人相のいい顔の面影は一切ない冷めた表情を見て目を丸くさせる。そして少し悩む素振りを見せたあと、ゼルに向かって口を開く。
「私のとか言っていたけど、ロワに一切見向きもされていないなんてかっわいそう!」
「――なんだと?」
「それにロワは私のモノよ。だって、私達……昨日はあんなことやこんなことをしたのよ。ね? ローワ?」
「昨日? ……ああ! アレか(魔力喰われた&主従契約してしまった)。したね」
「な、んだと!? あんなことやこんなこと!!!?」
アリアはわざとゼルが勘違いしてしまう発言をした。ロワにはアリアの言いたい意味がなんとなくだが理解出来たが、昨日の出来事を見ていないゼルからすればそれはもういけないことをした。としか思わざるを得なかった。
ゼルは衝撃の発言に唖然としてしまいショックでその場で立ち尽くす。時折「け、けがされた……先に……穢された」と何かを言っているが、アリアはその言葉を聞こえないふりをしてロワの腕を強く掴んだ。
「ロワ、今のうちに離れましょ」
「そうしよっか。……さようなら、ゼル。もう二度と俺達の前に現れないでくれ」
敵意のこもった瞳をゼルに向け、二人は街の外へ飛び出した。
「ゆ、るさい……あの娘……! 絶対に、許すものか……!」
正気を取り戻したゼルは顔を歪め、アリアに憎悪を抱いた。