4話 主従契約
「……あ、りあちゃん……?」
ロワが放った拒絶の一言で、アリアは詠唱をやめ、動くこともせず、ぴたりと意思なき人形のようになったかのように突然行動を停止させた。その様子を間近で見てしまったロワは、混乱していた頭の中に更に情報量が追加され、何が何だが分からなかった。
ロワはアリアのことや、今の情報を全く処理出来てないのに、襲われたというのに「アリアちゃんに何があったんだ」と身を案じてしまい、混乱した頭の中心配そうにアリアに声をかける。
「ど、うしたんだ? その口調、それに、女王様って……俺、男だぞ……?」
「女王様は女王様です。それ以上でも、それ以下でもありません。今のアリアは女王様の忠実なる働き蜂です。どうぞ何なりとご命令ください」
従者のように感情のこもっていない声でアリアはロワに向かって説明した。その内容があまりにも唐突で、受け入れることが出来ないロワは怯えた様子でアリアの肩を掴んで懇願する。
「は、働き蜂!? な、何言ってるんだよ!!? 冗談はやめてくれ! 『元に戻ってくれ!』」
「はい。アリアは通常の人格に移行します。――――っ!? あ、なた、今、私に何をしたの!?」
虚ろな瞳に光が宿り、息を吞んだ様子を見せ、意思なき人形から元に戻ったアリアは表情を歪ませロワから距離を取り、敵意を向けた。――敵意を向けたとしても肝心のアリアを人形のような状態にさせたロワは先程の状態に心当たりも、何かした覚えもなく首をかしげるだけ。
「し、知らない! 俺、あんな、魔法なしで洗脳みたいなこと出来ない!」
「じゃあどうして私は貴方の……貴方のモノになったの!? ……嘘、しかもこれ……主従関係結ばれてる? 今の一瞬で……?」
「主従関係!? 俺そんなことしてないぞ!? 何かの間違いなんじゃないのか!?」
苦い表情をし、アリアは己の体を守るように抱きしめた。その様子を見て、ロワは先程襲われていたことなんて忘れてアリアに近づき、彼女の肩を掴んだ。
「ちょっと、何!?」
「せ、責任取るから!!」
「——は、はぁ?!」
「俺、アリアちゃんが望むことなんでも叶える! だって、俺勝手にアリアちゃんとその……契約しちゃったみたいだし」
「あぁ……そっちの責任ね……」
責任という言葉を聞いた百人中百人が勘違いしてしまいそうな台詞をロワはアリアに向かって言い放った。続けて言い放った言葉も合わせ、ロワに下心は一切なく自らの意思でやった訳ではないが、こんな小さな子と契約してしまったという焦りと、アリアへの心配からの出た言葉であった。
アリアはロワの言葉に顔を赤くし、ほんの少し下心を抱き期待したが、ロワに一切下心がないと知ると無表情になり、呆れた様子を見せた。はぁ……とため息をつき、アリアはロワの服を掴む。
「わっ!?」
「じゃあ、責任取ってもらうね。おにーさん? あとから『やっぱりやめる』なんて言わないでね?」
「お、男に二言はない!」
「なら早速……もっと魔力食べさせて? ロワお兄さんの魔力、中毒性があってもっと食べたくなっちゃうの」
「え、いや、それは駄目だ。これ以上血を吸われたら死んじゃう!」
獣のような瞳で凝視され、ロワの背筋に冷や汗が流れる。首を横に振り、両手でアリアを制止させようとする。
アリアは金色に光った目でにっこりと少女がしない魅惑な笑みを浮かべる。その表情にロワは唇を引きつらせ、アリアから離れようとする。——強い力で引き留められ逃げることが出来ない。
「死なない。折角こんな上品な餌、簡単に終わらせるわけないでしょ?」
「ま、待って……せめて時間を……」
「い・た・だ・き・ま・す」
「ま゛――い゛っっっだぁ!!!!!」