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2話 獣人の少女?

(とりあえず……安全そうな宿屋に連れてきたけど――)


 ロワは部屋の前で一人考え込んでいた。今、少女は部屋の中に備え付けられているバスルームに入らせ体を綺麗にさせている。部屋に男がいれば警戒するだろうと思い、ロワは扉の近くで壁に背中を預け、腕組みをしている。

 うーんうーん。と少女にどう接しようか考えていたロワは、あることに気づく。


「ぁ゛――!!?」

「こら! お客さんうるさいよ!!」

「ごめんなさい!!」


 頭を抱え叫んだ瞬間、宿屋の主の怒鳴り声がロワの耳に入った。すかさず謝罪し、ロワはその場に蹲り、ダラダラと冷や汗を流す。


(街中で、魔法、使っちゃった〜〜!!!! やばい! 冒険者の資格剥奪される!? え!? ここで俺の冒険は終わり!!!?)


 冒険者ギルドにはとある決まりがある。

 街中で武器を使ってはいけない。魔物がいないのに街中で武器を使えば住民に被害が出る場合がある。もし魔物がいないのに武器を使用すれば、冒険者の資格を剥奪する。それは、任務を受けることも、誰かのパーティーに入ることも出来ない冒険者なら誰もが避けたい自体であった。

 ロワは助けるために咄嗟に魔法を使ってしまった。魔法を使わずに割り込んで、少女を連れ出すか、男を落ち着かせれば解決したことを、わざわざ使う必要のない魔法を使って助け出した。いくら考えても弁明のしようがない。ロワは目をぎゅっと閉じ、首を激しく横に降った。


(俺の馬鹿!! 俺のやったことって、カッとなって気づいたら殺ってました。と同じだ!!! うわあああ最悪だぁ! やってしまった! やって、しまったー!!!!)


「……あの、入らないの? ――何してるの」


 自責しているロワの耳に、助けた少女の声が聞こえた。

 慌てて顔を上げると、桃色の長い髪を持つ少女が不審なモノを見るかのようにロワを凝視していた。

 

「っ――! え、あ……き、気にしないで! ま、待って、入る! 入るから閉めないで!」


 警戒されたまま会話が出来なくなるのは困るので、ロワは焦った様子で部屋の中に入った。

 中に入り、ロワは少女の肩を掴んで具合を聞こうとして――痛めつけられていた光景を思いだし、掴むのをやめた。


「ぐ、具合はどう? 痛いところは?」

「……ない」

「そ、そうか、よかった……。あ! お腹減ってたりする? 俺、ご飯貰ってくるよ!」

「……今は空いてない」

「そ、そうか…………」


(か、会話が、続かない!!! け、警戒されてる……えーとえーと……)


 少女の会話が続かず、気まずい空気が部屋に充満していく。ロワはなんとか警戒心を解いてもらおうと必死に思考を巡らせる。


「そういえば自己紹介がまだだったな! 俺はロワイヤル! 皆からはロワって呼ばれてるんだ。だから君もロワって呼んでくれ!」

「…………」

「怖がることはないぞ! 俺は優しい魔術師のお兄さんだ! すっごく強いんだぞ!」

「………………」


(だめそう)


 会話さえもしてもらえず、ロワは悲しそうな顔をした。そして会話をしない少女に「もしかしたら、今は気持ちの整理がしたいのか?」と思い至る。そうと決まればロワが言うことは一つ。


「俺、外に出てるから、何かあったら呼んでくれ」

「……だめ、ここにいて」

「へ?」


 悲痛な少女の声に、ロワは一瞬思考が停止した。唖然とし、少女の顔を見る。少女は今にも泣きだしてしまいそうな顔をしており、ロワは扉に向けていた手を降ろし、少女と目線が合うように座わる。


「……ひとりは、やだ」

「分かった。お兄さん、ここにいるね」


 ロワは泣きそうな少女を安心させようと優しい口調で語りかけた。ロワの言葉に、少女は何も言わなかったが、こくりと頷いた。その姿を見て、ロワは「少しは警戒を解いてくれたんだ」と安堵した。

 少女からここにいるように言われたロワは、外に出るわけにもいかないので、まだ中身を確認していない道具袋を見ることにした。

 

「なんかいっぱいある」


 追放されたにしては、ロワの為になる道具ばかり入っており、追放理由のマナポーションも大量に入っていた。


「……ありがとう」


 なんだかんだ5年も世話になったパーティーの皆にロワは心からの感謝を告げた。

 ふにゃり、と子供のような、だけども美しさもある笑み。その横顔を少女は目撃していた。


「……」


 ゴクリ――少女の喉が鳴り、桃色の目が一瞬金色に変化した。道具に夢中なロワは少女の異変にまだ、気づけない。

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