15話 動揺/恐怖
『僕の髪は、金色なんだもん』
知らないはずの記憶が、言った覚えがない記憶がロワの脳裏によぎりこびりついた。たらりと汗が流れ落ち、バクバクと心臓が激しく音を立てているのを感じ取る。思わず自身の髪をぐしゃりと握り視界に映るようにする。――青色だ。インナーカラーは変わらず黒。
(金色って、なに)
分からない。理解不能。理解したくない――動揺がロワの心をかき乱し、彼を不安定にさせていく。
(記憶操作って、なに。もしかして、俺は、今まで、ずっと)
自分の記憶は改竄されていたのでは? ロワは今までの人生で時たま仲間の様子が可笑しくなっていたことを思い出す。ロワが問いかけても「気にしなくていい」と教えてくれなかった仲間達。彼らは知っていたのではないか? 自分の記憶が改竄されていたことに。ならば何故――
(なんで、みんな言ってくれなかったんだ? なんで? どうして? 教えてくれなかったんだ?)
ぐるぐると思考が負の方向へと向かっていく。動揺している今のロワには教えられても記憶が改竄され、教えられていないことになっている、という可能性を考えることが出来ない。「教えてくれなかったんだ!」と思い込むことしか出来ない。
じり……。ロワはその場からゆっくり後ずさっていく。ぐちゃぐちゃに乱れてしまった思考では正しい判断がつかず、目の前の二人が、アリアが信用出来ない。普段のロワではそんなことは思わない。冷静な判断が出来なくなった弊害が”信用出来ない”という最悪な結論が出てしまった。
「――ロワ?」
「っ……!!」
「は、えっ、ロワ!? ちょっとどこに行くの?!?」
異変に気づいたアリアがロワを視界に入れ名を呼んだと同時に、ロワの意識は恐怖に支配されてしまい、部屋から飛び出してしまった。
(???? なん、なんで、なに、なにが、どうして、おれ、おれは、どこまでが、ほんとうなんだ?)
分からない。分からない。分からない――ロワは目的なくただ走り続けた。逃げなくては。どこへ? どこかへ。どうして? 怖いから。まるで子供のような思考でロワは走り続け、誰かにぶつかる。
「ぅあっ!?」
「い゛ってぇなぁ!! どこ見て走ってん……ぁ?」
「ひっ……!!」
「あれぇ? この顔って……」
「君、ロワイヤル?」
「……? だ、れ」
怒鳴る男の声に怯え思わずロワは目を閉じてしまう。だが次に聞こえた自身の名を呼ぶ声に恐る恐る目を開いた。視界に写るは紙とロワを見比べている三人の男。彼らは紙とロワを二度見比べてから嬉しそうに笑みを浮かべた。
「見つかったぁ!!!」
「まさかウィズダムに来てたとはなァ……道理であそこで探しても見つからねェーわけだわ」
「ウィズダムに来ててよかった〜。じゃあロワイヤル。私達と一緒にきてくれるかな?」
「え? なに、君、たちは」
(誰、誰なんだ、わからない、こわい。……もしかし、たら、しってる、かもしれない? 記憶が消されてるなら、俺はこの人達を知ってるんじゃ……)
笑顔を浮かべ手を差し伸べる男達にロワは必死に思考を巡らせ考えた。
明らかに不審な彼らに普段ならば警戒するが、今は「記憶が改竄されているのかも」という前提がロワの脳にこびりついてしまったせいで警戒することができない。こくりと頷き彼らの手を取ろうとして――
(――あれ)
ロワは気づく。どうして今の記憶は改竄されないんだろう――と。今までもそうならば、今回も改竄されるのでは? と思ってしまった。実際今、ロワが何かを忘れてしまったような感覚は一切なく、思わず逃げ出してしまったあとから記憶はなんら変わりない。
疑問が現れ疑問を解消する為に意識が冷静になっていく。このまま名も知らない彼らにそう簡単についていってはいけないのでは。と危機感が今になって湧き出す。
ぷしゅーっ。
「ぇ――?」
悲しきかな。危機感を抱いたところで時すでに遅し。一人がロワに向かって何かのスプレーを発射した。まずいと思ったと同時にスプレーの中身を吸ってしまい、恐ろしい程の眠気がロワに襲いかかってくる。
「ぁ、ぅ……?」
(なんで?)
意識を保とうとするが、強烈な眠気に抗うことができず、ロワは意識を手放した。




