14話 幸せを呼ぶ子
「いつになったら貴様等はロワイヤルを私の元に連れてくる気だ?!」
「も、申し訳ありません……!!」
ロワが追放される原因となったゼルは怒りを顕わに、ロワを捕らえる為にわざわざ部下を呼び出し、ロワを捕らえようと差し向けていたのだが、三週間前に宿屋で逃がしてから一向にロワの姿はなく、同時に彼と同行していた少女の姿を見失った。
二人を見失った彼らは口を揃えて言った「幸せな感覚に浸ってたら気づけば二人が消えていた」と。それ以上の情報をゼルは得ることが出来ず、少女が部下に何かをしたと思い込んだ。——実際はロワが女王の力を使用したのだが、今のゼルにその情報を知ることは出来るはずもなく。
「必ず見つけだし、私の元に連れて来い。次はない」
「は、はいぃぃ!!!」
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いつから様々なモノに好かれてのがいつからか思い出せない、思い出すことが出来ずロワは動揺していた。何度も記憶を遡り思い出そうとするが霧がかかったかのように思い出すことが出来ず、それどころか「過去を覚えていないことはおかしなことではない。気にしてはいけない」という認識がロワの思考を阻んだ。
(——アレ、俺、今何をしていたんだっけ?)
「……二人とも、どうしてそんな顔をしてるんだ?」
思い込んでしまえば。認識してしまえばもう手遅れ。ロワは先程まで己が何を考えていたのか、何を言われたのか忘れてしまった。最初からそんな話はなかったかのように。「分からない」と口にしてから黙り込んだロワをアリアは心配そうな顔で、ヴァルトは何か思う所があるのか考える仕草を見せ視線を送っていた。その二人の視線に気づいたロワは動揺していたことなぞ忘れ、不思議そうな顔で声をかけた。
「そんな顔もするわよ、どういうこと? 分からないって」
「??? 何の話???」
「? さっき聞かれたでしょ?」
「??? 何を??」
「????」
様子がおかしいロワに疑問を抱くアリアに、アリアの言葉の意味が理解出来ず首を傾げ疑問を抱くロワ。またもや気まずい雰囲気が辺りを包み込む。そんな中平然を保っているように見えるヴァルトがロワに向かって口を開く。
「ロワイヤル。オマエ今どこまで覚えている?」
「へ? 何でそんなこと聞くんだ……ですか?」
「いいから答えろ」
「え~~~っと……」
疑問ばかりが頭の中を埋め尽くす。ロワは困惑した様子を見せながらもヴァルトの疑問に答えた。「ヴァルトが資料を持ってきた所まで」と。その言葉を口にした途端二人の様子が一変した。混困惑していた様子から一瞬で真剣な眼差しへと代わり、アリアとヴァルトは互いに目配せした。
ただ一人だけ何も理解できていない、記憶が消えていることに気づいていないロワは「何かしてしまったのか?」と焦りを感じてしまう。
「はぁ……幸運だったな。丁度オマエの異変に関する情報があって」
「え?」
「——そう、どうしてどこまで覚えているって聞いたのか分からなかったけど、あるのね」
「ある。この『蜂の魔物』にな」
机に置いた資料をぺらぺらと捲り、目的のページを見つけたヴァルトは二人に見せやすいように資料を見せた。そこには『アピスの力について』の項目と以下の詳細が書かれてあった。
『アピスの力について』
・他者を己の僕。以下働き蜂にすることが可能。
・アピスの所有物、または働き蜂に対し記憶操作、記憶改変が可能。
・レギーナ・ヴェスパには他者、魔物を誘惑するフェロモンが搭載。
「女王様、働き蜂、記憶操作、改変……フェロモン。――そういうこと。……それにしてもアピス、レギーナ・ヴェスパね、こんな種族がいたなんて知らない。ねぇヴァルト、これ以外に他の情報はないの?」
「――これだ」
資料に目を通し納得した様子を見せるアリアはヴァルトに他の情報について問いかけた。彼女がそういうであろうと先に予知していたヴァルトは、迷うことなくアリアにもう一つの資料を見せた。
『アピス』
・■■■■年に誕生した蜂の魔物。
・同族で行動し■■■■を住処に日々■■している。
・蜂の姿をしているが■■。食料は主に■■となっている。
所々の文字が何かで黒塗りされ情報を正しく識別出来ない。だがそれでも、ろくなことは書いていないのだろうとアリアは思った。
「――」
二人の視線が資料に向けられてせいで、彼らは異変に気づかない。ロワの異変に。
ロワは資料に書かれていたある一文に目を引かれていた。その一文に妙に惹かれ、同時に激しい頭痛がした。――その一文は。
・■■が■■として迎え入れられ、■■■■年にレギーナ・ヴェスパが■■■■、■■■■■を出産。
『ねぇ、お母さん』
『? どうしたの? ロワイヤル』
『お母さん、お母さんとお父さんは本当に僕のお母さんとお父さんなの?』
『……どうしてそう思ったの?』
『だってお母さんとお父さん、髪の色が茶色なのに――』
僕の髪は――金色なんだもん。
青髪青目のロワの瞳が、ほんの微かに金色に光った。