13話 フェロモン
「ぴぃ。ぴっ!」
「かわいい!!」
「……」
ヴァルトが地下に降りてから数分が経過した。未だ戻ってこないヴァルトをよそにロワは「レトワール」と名付けられた小鳥にメロメロになっていた。笑顔を浮かべ、レトワールの行動一つ一つに歓喜の悲鳴を上げているロワ、そしてレトワールをアリアはじっと見ていた。彼女の顔は何を考えているか全く読み取ることが出来ない。ただじっと一人と一匹を凝視していた。
二人と一匹。会話という会話がない空間。時間だけがすぎていく。――それから数分が経ち、ヴァルトの声が耳に入る。
「戻った」
「おかえりなさいヴァルトさん! レトワールちゃんかわいいですね!!」
「いきなりなんだ? だが見る目があるな。レトワールはかわいい。当たり前のことだ」
「滅茶苦茶可愛い! あと凄く毛がふわふわして気持ちいい」
「手入れは怠らない。カノジョは綺麗好きだからな。毎朝ボクが手入れをしている」
「レトワールちゃんのこと好きなんだな!」
「こらそこ、惚気はあとにしてくれる? ――それでヴァルト、何か見つかった?」
地下から戻ってきたヴァルトはロワの発言に困惑した素振りを見せたものの、恥ずかしがる様子も見せずもレトワールの可愛さに同意した。そんな彼の腕には分厚い紙。
たった数週間とはいえロワと生活し彼の性格をなんとなく理解していたアリアは、今止めなければずっと別の話をするだろうと予測し、ヴァルトに提示した『”蜂”の魔物』『洗脳が可能な魔物』『ひし形の神』の情報があるかを、二人の会話に割り込むような形で問いかけた。その問いかけにヴァルトは交互に二人を見てからごほんと気持ちを入れ替えるかのようにせき込み、少し眉を下げ少しの間を置いてから口を開く。
「あるけどない」
「――――は???」
「あるけど……ない……? どういうことだ?」
「ひし形の神とやら以外の情報は見つかったが……蜂の魔物に関する記録が一部消されている」
「詳しく教えて」
「そういうだろうと思って資料をもってきた」
そういいヴァルトは机に持っていた分厚い紙――資料を置いた。そしてため息をつきロワに視線を向ける。
「ロワイヤルとやら、その匂いどうにかならないか。さっきから気になって気になって気分が落ち着かない」
「へ? 匂い?」
「…………無自覚か。質が悪い。サキュバス、教えてなかったのか?」
「……おぴぃ。ぴっ!」
「かわいい!!」
「……」
ヴァルトが地下に降りてから数分が経過した。未だ戻ってこないヴァルトをよそにロワは「レトワール」と名付けられた小鳥にメロメロになっていた。笑顔を浮かべ、レトワールの行動一つ一つに歓喜の悲鳴を上げているロワ、そしてレトワールをアリアはじっと見ていた。彼女の顔は何を考えているか全く読み取ることが出来ない。ただじっと一人と一匹を凝視していた。
二人と一匹。会話という会話がない空間。時間だけがすぎていく。――それから数分が経ち、ヴァルトの声が耳に入る。
「戻った」
「おかえりなさいヴァルトさん! レトワールちゃんかわいいですね!!」
「いきなりなんだ? だが見る目があるな。レトワールはかわいい。当たり前のことだ」
「滅茶苦茶可愛い! あと凄く毛がふわふわして気持ちいい」
「手入れは怠らない。カノジョは綺麗好きだからな。毎朝ボクが手入れをしている」
「レトワールちゃんのこと好きなんだな!」
「こらそこ、惚気はあとにしてくれる? ――それでヴァルト、何か見つかった?」
地下から戻ってきたヴァルトはロワの発言に困惑した素振りを見せたものの、恥ずかしがる様子も見せずもレトワールの可愛さに同意した。そんな彼の腕には分厚い紙。
たった数週間とはいえロワと生活し彼の性格をなんとなく理解していたアリアは、今止めなければずっと別の話をするだろうと予測し、ヴァルトに提示した『”蜂”の魔物』『洗脳が可能な魔物』『ひし形の神』の情報があるかを、二人の会話に割り込むような形で問いかけた。その問いかけにヴァルトは交互に二人を見てからごほんと気持ちを入れ替えるかのようにせき込み、少し眉を下げ少しの間を置いてから口を開く。
「あるけどない」
「――――は???」
「あるけど……ない……? どういうことだ?」
「ひし形の神とやら以外の情報は見つかったが……蜂の魔物に関する記録が一部消されている」
「詳しく教えて」
「そういうだろうと思って資料をもってきた」
そういいヴァルトは机に持っていた分厚い紙――資料を置いた。そしてため息をつきロワに視線を向ける。
「ロワイヤルとやら、その匂いどうにかならないか。さっきから気になって気になって気分が落ち着かない」
「や、やっぱり俺、なんかにおってる???」
「…………気づいてないのか。質が悪い。サキュバス、教えてなかったのか?」
「そのことも含めて貴方に会いに来たのよ」
「は? ……いやそこはどうでもいい。教えてなかったのかと聞いている」
「教えてないわね」
「ボクの見る限りだとそいつは甘い匂いを垂れ流してるだけのニンゲンだ。襲われたら全てを喰らわれて死ぬぞ」
「えっ」
「はぁ? よその魔物にこの子をやるわけないでしょ? この子は私の獲物よ??? 匂いを教えなかったのは————色々ありすぎてついさっきまで忘れてた」
「……正気か?」
「…………正気よ」
「……………………」
ロワのことで話し合い沈黙が辺りを包み込む。何も分からない気まずさしかないロワ、知っていながら移動や魔法を上手く扱う為の指摘やウィズダムへの移動で頭の隅に追いやっていたアリア、アリアの言葉全てに「正気かオマエ」と信じられないような目で見るヴァルト。——そんな気まずい空気をヴァルトがアリアの頭を強く叩くことで破った。
「いっっった!!!!」
「ロワイヤルとやら、この馬鹿サキュバスが言わなかったから言うが、オマエ香水か何かつけてるか? 魔物寄せの物とか」
「つけてないけど……」
「だろうな。なら言ってやる。オマエ、フェロモン放ってるぞ」
「――――ふぇろもん???????」
「魔物、そしてニンゲンにも有効なフェロモンがな。オマエ妙にニンゲンに好かれないか? 魔物でもいい」
「い、われて、みれば……好かれ、やすいかも……」
「いつからだ?」
「……いつ、から……? 確か……た、しか…………?」
痛みに呻くアリアを無視し、ヴァルトはロワに両肩に手を置き切羽詰まったような様子を見せロワに問いかけた。問いかけられた当の本人ことロワは、言われた通り物心ついた頃からの記憶を思い出し——ぞっと顔を青ざめさせた。そしてヴァルトとアリアの顔を見て、混乱したような表情で弱々しく呟いた。
「いつ、からだっけ…………?」
分からない——と。