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魔王軍の襲撃

このページを開いていただいてありがとうございます!! それだけでとてつもなく嬉しいです。更新不定期、誰かに見ていただいて評価してもらえるだけでモチベになる単純人間が書いた自己満の文字文字です。よかったら読んでいただけると嬉しい限り。

「――――襲撃(しゅうげき)だ!!」

「――――なんだって!? まさか……魔王軍(まおうぐん)が?」

魔物(モンスター)が来るぞ――!!」


 白い大地と村の家々が赤く染まっていた。本当に来てしまったんだ。


 村の人たちはみな口を揃えて言っていた。こんな北の大地に魔王軍が来るはずはないと。

 村の子どもたちは真っ先に村の地下に避難させられた。俺もその一人だ。きっと今も上で人類軍と魔王軍の戦いが繰り広げられていることだろう。


「大丈夫だよね、私たち」


 耳元が小さく震える。隣で一緒に座っている幼馴染のココネだ。


「きっと大丈夫だ。きっと、《勇者》様が救ってくれるから」


 それ以上の言葉はなく、少しだけ首を縦に振ったココネ。

 しかし、ひと時の静寂は一瞬にして打ち切られた。


「扉が……扉が壊れる!!」


 村長の家の中にあった隠し扉から俺たちは地下に逃げ込んできたはずだ。なぜ居場所がわかったのか。いや、そんなことを考えている場合じゃない。考えれば考える程時間は経過し、扉を叩く音がどんどん強まっていく。


 そして何もできないまま、その時が来てしまった。


 声にならない絶叫が頭の中で響き渡る。腰が抜けてしまい、部屋の壁に背中を置くことしかできない。


――――グォオオァアアア…………


 人の姿をしているが、形状がおかしい。皮膚がただれているだけではなく、肉そのものが今にも溶けて落ちてしまいそうだ。低く唸る声も、もはや人語ではない。


「《ゾンビ》ってやつか……おとぎ話は本当だったんだ」


 地下の部屋が子どもたちの絶叫に包まれる。ゾンビは一体だけじゃない。次から次へと部屋の中へ入ってくる。


「イヤ……いやあああああッ!!!!」


 一人、またひとり。地獄があるとするならば、こんな景色が永遠に続いているのだろうか。

 死と恐怖。最後列にいた俺も、アレに喰われてしまうのだ。


 これが戦争というやつなのか。人の命に手をかけ、ましてや命を兵器にして殺し合いをさせるなんて。理不尽。クソだ。どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ。だったら最初から生きてなきゃ、生まれてこなければ――――。


 目を閉じていた。だから、その一瞬で起きたことに気付くのが遅れた。


「――――ワシの家族に何をしとるんじゃああああっ!!」


 激しい怒号と何かがぶつかる音で、俺の意識は現実に戻ってきた。まだ、生きている。

 ゾンビの群れに生身で突撃し、俺たちの目の前に現れたのは、村長にして俺の師匠でもあるシュウレンじいさんだ。


「待たせたな子どもたち。ワシが来たからにはこれ以上は死なせんぞっ!!」


 腰に提げていた鞘に納められた刀を引き抜いたシュウレンは、ゾンビの方へ刃を向けて構える。刀を目の前に構え、片足を大きく後ろに下げて構える姿勢。稽古で何度も見てきたその技を、俺は知っている。


「「――――《秘剣・穿雷斬》!!」」


 稲妻の如き速さで、目の前にいたはずのシュウレンが再び扉の方に立っていた。刀を振る動作もほとんど見えなかったが、たった一薙ぎでゾンビの群れは消滅していた。


「ここはもう危険じゃ。人類軍が前線を維持している内に逃げるんじゃ!」


 シュウレンの言葉に従いなんとか体を起こしたが、もうすでにわけがわからない。来るはずのない魔王軍の襲来、実在していた魔物の数々。パニックで気がおかしくなりそうだ。


 村長の家を出ると、世界はすでに俺の知っているものではなくなっていた。真っ暗に輝く小さな星々は消え去り、空は赤く血の色に染まっている。とっくに村は村としての機能を失っていて、人の姿もない。焦げた臭いだけが今は俺の脳を刺激している。


 どうせ逃げ切れないのだ。こんな北の大地ではまともに食糧を得られず餓死するだけだ。絶望に満ちた世界で生きて、何が良いというのだ。


 ぽっかりと空いた心の穴で空を見続ける。足だけは勝手に動くから、疲れは気にならなかった。


「あれは…………」


 きらり、と一瞬何かが光った。流れ星のような何かが。

 刹那、再び世界は震え出した。この村よりも更に北の地で一本の巨大な光の柱が出現し、瞬く間に大きくなっていく――――。


「…………《勇者》様だ」


 光の柱はまるで天から降り注ぐ太陽の光のようだった。子どもの俺でもわかる。あれは《勇者》様が起こした奇跡なのだ。


 赤い空が晴れていき、晴れたところから更に光が降り注いでいる。おそらくその先にいるのは魔王軍あるいは、魔王その人かもしれない。


 とても美しかった。その神々しさは、奇跡の実在と僅かな恐怖心で大きく心を揺れ動かす。


「バカモンッ!! 足を止めるんじゃな――――」


 こちらを見ながら目を大きく開いたシュウレンの顔が映る。しかし、じいさんの言う言葉が途中で切れてしまった。



 なんだって? もう一回言ってくれ――――


 あれ?


 声が出ない。


 首元が雪よりも冷たく感じる。


 気付けば目の前に映る景色は真横になっていた。やっとの思いで顔を持ち上げると、どうやら俺のすぐ後ろにゾンビが追いかけてきていたらしい。稽古の時、ぼーっとしていたところをシュウレンじいさんに一発入れられて悶絶してたこともあったな。


 どうせ生きていてもしょうがない。静かに眠ろう。もはや降り積もった雪ですら羽毛布団のように感じる。心地良い感覚だ。ああでも、ココネだけが心配だ。あいつ、あんまり村で友達作れてなかったから。


 それもまあ、シュウレンじいさんがいれば大丈夫だろう。なんたって村長にして北の大地最強の秘剣使いシュウレンなのだから。


 心臓が激しく鼓動を続けている。血の流れや筋肉の収縮ですらも今は全身で感じられる。




 ……道草を食いながらでも、あの世には逝けるよな。

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