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かつて救世の勇者転生、あるいはいずれ滅世の魔王降臨 ~王立学院の呪眼能力者~  作者: Sin Guilty


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第58話 『狩猟祭』②

◇◆◇◆◇


「ユージィン、どうすんだよこれ」


「なにがだい?」


 シャルロット――当然王立学院生としてではなく、エシュリア王家の王女として狩猟際に参加している――の背後に特例近衛扱いで控えている俺が、同じ立場で隣に立っているユージィンに小声で問いただす。


 例年『狩猟祭(ウェナティオ)』では王立学院の成績優秀者たちが国の代表として選出され、他の参加国と模擬戦を行ってその優劣を競うことになっている。冠となっているからにはもちろん狩猟も行われるが、そっちはお飾りで模擬戦こそが重視されている。いやいた。


 その模擬戦ですら近年ではお飾りに堕しつつあるのだ。


 俺が『狩猟際』への参加を最優先とし、楽しみにしていたのはそれが最大の理由である。


 ここ数年、というよりも俺が生まれる前からもうずっと主催国であるエシュリア王国(我が国)は狩りはともかく模擬戦の戦績では他の参加国に後れを取っており、自分が王立学院生になった暁には他国のハナをあかせてやろうと、幼い頃からずっと企んでいたのだ。


 各国のお偉方が嫌味の応酬をするだけなら別の場を設ければいい。

 周辺諸国がおいそれと我が国に嫌味など言えない状況を、この俺が創り上げてやると息巻いていたわけである。


 今年王立学院に入学し、やっと念願かなって満を持して参加しているのだ。


 だが。


「とぼけんな。俺が知っている『狩猟際』は、エシュリア王国(ウチ)主催、参加国はコリテオール王国(金満)ロシヴェル王国(剣バカ)スヴェン都市連合(魔法バカ)リュエス皇国(宗教怖い)の5カ国で開催なんだが?」


 涼しい顔で空っとぼけてやがるが、さすがにそれなりに付き合いも長くなってきているので、ユージィンとてそれなりに戸惑っていることはわかっている。

 今年に限って従来の周辺4か国以外の参加国があったことは、ユージィンにとっても想定外であったのは確定的に明らかである。


 ちなみにまだ一年生ではあるものの俺とユージィン、それにシャルロットとクロードが本気を出せば、王立学院の代表に選ばれることなど造作もなかった。

 よって模擬戦はパーティー単位で行われるので基本的に代表は6人選出されるのだが、今年度のエシュリア王国代表は俺たち4人で登録されている。


 なぜ5人ではないかと言えば、急遽編入が決まった我が妹君(スフィア)は「今年度開始時に王立学院生であること」という規則(ルール)に抵触し、代表どころか『狩猟際』そのものに参加することも出来なくて、大変ぶんむくれておられたからだ。

 まあユージィンの姉君であるクリスティナさんと一緒に、シャルロット王女殿下の侍女扱いでこの場には来られているので、そこまで本気で拗ねているわけではないだろう。


 そうであってくれ。


 ともかく。


「どうして3大強国+αが今年から急に参加しているのかって?」


 そうそれだ。


 しかも今現エシュリア王陛下、王太子殿下に続いて、なぜか一番丁寧にシャルロット(王女殿下)に挨拶しているのは、大陸三大強国のひとつとして名高い大陸南方の雄、シーズ帝国の皇太子その人なのである。

 すでに大陸東方の神聖ヴァリス教国の教皇子、大陸西方のフェニキア経済団体連合会の総統令息による挨拶は(つつが)なく済まされている。

 

 いずれ劣らぬ超大国である以上、本来開催国(我が国)は挨拶の順番にも相当に気を使わねばならないはずだが、当の超大国(ゲスト)の代表同士が「東西南北順でよろしいのでは」「はははそうですな」などと(ほが)らかに決めてしまったので、誰も口出しなどできなかった結果だ。


 今の彼らにとっては、挨拶の順番など些事でしかないらしい。


「そうだよ。それも三大強国全部、王族級……というか正統後継者(次代のトップ)が参加って無茶苦茶じゃねえか。見ろ、コリテオール王国の公爵家三男殿……名前なんだったっけ? 顔色真っ白になっちまってるじゃねえか。いやもはや白を通り越して、人がしていい顔色じゃなくなってきてないか?」


 しかもその代表たちはみな、その超大国の次代を担うと決まっている者ばかりと来ている。


 挨拶の順番などで揉めるようなケツの穴の小さいところを絶対に見せるな、と指示できる立場の者が代表となっているので、まあ代表団のみなさまは世間的には格下でしかないエシュリア王国に対して礼儀正しいことこの上ない。


 ちなみに俺はわけあって、その代表たち全員と既に顔見知りではある。


 だが全員が俺の本音をすでに知っているので、公的には「成績優秀者ゆえに狩猟祭の時だけ特別に近衛扱いされている王立学院生」でしかない俺に、この場で話しかけてきたりはしていない。


 この後、非公式かつ周囲の目が無くなった場合はその限りではないのだろうが。


 だがそんな裏の事情を知らない、知らされていない本来の参加国の代表団の皆様は文字通り顔面蒼白である。


 せいぜい中規模国家でしかない大陸中央に位置するエシュリア周辺諸国など、三大強国の逆鱗に触れれば簡単に消し飛ばされてしまうことからは逃れられない。それこそ国の名は残っても、現体制は容赦なく根こそぎ入れ替えられてしまうことになるだろう。


 たとえそこまではいかなくとも、この三大強国のたった一つからでも「あの国は如何なものか」的な風評を流されるだけでも、国交とういう観点では致命傷を被ることになるのは間違いない。どの国家も超が付く大国の機嫌を損ないかねない交流、貿易など自ら進んでやるはずがないのだから。


 それほどの影響力を有している大国の後継者たちが、どう見ても格上の国に対する礼を以ってエシュリア王国に接している。その現実を目の当たりにした、すでに数十年に渡って無礼を働くことこそが国益だと勘違いしていた周辺諸国があたふたしてしまうのも無理はあるまい。


 ――これ、シャルロットと歳の近い未婚者ではなく、みなすでに結婚をしている後継者たちを代表に選んだのは、たぶん俺に気を使ってくれているんだろうなあ……


 なぜならばすでに彼らは「俺のお相手」候補としてシャルロットを認識しているからだ。

 下手に自国の未婚男性を代表にして、俺やユージィンに要らぬ誤解を与えたくはないのだろう。


 仲よくしようとしてくれているのはありがたい限りではある。

 だけどこれ、シャルロット的には退路を断たれているというか、すでに既成事実化されてしまっているのは申し訳ないとしか言えない。


 たとえそれが本人の望むところだとしても、間違いなくそれは恋などという甘酸っぱい理由からではないからなあ……これからの3年間でどうにかそれに近い感情を持ってもらえるかどうかは、俺の努力次第といったところだろう。

 まるで十代の子供のように「気持ち(ココロ)()欲しいんだ」などと気持ち悪いことを思っているのが俺本人である以上、自助努力するしかあるまい。


「いい気味じゃない?」


「うん、俺もそこは否定しない」


 さておき、聞けばそのシャルロットに例年クッソ失礼な婚姻話を持ち込んでは「断られるとは心外ですなあ」、などと(のたま)っていた周辺諸国が狼狽えているのはざまあみろとしか思えない。


 俺は別に聖人君子ではなく、清廉潔白な救世主たらんとしているわけではないので悪しからずである。エシュリア王国で生まれ育ったからには人並みの愛国心は持ち合わせているし、その視点で見れば度し難い隣国というものはどうしても生まれてしまうのだ。


 特にコリテオール王国、お前らだよ。


 エシュリア王国(自分たち)の見解がすべて正しいなどというつもりなど毛頭ないが、今まで強い立場がゆえに言いたい放題言っていたことをそのまま返してやるから覚悟しとけよ。正しいからではない、強いからこそ今後お前らがエシュリア王国にしてきたこと全てが「悪」と見做されることになる理不尽さを思い知るがいい。

 ついでに国内でその手先になっていた者たちもすべて特定してやるつもりだ。


 自業を自得し、ざまを見るがよろしい。


 救世主とやらが救うのは自分にとって大事な世界だけで、そうでなければそれは「救うべき世界」に含まれないのは思えば当然だよな。

 要は生き残った、数に入れられた(救われた)者たちが史実とやらをつくるので、救世主サマは例外なく博愛の人として記されるに過ぎない。救われた者にとっては嘘偽りなく博愛なのだ、見捨てられた者たちは歴史から消されるだけである。


 それに今年の王配候補者気取りの連中がお国の事情に巻き込まれているだけなら友人になれたかもしれないが、そもそもシャルロットよりも歳上過ぎるし、事前に集めた情報からろくでもない連中だと知れているので、もはやそんなつもりなどない。


 三大強国の次世代たちがこっちの機嫌を取るために、態度と言葉の双方で周辺諸国の自称婚約者候補たちをどれだけ小突き回しても静観させていただく所存である。本来けしかけたくなる側の俺がみていてもかなり厳しく、容赦がなくてもだ。


 助けてほしくば、シャルロットが俺にそう頼みたくなる行動をとるがいい。


本日2/27(木) 筆者の別作「その冒険者、取り扱い注意」のコミカライズ10巻がKADOKAWA様より発売です。何卒よろしくお願い致します。

また同じく著者の別作品「怪物たちを統べるモノ」の書籍版5巻が2/19(水)よりHJノベルス様から発売されております。そちらも何卒よろしくお願いします。

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