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悪女な恋のキューピットですわ

「シーラ、お昼に行こうか」


「ええ、ジェームズ、お昼に参りましょう」


 昼休憩の時間とになり、いつものように食堂へと向かうシーラとジェームズ。


 人見知りなジェームズは男の子達と多少の会話をして見せるが、基本シーラにベッタリ、隣の席という事も相まって二人はいつも一緒に過ごしている。


 安定のシーラの横。

 怖い者など逃げて行く、ジェームズが一番落ち着く場所だ。


「あら、エブリンではなくって?」


 珍しくシーラが同級生の女の子に声を掛けた。

 シーラには(女)友達などいないと思っていたジェームズは驚くが、シーラはどこ吹く風である。


 シーラが声を掛けた女の子はレイヨウ侯爵家のご令嬢。

 ズーラウンド王国では侯爵家の数は少ないため、令嬢が苦手なジェームズでも知っている女の子だった。


「シ、シ、シぃーラ、ご、ごきげんよう。いまぁからぁ、お、お昼なのぅ?」


 レイヨウ侯爵家のご令嬢は人見知りなのか、シーラの横にジェームズが居る事に気が付くと、顔を真っ赤にして返事の声も上擦いてしまった。


 なんだか昔の自分のようでちょっとだけ親近感がわく。

 女の子が苦手なジェームスだけど、エブリンには嫌な感じはしなかった。


「ええ、そうよ、バード家のジェームズとモンキナ家のサイラスと一緒にお昼なの。エブリンも良かったら一緒にどうかしら?だって私達は親友でしょう?久し振りにランチを取りながら学園での話でも楽しみましょうよ」

「ええ……そうね……えっと……あの、でも……」


 最初はシーラに女の子の友達がいたことに驚いていたジェームズだったが、二人の会話を聞き本当に仲がいいのだと納得をする。


 それに最近はシーラと学園以外で会うことも少なくなったため、エブリンとは女の子のお茶会で知り合ったのかなとそんな考えが浮かんでいた。


 それに何よりも顔を赤らめ自分を見つめる少女(エブリン)には、尚更近視感が湧いた。幼い頃の自分のようだったからだ。


(ああ、この子も酷い人見知りなんだなぁ~)


 そう思ったジェームズはシーラに提案をした。


「じゃあ、シーラ、僕は今日はサイラスと二人でお昼を摂るよ」


 そう言って先へと進もうとした瞬間、目にもとまらぬ速さでシーラの扇がジェームズを止めた。


「ジェームズ、お待ちになって、貴方にも大事な話があるの、絶対にお昼を一緒に摂りますわよ」

「え、でも……」


 チラリとレイヨウ侯爵家のご令嬢エブリンを見れば赤い顔で俯いてしまっている。

 これはどう考えても自分と一緒は無理だろう。

 ジェームズはそう考えたのだが、シーラに自慢の扇を顎に刺されながら囁かれた。


「もう一度言いますわね。一緒にお昼を摂りますわよ。これは絶対ですわ!」


 有無を言わさぬシーラの圧に、弟子であるジェームズは「はい」と頷くしかない。

 怒った時のシーラの怖さは初めて会った瞬間から知っている。


 あの暴れん坊と有名だったサイラスを一瞬で手名付け、泣かしたほどの少女なのだ。

 自分は喧嘩に弱いと分かっているジェームズは、シーラに従うしかない。それは弟子として当然の行動だった。







「シーラ、ジェームズ、ここだここ!」


 サイラスが長い手を存分に上げてシーラたちを呼ぶ。

 今日はいつも座るお気に入りの席ではなく、余り人気の無い席にサイラスは陣取っていた。


「話があるって言ってたから端っこの席にしといたぞ、で、彼女は?レイヨウ家のご令嬢だよな?」


 食事を購入しサイラス指定の席に着く。

 サイラスはシーラとは違いレイヨウ侯爵家のご令嬢エブリン・レイヨウの事を知っているようだ。


 実はシーラと出会う前には二人は婚約の話も上がったほどの間柄、一応顔も合わせた事がある為、無言のままぺこりと頭を下げあった。



「彼女はエブリン、私のライバルであり心の友でもありますわ」


 エッヘンと胸を張りエブリンを紹介するシーラ。


「おまえ、(女)友達なんていたのかよ……」とサイラスは驚き。

「二人はライバルなんだ……」とジェームズは同情する視線をエブリンに送った。


 幼いころからシーラと仲がいいサイラスとジェームズは、シーラがどんな女の子かをよく知っている。


 なので心の友と聞いても同情するし、ライバルだと聞いても同情してしまう。


 彼女もまたシーラの弟子となり教育を受ける形になるのだろう。


 頑張れよの意味も兼ねて、サイラスとジェームズはエブリンに温かい視線を送っていた。

 これはいわばエールだ。決して同情ではないし、新しい生贄に喜んでいるわけでもない。


 これからの自分たちの為にも、是非挫折することなく頑張ってシーラと付き合って貰いたいものである。


 サイラスとジェームズは心の中でエブリンに感謝の気持ちと敬意も送っていたのだった。




「それで、エブリン嬢を俺達に紹介したいだけでここに連れて来た訳じゃないんだろう?シーラ、一体何があったんだ?」


 一番先に食事を終えたサイラスが残りのお茶を一気に飲み干しシーラへと問いかける。

 シーラは今日のデザートであるオレンジゼリーを一口食べると、ニンマリと嬉しそうに笑ってサイラスに答えた。


「ウフフ……凄いのですよ。エブリンからの情報なのですけど、実は私……悪女、とこの学園で呼ばれているそうなのですの、ウフフ……」


「「悪女?!」」


「そうなのです。それも男性を垂らし込む生粋の悪女。ムフフ、なんと光栄な事でしょう。シーラ・ランツのまた新しい扉が開かれましたわ。12歳で男性を魅了する悪女。そんな風に呼ばれる少女など、これまで聞いたことがございませんものね。最年少記録かも知れませんわ」


「「シーラ……」」


 オーホッホッホと笑い出しそうな幼馴染に対し、サイラスとジェームズは苦笑いと呆れの視線を送る。


 長い付き合いでシーラが本気の本気で【悪女】呼びを喜んでいる事は分かるが、どう考えても褒め言葉ではない、悪評だ。友人としてそんな噂は許せるはずもなかった。


「それもですね、この私が手玉に取っている男性は、サイラスとジェームズらしいのですわ、面白いでしょう?」


「「はあああ?!なんだそれ!!」」


 賑やかな食堂内にひと際大きな声が響く。

 サイラスとジェームズは視線をエブリンへ向け、彼女が頷いているのを見て、その噂が嘘でないことが分かりガックリ肩を落とした。


 サイラスは自身の婚約者ブレンダ・ラトンにこの噂が届いていないことを「頼む……」と呟きながら祈り始め。


 ジェームズは「シーラが僕を手玉にとってる……」と言って真っ青な顔で震えていた。


 かなり攻撃力の高い噂にサイラスとジェームズは酷い衝撃を受けたようだった。




「それで……その噂の事はウィリアム様に話したのか?」


 先に現実に戻ったサイラスが口を尖らせそう声を掛けてきた。

 シーラに手玉に取られているという噂が不服なのがその表情からも良く分かる。


 だが何故、今サイラスがウィリアムの名を出すのか分からないシーラ。

 当然「いいえ」と答えたが、サイラスは眉間に皺を寄せため息を吐いた。


「ウィリアム様に話さないと、せっかく王族がお前の婚約者なんだから悪評から守って貰えよ」


 サイラスの言葉に今度はシーラが眉根に皺を寄せる。


「……はて?何故ですの?何故この私がウィリアム様に守って貰わないとならないのですか?」


 本気で意味が分からないシーラ。

 悪女と呼ばれることは、悪評でもなんでもなく喜ばしい事だ。


 それにウィリアムは王子。

 守られる側はウィリアムであり、シーラは鉄壁の婚約者でなければならないはずだ。


 それにこれはシーラに売られた喧嘩であり、ウィリアムの手を借りるなど以ての外だ。

 犯人を追い詰めるのはシーラでありたいし、戦うのならば自ら立ち向かいたい。


 まあ、悪女呼びは嬉しい噂なので、サイラスとジェームズがその相手という部分だけ消えてくれればそれでいい。シーラは悪女呼びに対しそんな程度の認識だった。


「ああ、それで心配してエブリン嬢がシーラについて来てくれたんだね、ありがとう、優しいね」


 ニッコリと微笑みエブリンに話しかけるジェームズ。

 その心の中は「とっても優しい良い子」だとエブリンの評価は上々。友人になれそうだとジェームスの中の人見知りな部分が消え、心を開いていた。


「いえ、そ、そんな……私なんて、シーラに迷惑をかけただけで……お礼を言ってもらえるような立場ではないのです……」


 真っ赤になり俯くエブリン。

 噂を鵜呑みにしシーラに声を掛けたので、優しいなどと言われると良心が痛む。本気で申し訳なさがいっぱいだ。


「エブリン嬢は優しい上に謙虚なんだねー」


 シーラと付き合えるだけあって、本当に心が清らかな良い子だと感動するジェームズ。

 そんな二人のやり取りをシーラは生温かい視線を送って見守っていた。


(ふむ、この二人、中々にお似合いでは無いでしょうか。それに私はいい仕事をしているのではないでしょうか。自画自賛ですが私シーラ・ランツ、悪女だけでなく恋のキューピッドでもある様ですわ。ムフフフフ)


 満足そうな様子でオレンジゼリーを食べるシーラ。

 その向かいでは「ああ、噂のことブレンダになんて報告しよう……」と、サイラスだけが相も変わらず落ち込んでいて気の毒なのだった。

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